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分水嶺〜群馬の片田舎〜  作者: 木村空流樹


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35 戦国時代二十五 祝言

 日付が変わって矢沢が上物の着物に着替えていると、藤田が家にやって来た。祝いの品に小さく丸めた餅を抱えている。


 矢沢の着替えを手伝っている弥彦に餅を渡し、近隣に配る事を伝えた。


「仲人として参りました。この度はお目出度い事で良い日にしましょう」


「ありがたい言葉。痛み入ります」


 餅をあやめ達のいる女の部屋の前に置いた。


「藤田様から祝いの品だべ!ばっちゃん達、入ってもいいだべか?」


 渋川のばっちゃんが襖を開ける。もう既に留袖を着てたすき掛けをしている。


「矢沢様の支度は終わっただべか?」


「この通り」


 矢沢が上座に座っている。藤田がその隣に距離を置いて座った。丁度、2人分席が空いている。


「では、弥彦の番だべ。」


 餅を隣の部屋に入れると、出来たばかりの袴を持ってきた。女衆全員が一丸となって着物を誂えた。

 女衆は薄っすらとクマが出来ている。


「そこば立ってろ。」


 弥彦は庶民着を脱ぐと肌が黒っぽい。


「仕方がないべ。裏の沢で水浴びばしてこい。髪ばしっかりと流してくるべ。昨日は水浴びすら出来なかっただべ……」


 矢沢と藤田の方を向くと、二人は微笑んで手を振った。家を少し出て歩くと、沢に付いた。そこには弥彦の父親とさよりが楽しそうに手遊びをしていた。


「やっぱり清めないど駄目だったべか?まあ、一番動き回ったのは弥彦だったべな」


 父親は笑った。


「沢にあやめがいるだべ。」


 父親が意味ありげに笑った。

 弥彦は早足で沢へ下ると、岩陰で腰襦袢姿のあやめが髪を水に付けていた。頭から被っている水で髪を流している。


 上半身が露わになっていて、弥彦がたじろいだ。その気配を察知したあやめが髪を手拭いで縛り襦袢に袖を通した。


「すまん。あやめ……」


 弥彦は直ぐに謝った。


「何だべ。弥彦だったんだべな……。良かった」


 あやめがほっとした顔をしている。


 弥彦は庶民着を脱ぐと(ふんどし)姿で沢に浸かった。流石に寒い。しかし、頭まで潜る。


「あやめ。背中ば流してくれ」


 弥彦は手拭いを差し出すと、あやめが嬉しそうに受け取った。






 家では襖を取り去り一つの部屋にして、紅白の弾幕を吊るしている男衆がざわめいた。


「藤田様まで来た……」


 呟いて直ぐに支度を急ぐ。


 土間では料理人と弥彦の母親が忙しくなく祝い膳を作っている。二人では足りない為、留袖を着た笠郷と弥彦のばっちゃんも割烹着を着て参加している。


 渋川と老神は留袖を着て矢沢と藤田の御酌の為に側に居た。


 肝心の弥彦とあやめが帰って来ない。しかし、慌てる風でもなく、淡々と行事を進めている。


 弥彦とあやめの声が聞こえる。


 既に髪が乾いて小綺麗な着物を着ていた。その後を父親とさよりが手を繋いで歩いて来る。さよりも警戒している様子もなく、花を摘んでいる。


 渋川のばっちゃんが立ち上がり、門前まで出て叫ぶ。


「弥彦、あやめ!早よせえ!」


 弥彦は笑いながら、あやめの手を引いた。


「行くべ!あやめ……」


 二人は歩調を合わせるように駆けて行った。

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