2 群馬へ
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日曜日の高崎線は混雑はしていなかった。
リュックサックにカップ麺とレトルトをしきりに詰め込んでから熊よけの鈴を付けた。
カランカランと音がするが、座っていれば鳴らない。高崎線のホームの乗り換えで昔の古ぼけた感じがしない場所へと変わっていた。
上越線の乗り換えは多くない。ホームから高層郡のない街並みをみた。アパートもちらほらある。空気が熱中症アラートを出しているの。
4両編成の電車が停まり、電車の扉が開かない。後ろから見た乗客が扉の開閉ボタンを横から押した。
クーラの冷気が頬に触れると、私は慌てて乗り込んだ。
扉側の席に座る。乗ってきた乗客が閉めるのボタンを押すと、他の人の姿がなかった。
私は心配になりスマホの画面を見る。乗り間違いはない。
ガタンと扉が開いて、人が数人乗ってくる。まだ発車時刻ではない。あたり前のように乗客は閉めるのボタンを押す。
人が学生に変わると、電車内は人で込み始めた。直に、車掌の電車内アナウンスがある。ゆっくりと電車が滑り出す。
二時間は乗らなくてはならない。少し目をつむり電車に揺られた。
ああ、確かあの暑い夏の日に出会った人が居た気がする。
山の中だった。私は浴衣を着て貯め沢に着物を漬けていた。経血を流す為に慌てて擦る。
近くの爺、婆に見られたら大目玉を食らう。「浴衣を血で汚すなんて、だらしない。たがら、両親のいない娘などいらないわ」と耳にタコが出来るほど言われている。
私は農家のもらわれっ子だ。戦国時代に死に別れた子どもなど頭数に入らない。たまたま、ばっちゃんに助けられた。
同居してるのは、ばっちゃんの家族で女ばかり。息子は農民兵で兵役に取られている。
沼田城のお膝元に段々畑があるばっちゃんの藁葺き屋根。そこは縫うように水田から無理矢理道を作った山の傾斜を利用して開墾した場所だった。
水を絞り浴衣を風に晒すと、色が落ちている。
「下の方で汚え。水ば飲ますな」
藁組の甲冑を来た弥彦が怒っていた。
太陽は真上を向いている。この時間なら誰も家の近くにいないと思って、私は驚いた。
「なしている」
「城に駐在している兵の方がこの時間なら少ないぞ。殆ど水田に出てる。あやめも水を取りに来たと思った」
女ばかりの家では危ないと、ばっちゃんの息子も夜は家に帰ってくる。その親戚の若者達も老神から家に呼ばれて大所帯になっているのだ。弥彦もその一人だった。あやめと同い年である。
「なんで甲冑なんて着てるべ」
「今日は城内で馬の世話当番だった。だが、水瓶の水が足らんで、城から足抜けした。ばっちゃんにあやめが居ないと聞いたから……。だから……」
弥彦は心配で見に来たとは言えない。
「だからってなんだべ」
「いや、なあ……。飯を食ったか……」
あやめは身を翻して、着物を干しに行った。弥彦は無言で後を着けて来る。
太陽は高いところを通っている。
ガタンガタンと電車が揺れて行く。
トンネルを抜けて山の中を通っている。もう家々は見えない。橋の上を通ると深い川が流れていく。
肌の感覚で熱が抜けて行くのが分かる。
渋川を越えると人が降りるのが少なくなった。温泉街で有名な土地だった。今でも有名だ。
数名を乗せて電車が行く。
外の景色が森ばかりになった。
揺れるスピードが速くなると、沼田の駅は直にだった。
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