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分水嶺〜群馬の片田舎〜  作者: 木村空流樹


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24 戦国時代十五 離脱

 矢沢達一行は真田昌幸の前に通された。


 上座で床几に座っている昌幸が瞳を閉じていた。文机だけしかない板間にいる。襖が一枚もなく、人の声が聞こえる六畳にいる。廊下を挟んで直ぐに庭があった。


「昌幸……。沼田の敵兵は大分割いたぞ」


「早馬ですら状況が判断出来ない。思っていたより北条氏足軽の動きが早い。合戦の時間が早く終わる」


 真田昌幸は弥彦が思っていたよりも若い。だが、静かに目を瞑っているだけで恐ろしい憎悪が見て取れた。


「そちらは……」


「藤田もどきだ……。滝川の名を語っていたのは、こいつだ。沼田城に藤田信吉は残して来た。藤田信吉は、国衆の一人 用土新太郎だった。」


「名を変える時期だったのかもしれないな……。手紙には何と? 」


「お館様宛に一通。表書きには用土新太郎と……。中身は藤田の性を名乗る事に許しを得る内容だった」


「成る程……。なら前線に藤田もどきを立てればよい。北条氏も首を取れば納得しよう」


 昌幸はゆっくりと目を開け、柏手を二回打った。


 奥から甲冑姿の真田軍旗を掲げた歩兵が二人来た。廊下の板場に片膝を立てて座った。


「この者を前線へ 助けず逃げないように見張れ。旗印はまるたてもっこうで構わない。」


 弥彦が沼田城から連れてきた替え玉の馬印は一人だけまるたてもっこうだった。他の兵は真田軍の六文銭だったのに……。


「い、っ嫌だ!まだ死にたくない! 」


「滝川の名を名乗ったなら、織田が興味を持つかもしれぬ。神妙に致せ。連れていけ……」


「いっ……」


 藤田もどきが歩兵二人に連れられて行く。言葉を封じられた侭……。


 足を引きずる音がな生々しく響く。


「そして、弥彦と言ったか?この合戦では一番の功労者かもしれぬな……。オジキ……矢沢が気に入る等珍しい。」


 昌幸の方が年齢は下だが矢沢よりも身分が上である。


「お褒めの言葉、至極恐縮致します」


 矢沢の瞳がザワッとした。


「駄目だぞ。弥彦は私が育てるのだからな……」


 矢沢の声を無視するように昌幸は続ける


「お館様が南下している。早馬で戦況を届けてはくれぬか……」


 矢沢が口を挟む。


「合戦は始まったばかりだ……。」


「沼田の国衆が武田軍に付く事を伝えに来た。北条氏邦には付かない」


 手紙を胸から出して矢沢達に見せた。金子備前守もいる。


「なら敵兵の数も半分……」

 昌幸が目配せする。


「早くに合戦は終わるな……」

 矢沢が頷いた。


「藤田の刀。矢沢の短刀。二つを持っている弥彦が適任かもしれないな……行って来い。武田軍 勝頼殿なら取って食われはしまい」


 昌幸と矢沢は目が合った。

「信玄公なら既に沼田に来ているだろうな……」

「最前を張っていらっしゃっただろう……」


 二人は遠くの空を見詰めた。


「いってこい」

 矢沢が頷いた。


 だが弥彦は下を向いていた。


「弥彦?」


「刀はない……。あやめに渡しただ……」


 昌幸が目を丸くする。


「誉をおなごに託すとは……、あっぱれな……。」

 昌幸が声を殺して笑っている。


「お前なあ……」

 弥彦を前にして矢沢が目に手を当てている。


「おなごに渡したなら印として打刀を私から渡そう。勝頼殿も見知っている打刀だ」


 昌幸は自分の刀を腰から解いた。弥彦の前にかざす。弥彦は両腕を頭の上に突き出している。その上にそっと刀は乗せられた。


「超絶至極……。この刀に恥じぬように生きまする」


 刀を受け取ると、弥彦は腰に吊るす物がないと困った。直ぐに弥彦の身なりが二人乗りに耐えれるよう軽い藁で出来ている事に気付く。


「真田の甲冑を着よ」


 昌幸は柏手を二つ叩いた。奥から二人歩兵が出てくる。廊下に立て膝で座る。


「この者に甲冑を着付けよ。」


 兵は立ち上がり、弥彦を見た。弥彦が二人の後に続く。


「ここに戻ってこいよ。勝手に合戦に合流するな。」


 矢沢がキツめに言った。


 弥彦は頷くと歩を進めた。


「昌幸……。奴は良いだろう……。私に初対面で一太刀入れようとした……」


「オジキに?ならば余計に欲しいな……」


「駄目だ。駄目だ。沼田におなごを残しておる。沼田からは出れまい」


「下剋上の時代にか?珍しい……。位よりもおなごを取るのか……。余計面白いではないか!」


 昌幸と矢沢が笑っている。

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