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分水嶺〜群馬の片田舎〜  作者: 木村空流樹


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16/28

16戦国時代八 家族

 あやめは矢沢に聞いた。


「もう私は帰っていでしょうか……」と問うと、矢沢は驚いた顔をしてから、「何故、そう思う……」と聞き返した。


「私の役目は終わったべ。弥彦は私が居なくても、矢沢様に従うと思う」


 目を丸くしながらガハガハと笑い、矢沢が頷いた。


「城に入る時は、六文銭の兵士に【薬玉のあやめ】が着たと伝えよ。これでお前の事だと分かる。要は隠語だ。お前達のおかげで戦で疲弊している藤田を説得するのに役に立った。味方の農兵が私に間者として使われていると知ったら誰でも他も裏切るやも知れぬと思うわ。身内から攻撃されている以上にな……」


「戦は分からない……。どうなるべ?」


「知らん……。でも、戦も分からん沼田の兵の助けにはなろう……」


「なら、私は帰るべ。城内に女が居るのは不吉だべ」


「主の妻子なら不吉とはいわれまい。まあ、あやめには弥彦が居るから家に帰った方がいいだろう。城下の女と同じ行動をとれば良い。良いなあやめ、薬玉だ」


 あやめは深くお辞儀をし、天守閣から下がる。

 藤田も横目で見ているが、沼田城から見える名胡桃城を又眺めている。武将二人は話を始めた。



 青い空は戦火関係なく高かった。


 あやめがばっちゃんの家に帰ると、さよりが先に帰されていた。弥彦と合流した兵がさよりを逃がしたのだ。大事な時に居ない事をあやめは怒鳴られる。


「さよりば残して帰って着ただか!」


 ばっちゃんと娘達がさよりを抱きしめている。


「六文銭の奴らから弥彦が助けに来てくれただ!走りながら、六文銭とは別れて家まで送ってくれたべ。野良兵が居るから逃げろって……城主様に伝えに行くってたべ」


「弥彦は何処へ逃げろって?」


 あやめが声を掛けると、さよりの母親達が怒鳴り声を上げた。


「さよりを助けなかったあやめが悪い!」と言っている。あやめは黙って聞いていた。こうなっては聞いて貰えない。下を向いたまま項垂れていた。

 黙って耐える。あやめはその方法しか知らなかった。


「掘上村まで逃げるべ。ばっちゃんには悪いが、私達だけでも逃げさせてもらうべ。あやめはばっちゃんと居ろ。お前は役立たずだべ」


「さよりば守れなかったおなご等要らぬわ」


「後は子供達も連れてくべ。おなご全員で逃げるべ」


 そそくさと、女達は自分の着物や貴重品を風呂敷に包んで行く。直ぐに身支度が整えられると、子供達の手を引き、ばっちゃんに挨拶をした。短く会釈だけする。


 ばっちゃんは仏頂面のまま座っている。


 あやめは女達が出て行くのを見詰めていた。二人だけになった時、ばっちゃんが声を出した。


「掘上村までついて行け。あやめ……。必ず掘上村まで離れた所で見守れ。そうしたら、家まで帰ってこい」


 ばっちゃんが何をしたいのか分からず、あやめは困惑した。だが、一人ではばっちゃんは生きては行けないだろうと思った。


 直ぐに頷くと、声の遠くなる女達の後を追い掛けて行くのだった。







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