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5 戦国時代一 はじめに

 囲炉裏の前で男達が話をしている。

 あやめは水を男衆に配っていた。ばっちゃんの五娘達は部屋から出てこなかった。

 ここはばっちゃんの家。四人の娘と長女の亭主とばっちゃんの親戚が住んでいる。

 夜も更けて老神の男が酒はないが水を飲んでいる。


「城主様は何を考えてるだ。城が山の城壁ぎりぎりに建ってるだが、無理だべ。」


 上州の要である沼田城は、山と山の間にあるような絶壁に城がある。反り返る石は見事に立ち並び土台として強固だ。

 

 利根川と薄根川の合流点の北東河岸段丘の台地上に位置する。二つの川側は数十メートルの崖になっている。沼田は北関東の要衝であり、軍事上の重要拠点だ。上杉、後北条、武田といった強い武将たちが欲しがった土地である。


「天文元年から出来た城ば、村すらしらない輩に渡すわけにはなんねえ」


「しかし、今度は誰が攻めてきたべ? 」


「真田軍だ。六文銭が敵だべ」


 敵は棚引かせた家紋を背に背負って、「我こそは、家臣。ナニナニ参上せん!」と声高らかに宣言しないと戦にならない。農兵の多い戦に敵大将の似姿を知ってる者は少ない。


「味方はまるたてもっこうだべ。城主様は滝川様だべな」


「殆ど近場の寄せ集めみたいな兵だべ。鍬を持った方が様になるべな」


「今年は弥彦がおるで、老神の熊ば倒したべ。ならば、滝川様の側で戦えるべ」


「だべ。だべ。なるべく纏まって行動するべ。また、戦ば終わったら村に帰って、湯路宿の手伝いばするべ」


 老神からの増兵は、ばっちゃんの親族である。

 その一人に弥彦は含まれている。


「弥彦だけ城の手伝いばしてるべ。城主様の覚えも目出てえ奴ば親戚におると安心するべ」


「城主様の顔ば拝めるなどとは目出てえ。ばっちゃんも顔ば拝めるか?見といた方が良いべ」


 今敵軍が攻めてくる可能性があるので味方を集めている最中の沼田城主。基本的にはこんにゃく芋畑だが、水田も出来て城下町は通行の要になっている。

 ここより先は赤城の山が難所になり、山を越えて東北へ向かう道になる。


「戦に女、子どもは入るべきでねえ。我が水田に、また、稲穂が六部も実ってねえべ。敵軍の侵攻も分からねえ、危ねえ状態ば、面白くもねえ冗談だべ」


 ばっちゃんは怒った。


「うつけもんがいたら、どう動くか分からん状態じゃけ。夜襲なんてされたら最悪だべ。今すぐ青田刈りでもするべ。何をするにも採れ高がないと租が払えないとどうなるべ?間違えなく、ばっちゃんの田畑が持ってかれるべ」


「だな。青田刈りするべ」


 収穫前の稲を少ない穂が付いた時に刈り入れするのを青田刈りと言って、戦国時代では戦前に収穫した。確かに、取れる米がなくなるより、少しでも米が採れた方がマシだからだ。

 戦で勝っても負けても米が取れなければ、商売にならない。こんにゃく芋は地元で農民が食べているだけで収入源にはならないからだ。


「上の町でも青田刈りを進めるべ。城主様に報告するべ。みんなでやらねば戦が始まっちまうべ」


「ばっちゃん。皆を説得できるかの? 」


 ばっちゃんは黙った。


 こんな傾斜のある家で生活しているのは、ばっちゃんも村に力がない事を示している。だが、このまま何もしないのは危険だ。


「地主様に伝えに言ってくるべ。」


 ばっちゃんは声を押し殺した。

 あやめはばっちゃんから離れなかった。後ろに鎮座している。

 弥彦があやめに近付いた。


「あやめ。もういいから席を外ずすべ。姉さん達と寝ろ」


 弥彦が口を開く。

 男衆が弥彦を睨んだ。

 女が一人残っていたのは、ばっちゃんが男にあてがう為に残したのを意味していた。だが、当のあやめは気が付いていない。呆けている彼女に彼は苛立った。


「部屋へ帰れ! 」


 弥彦が怒鳴った。

 彼は男衆を睨みつける。腰の鎌に手を掛けているのを見た男が一人席を外して、襖を開けた。呉座が敷いてあるので、男は潜った。弥彦の殺気に押されて、男衆が部屋に入っていく。


「弥彦……。おめえ……」


 ばっちゃんが溜息を吐いた。

 

「あやめ。部屋へ戻り……。後は、ばっちゃんが男衆の面倒ば見るだべ。もう夜におらんでよかよ。弥彦、話がある。お前は残れ」


「ばっちゃん? 」

 

 あやめはばっちゃんと弥彦の顔を見た。


「堪忍な……」


 ばっちゃんはあやめに頭を下げた。

 弥彦が頷くと、あやめはばっちゃんの娘達がいる部屋に帰っていく。


 「ばばあ、ふざけた事をしゃがって……。」


 あやめが聞いた弥彦の憤慨した言葉だった。


「あやめば慰み者にして、老神の奴らに家族ば守ってもらうつもりか! 」


「それば何が悪いだ!」


 あやめは耳を塞いで横になった。

 怒鳴り合いは続いている。

 弥彦が何に怒っているのが分からないが、守ってくれた。私は理解出来た。

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