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分水嶺〜群馬の片田舎〜  作者: 木村空流樹


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27 戦国時代十八 家

 あやめ達が城から出ると骸が転がっている。沼田兵は舒林寺へ敵味方関係なく運んで行く。


 念仏とお焚き上げをして骨になった位牌を谷に撒くのである。四六時中ほのうが上がり、天高くまで火柱が上がった。無念だ……。無念だ……と云うように。


 あやめは家へ向かった。戦場となった辺りではない。段々畑の中に位置している敵兵も見落とす場所にあった。


 家へ帰ると、扉は中から(かんぬき)がされていて動かない。荒らされた様子もなく、草が伸び放題の庭を見た。


 大葉やドクダミが枯れて山の蔓に巻き付かれている。


 あやめは裏戸から家へ入った。雨戸を閉め切って暗く、何も見えない。


「ばっちゃん!」


 あやめが声を張り上げる。声は聞こえない。


 暗がりから何かが動いた。あやめは後ずさると、矢沢がいる外へ出た。一度矢沢が家の中を見てから、あやめが入っている。だが、矢沢も確認したが人の気配はなかった。


「誰も居ないべ……」


 あやめが矢沢に話し掛けると、戸口からあやめ目掛けて老婆が飛びかかった。


 黒い着物に細い帯のガリガリの女性であった。着物が開けて折れそうな足首が顕になる。


 あやもの首を狙って手を掛け締め付ける。


「お前のせいで……。お前のせいだ」


 老婆は(やつ)れ眼鏡が凹んでいる。下腹が出て乞食のようである。


「みんな死んだ。みんなお前のせいだ……」


 老婆の面影にばっちゃんが写る。


 あやめがばっちゃんを突き飛ばそうとした。その上を行く早さで矢沢が片腕であやめから引きばかして、ばっちゃんを地べたに投げつけた。


 ベタンと倒れ込み、音がしなくなった。肩で数回息をしてから動きがない。


 矢沢が足でばっちゃんをひっくり返すと息をしていないようで動かなくなった。


「なんまんだぶ。なんまんだぶ……。良く生きながらえていたな……。供養してやらないと祟るな……。これは……。布があるか? 」


 あやめは家に入り、押し入れから呉座を持ってきた。


 ふと臭いがする方を見ると、ばっちゃんの呉座が爪で引っ掻かかれて糞尿が染み込んでいた。黒く変色した呉座はばっちゃんの寝床だったのだろう。


 茶碗に箸が転がっている。


 ばっちゃんは壮絶な最期を迎えるとは思わなかった。全てを恨み。助けていたあやめまでも死ぬ間際まで恨んでいたのだ。


 子供達が自分を捨てたのはあやめのせいだと……。誰も助けてくれないのはあやめのせいだと……。


 あやめはその場で手を合わせた。悲しくはなかった。不思議と涙はでなかった。ただ現実があるだけ……。


 「迷わず成仏して下さい。ばっちゃん……。優しくしてくれた時もあったのに……」


 あやめはばっちゃんが優しかった記憶はなかった。たが、最期ぐらい思い出したかった。



 矢沢がばっちゃんの亡骸を呉座に包んで、舒林寺の火に投げ入れた。無念だ。無念だ……と黒い煙が空まで舞い上がった。


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