15戦国時代七 分水嶺
藤田と矢沢とあやめは階段を上がってゆく。
天守閣の中には槍と刀が納められており、米俵が山積みにされていた。そこを抜けて、雨戸を開くと沼田の山々が一望出来る。
山の山頂に城が出来ている。
「良い所に城を作られた。名胡桃城と名付けよう。」
藤田がぽっりと呟く。感慨深そうにしている藤田を少し見詰めていた。
あやめは矢沢に聞いた。
「藤田様は北条氏出身でしたよね。何故、北条氏が北条氏の沼田城を落とそうとしているのですか……」
「北条氏は公家の出身だ。京都から逃れて、このような辺鄙な場所にいて燻るなと言う方が難しい。何派にも分かれている。お家騒動は昔からのある事だ」
「藤田様を良く思ってない身内が攻めて来ているのですね」
「大丈夫だ。沼田は私達の配下になる。私の甥、真田昌幸がこれから入城する。六文銭がこの城下を守るだろう」
「弥彦が戦に行かなくてすむのですね」
矢沢が表情を硬くした。
「すまぬが、弥彦は連れて行く。戦は広まるだろう。だが、弥彦は私の元で武士として育てだいのだ。あやめは嫌か?弥彦は私に着いて来るだろう」
あやめの髪を巻き上げて風が吹く。
「止めても無駄でしょう……」
「待つか……」
「分かりませぬ。私を貰いたがる夫が出てきましょうか?」
矢沢が首を傾げた。遠くを見てから、溜息を吐いた。
「不躾な質問だったな。武士を待つは戦火だけだな」
あやめは黙った。矢沢が名胡桃城を見やった。
藤田が扇を遠くに差した。
「山肌から赤城の山々が見える。太古の昔に下野の国の男体山の神と上野こうずけの国の赤城山の神が領地争いをした広い高原がある。今の世の戰場のような場所だ。」
矢沢が頷いた。
緑の山からは村人が管理されていて青々している。
「神話、大蛇と百足の戦いですな。大蛇が百足の目を射て赤城の山が勝った。ここら一帯に蛇が多いのはそのせいかと……」
「大蛇と言えば、もっと向こう滝や川を渡って道を分ける分水嶺がある。その水は三か津(新潟県)に流れて行く。大きな流れに私は流されようと思う。明日の昼間に名胡桃城に動こうと思う。旗を滝川から真田の旗に変えようぞ」
「今日中には名胡桃城から軍を引きましょう。弥彦達が武田の軍を引き連れて着ましたら……」
「私と入れ替わろう」
二人は頷いて分水嶺の方を見た。
あやめは二人を見詰める事しか出来なかった。
村が焼かれる事はなくなった。だが、遠い地で弥彦が戦わなくてはならない。
戦場ヶ原の何もない場所で彼は息絶えるだろう。唯一自分を気に掛けてくれた人が居なくなる。
村にすら居場所のないあやめには寂しさが込み上げた。誰も気に掛けてくれる人がいなくなる。一人で居る時よりも孤独だった。
「弥彦に会いたいな……」
空虚な声は山々に吸い込まれただけだった。




