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息抜きの息抜きです。心の赴くまま更新していくつもりですので楽しんでいただければ。
「ルーナ・エトワリエ公爵令嬢、貴殿を王族暗殺未遂の罪で処刑とする!」
__ああ、どうしてこんなことになったのだろう。
窓もない牢獄の中、ずっと考えていた。
私の何が悪かった?
貴族なんかと嫌悪して私たちを拾った実父のことを蔑ろにしたこと? 恵まれた子を気に食わないと冷たい態度を取ったこと? スラムのならずものの甘い言葉に唆されて殿下たちを殺そうとしたこと?
(それとも……)
「お願いです、通してください!」
「いけませんソーレ様! あれは今や大罪人、貴方が言葉を交わすような者では……」
……兵たちに囲まれた向こうであの子の声が聞こえる。
「お姉ちゃん!」
(まだ私のこと、お姉ちゃんだと思ってくれるんだ……)
嬉しさと情けなさで、目のふちが熱くなる。あんなに冷たくしたのに、優しくしてあげられたことなんて全くなかったのに。王族暗殺なんて、国の大罪を企てたのに。……それなのにまだ、お姉ちゃんって思ってくれてるんだ。
「……」
目の前の毒が注がれた杯を手に取る。これ以上、覚悟が揺らがないように。あの子の声で未練が残ってしまわないように。
「__ガラシア王国に、永遠の栄光を」
杯を一気に傾ける。喉が焼けるように熱くなって、体に苦しみが走る。体中が痛くて苦しくて、国賊には正しい罪だなんて頭の片隅で思った。
「ルーナお姉ちゃん……!」
「ソーレ様!」
滲む視界にぼんやりと、大好きな子の輪郭が見えた。
「……」
ぽつり、一筋の後悔が目からこぼれ落ちる。
(……私の何が悪かった?)
それはきっと、妹に優しくしてあげられなかったこと。あの子の側にいられなかったこと。
__最期まで、愛してるって言えなかったことだ。
「はぁーーーーー何それ鬱すぎない!?」
部屋の中、私は叫んだ。時刻は朝の七時、リビングにいる母親からうるさいという注意の大声に声のボリュームを下げつつ目尻に浮かぶ涙を拭う。
今私が読んでいる電子書籍は私が大好きな乙女ゲームのスピンオフ作品、本編の悪役令嬢視点の物語という乙女ゲームの商品としてはちょっと意外なものだけどそのネット評価はまさかの星五中星五。今や全ユーザーが涙した神作品と名高いものだ(ちなみにあまりの救いのなさから鬱量産機とも言われている)。
「まさかあの冷酷な悪役令嬢にそんな裏設定あったとかさぁ……もうほんと不器用すぎるってお姉ちゃん……」
この本を読むと誰もがヒロインの姉である悪役令嬢推しになる、なんてネタバレなしのレビューで熱弁されていたがその通りだった。
「本当は妹大好きで、でも劣悪な育ちから守り方が分からなくて空回ってばかりだったとかさぁぁあ……!!」
私はベッドの上で足をばたつかせる。そうして暫く感傷に浸った後、すぐさま二次創作のサイトに飛んで検索をかける。見てみれば予想通り、例の悪役令嬢とヒロインの幸せほのぼの二次創作が大量に発掘されて私は涙目になりつつそれを見て心を癒す。
「やっぱり二次しか勝たん〜……って、なにこれ?」
適当に作品を見ているとその中に一つ、一際目を引く作品を見つけた。それは悪役令嬢が主役で、本編の流れをなぞりつつヒロインと仲睦まじく過ごしている物語だった。
「〜!! これこれ、こういうのだよ! 尊いみの国なんだが?? いくら支払えばいい感じかなこれ」
まあお金は払えないので、代わりにできることは全てやろうと高評価に感謝の言葉を残そうとコメント欄を開き感謝感激雨霰といった万感の思いをオタクの語彙力の限りを尽くして書き連ねる。
「うわ、この人沢山悪役令嬢とヒロインの絡み書いてらっしゃる! 神すぎんか〜……?」
まずは全て目を通して、と思ったが残念なことにそろそろ登校しないと遅刻しそうだ。泣く泣くスマホを閉じて鞄を背負い家を出る。
「ちょっと、あんた朝ごはんは?」
「帰ってきたら食べる!」
それじゃ夕飯になるじゃないという母親のツッコミを避けて家を出る。うちの学校は遅刻に厳しいから数分でも遅れると怖ーい教育指導の先生に詰められるのだ。
「いってきまーす!!」
あ、名乗り遅れました。といっても名乗るほどの者ではないから私は一般通過女子高生オタクのAとでもしておこう。
私は本来はリズムゲーや戦闘ゲームといった方を好むゲーマーなのだが実は一つだけ、夢中になってる音ゲーならぬ乙ゲーがある。
それは実は乙女ゲー界隈じゃなくても名前を聞いたことはあるというくらいには人気なものでストーリーの作り込みやキャラ一人の背景も凝っている。ストーリーは乙女ゲーというよりは女性向けのアドベンチャーゲームといった感じだから乙女ゲー民以外の層にもウケが良かったりする。かくいう私もその一人。
そして私の推しはヒロイン……だったのだが、そこに悪役令嬢も追加された。ちなみに悪役令嬢は作中で何人かおり、私の推しかつ書籍化された子は序盤で退場していった子だ。その後くらいからだんだんストーリーが盛り上がっていくからか、なんだかんだ最後には忘れられがちなのでまさかこんな背景を書き上げたストーリーで運営からぶん殴られるかと思わなかった。夜道、背後をナイフで刺されたくらいの衝撃だ。
「っと、信号もうすぐ赤になりそう。早く渡ろっと」
信号が変わる前に渡ろうと駆け足がちに踏み出した時。けたたましいクラクションの音が鼓膜に響いた。
「?」
視線をそちらの方に向け、暗転。強い衝撃がして、私は意識を失った。
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