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分水嶺〜群馬の片田舎〜  作者: 木村空流樹


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23 戦国時代十四 山

 弥彦は馬で山道を疾走していた。


 人が数名通れるかの獣道である。

 飛び出す枝や葉で顔や腕が傷だらけになるが、馬を止める訳にはいかない。早く沼田から敵兵を誘き寄せねばならない。

 流れる景色の中、狸が飛び跳ねて逃げている。

 止まる訳にはいかぬ。


 弥彦の後ろに乗っている替え玉から力が抜けた。咄嗟に槍を投げ捨てると、替え玉の腕を担いだ。彼は気絶しているのである。


「どうした!」


 矢沢の怒鳴り声が聞こえる。


「替え玉捨てて行く訳には、いかねえべ。槍は捨てる!」


 前から敵兵が出てきたら恐ろしくなった。だか、縄で腰を固めるように二人は結ばれている。替え玉を捨てるのは忍びない。無理やり馬に乗せた替え玉に生き伸びてもらわねば困る。


 最後まで旗印になってもらわねば困る。


「行くぞ!」


 弥彦は馬を早めた。


 連なる弓兵と距離が開く。矢沢達は食らいついて、駿馬から離されないようにしている。馬達が道を覚えているのだ。


 弥彦と登った山道を五頭は嬉しそうに駆けている。この馬達の爺さんが足が速かった。兄弟馬なのである。


 只管、馬を進めると、山道に差し掛かった。だが速度は落とさない。替え玉の藤田が着ていた甲冑がカタカタ揺れた。


「後、少しだ」


 直線に近い山道を上がらなくてはならない。


「お前達ならやれる。登るぞ!」


 落馬の危険性がある。だが、弥彦の馬は前脚を包み込むように蹴り上げた。


 足元に木の根や石が見て取れる。馬は器用に避けて登っていく。速度は落ちる。しかし、後ろから敵兵はやって来ない。



 その後を続くように弓兵、矢沢、護衛二人が駆け上がっていく。


 木々が拓けてくる。山頂に登ると小高い平野が出来ていた。真っすぐ進むと目的地が見える。


 名胡桃城の陣地に入ったのである。


「弥彦!進め!真っ直ぐだ!」


 矢沢が叫んでいる。


 拓けた整地を踏みしめて進むと、城が間近になる。

 城を守るように何重にも塹壕が掘られている。近づかなければ見落とす幅だった。


「塹壕に飛び込め!」


 馬を止める。弥彦は替え玉の縄を切り、彼を塹壕に蹴り飛ばした。


 直ぐに塹壕に飛び込むと、逃げようとしている替え玉の腰縄を握りしめた。


「諦めろ!逃げられねえべ。殺されたくなければ大人しくしてろだべ!」


 弓兵が塹壕に滑り降りて来た。弓を替え玉に構える。


「藤田もどき!観念せえ!」


 矢沢が塹壕に滑り降りると、辺りが静まり返った。


 蝉の羽音が聞こえる。


 その時である。

 人の唸り声と共に追撃してきた敵兵が平地に姿を現したのだ。その数は百いかないだろうか?


 細い道を這い上がってくる三つ鱗の旗。


 人数が増えていき平地から真っ直ぐ名胡桃城を攻め落とそうとしている。


 弥彦は突進して来る敵兵を塹壕から見詰めた。矢沢に手綱を渡し、刀に手を掛ける。


「矢沢様か? 」


 真田の旗を背負った身なりの良い甲冑の男が尋ねた。塹壕を走って来たらしく汗が滴っている。


「武田軍、矢沢頼綱。昌幸の使いか? 」


「館様がお待ちです……。こちらへ……」


 矢沢の後を追うと、矢沢の護衛が替え玉を挟んで連れて、弥彦の前へ出た。


 塹壕の奥から味方が小走りに出てくる。山の端から味方が敵兵へと準々に進んでゆく。遠くから、徐々に味方を増員している。


 塹壕を乗り越え、一番槍の名誉を手にしんとする猛者ばかりである。


 名胡桃城を守る鶴翼の陣をとっている。


 弥彦が驚きで、見惚れていた。武将とはいかなる存在なのかを知った。これが真田昌幸の手腕。


「でも、上杉軍に負けた陣営だべ……」


「何か言ったか弥彦!」


「何でもねえべ……」


 弥彦の後に弓兵が続いた。

 弥彦は刀から手が離せず、弓兵も射る格好を地面に向けて歩いている。

 

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