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分水嶺〜群馬の片田舎〜  作者: 木村空流樹


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22 戦国時代十三 駿馬

 あやめには戦況が分からなかった。


 藤田があやめに何かを話すが、聞き取れない。足から震えだし、立っている事すら出来ない。やっと壁にもたれ掛かって、格子から見ている。


 田んぼが戦場と化していた。足軽達は槍で応戦している。徐々に三つ鱗紋の旗が増えて行く。


「やはり氏邦の兵力が勝るか……。矢沢様の兵力を合わせても半分もいきますまい……」


 真田の旗が倒れて行く。


「弥彦は……?弥彦はどこ……?」


 藤田は指先を遠く示した。


「前線……」


 あやめは声を聞いて震えが止まらなくなった。


『あやめ、行ってくる……』


 弥彦の言葉が頭を巡る。何故、私は言葉を返さなかったのだ。何故、何も出来ないのだ……と。


 迫り上がってくる三つ鱗紋の旗を見ながら、沼田城の大門が開いた。援軍を送っている。だが、数が少ない。


 それでも、沼田軍は好戦している。血族で作られた班が何組も連なって、守っている。


 北条氏の軍は平野に出きっていないようだった。上がってくる槍兵が三つ鱗紋の旗を背負っている。


 怖いと言葉が出ないあやめに、藤田が彼女の背を押した。


「もっと高くなくては見渡せまい。弥彦の雄姿、見届けねばなるまい……」


 あやめは天守の最上階まで押された。格子窓から外を見渡す。


 城内も慌ただしく、人が動き回っている。槍や弓矢を持って足軽が戦闘配置に着いている。


 城外で戦っている味方の足軽が少ない。


「ほら、あそこをごらん」


 藤田が大手門が開くさまを指先した。

 全開に開かれた門から馬が連なって駆け出して行く。


 水を抜いた田んぼの畔道すら楽々と飛び越える。


 馬は五頭。道も関係なく一直線に敵陣を横切るように向かっている。


 前衛に弥彦を置き、弓兵で弥彦を守り、腕の良い護衛が矢沢を挟んでいる。


 馬は加速していく。


 弥彦は槍で敵陣をかすめ、弓兵が前に出ようとする足軽を射抜く。


 一目散に向かっている先には獣道がある。


「大将首だ! 」


 矢沢の事ではない。弥彦の後ろに藤田の代わりを演じていた替え玉が乗っている。替え玉に馬印が付いている。


 敵のどよめきと馬印を後から追う足軽で敵兵が散ってゆく。


 馬は最短で疾走していく。


「敵全軍がこの一戦に加わる筈もない。数回に分かれて攻めてくるつもりだろう。だが、私の替え玉を使って敵を誘き寄せれば沼田は平穏になる」


「でも、馬で男の二人乗りなんて……」


 あやめが困惑している。


「鞍に乗っているのは弥彦。逃げないように弥彦の馬に乗せられている替え玉は、あやめを乗せた馬。弥彦が選んだ馬だ。一番馬力があり、駿馬だ。二人でも逃げ切れると踏んだ」


 弥彦一団は槍と弓で逃げて行く。


 直ぐに獣道を下って行く。馬達に躊躇いはない。


 その後を追う敵兵と指示を仰ぐ為に撤退していく敵兵。沼田軍は深追いはしない。


 五頭の馬の蹄の音が遠くなると合戦で殺り合っている怒声がなくなっていた。


 敵兵が引いていったのである。

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