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分水嶺〜群馬の片田舎〜  作者: 木村空流樹


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17 戦国時代八 家族

 あやめはばっちゃんの家族とは距離を取って待機していた。開けた道で弥彦とさよりとで歩いた道とは違う。家族で人数がいる。だから、この道を選んだのだろう。


 さよりは実母に支えられながら歩いている。

 皆も同じ歩調で歩く。まだ、開けた町外れ、民家がある。あやめは隠れながら進む。


 矢沢の計らいで城は明け渡された。北条氏の残党がいても、今の六文銭の兵力なら問題はないだろう。だから、家族で逃げる必要はないのだ。だが、あやめはそれを伝える勇気がなかった。


 ばっちゃんに命令された通りさよりの家族が逃げる姿を追っている


「弥彦が矢沢様に伝えに行った事が気になる……」


 弥彦は何を観たのだろう。

 さよりは捕まっている時に何をされたのだろう。


「分からない事だらけだべ……」


 山間の道に子供達が駆け上がって行く。

 藪から甲冑を着た男達が迫り上がって、子供の首を掴むと捻った藪の中まで連れ込み、刀を振るう。

 血生臭さが辺りに漂ってきた。


 あやめは助けようと道に出ようとしたが足がガタついて動けない。


 散り散りに逃げようとする女達を、力ずくで藪の奥に引っ張り込む。家族の数より残党の方が多い。持ち上げられて、連れて行かれる。


「だ、誰か……」


 あやめの声は届かない。ここいら一帯は青田刈りをして収穫したばかりである。人通りがあるはずもない。民家に人の気配はなかった。


 あやめはカダカだと震えながら悲鳴を聞いていた。

 男達の声も女達の叫びも聞こえなくなってから、数分もなかった。だが動けなかった。


 蝉の鳴く声が聞こえてくるとあやめは、恐る恐る道に出た。

 

 血飛沫もなく一見は何も変わりがない。だが、木の幹にしがみついだ跡や、爪跡、藪が根元から踏みつけられている。何かがあったのは分かる。


 ジジジと音がする。


 強い熱気でクラクラしながら、あやめが呆然と立っている。

 纏わりつく暑さに右も左も分からなくなると、遠くで声がする。


「あやめ!」と遠くで声がする。


 馬の蹄の音と弥彦が叫んでいる息遣いがした。


 弥彦はあやめを乗馬しながらかっ攫うと、腕の中へ抱き抱える。馬が驚いて歩幅が乱れたが、直ぐに来た道を折り返して行った。


「ばっちゃんから堀上村に行くと聞いて、追い掛けて来た。あの道は北条氏の溜まり場になっている……。矢沢様が無血開城させたのも知らない輩達だ。藤田様の敵対勢力を抑え込まねばならない。あやめ……」


 弥彦にしがみ付いてあやめは泣いていた。


「もう、嫌だ!痛い思いも、辛い思いも!なんで……!何で……!」


 弥彦はあやめを支える力を強くした。


「これが戦というものだからだよ。女、子供関係ない……。城下は籠城する事を決めた。老いた者以外は働き手として残る。女子供は敵の少ない道から川下へ逃げている。」


「でもどうして!さよりに川下へ逃げろと言わなかったの!」


「北条氏は元は武蔵野の破落戸だ。川下から攻めてくると思ったんだ。だが、兵は既に配置されていた。藤田様がどこまでご存じかは分からないが……。山は危ないとは伝えた筈だ。」


「でも、でも!どうして!」


 あやめの力が一層強くなっていく。弥彦は優しくあやめに問いかけた。


「あやめ。あやめ。すまなかった。」


 弥彦は抱き留めている腕に力がこもった。

 ハラハラと泣くあやめを気遣いながら、前を力強く見据えて、馬の速度を早めた。

 彼らは城への道を駆け上がって行くのだった。



 




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