2
ふと目が覚めた。
時計を見ると、眠ってからそれほど時間は経っていなかった。
そして気づけば信じられないことになっていた。
さっきまで目の前にあったはずの死体がなくなっているのだ。
俺は慌てて狭い山小屋を隅から隅まで何度も見たが、やはり死体はない。
――えっ、なんで?
ひょっとしたら、誰かが来たのだろうか。
俺は小屋の戸を開けた。
外は相変わらずのとんでもない吹雪だ。
こんな中、誰かが来て死体を運んで行ったとは考えにくい。
それも俺に気づかれることなく。
眠りはそんなに深くはなかったはずだ。
ありえない。
考えられない。
それとも死体が一人で歩いて小屋を出て行ったとでも言うのか。
――これはいったいどういうことだ?
俺は最初に死体を見た時以上に混乱した。
そして考えた。
考えたがなに一つわからない。
この状況でするべきことがなにも思いつかない。
しばらく困惑していたが、俺はそのうちに食料を取り出すと、食べはじめた。
こんな状況でも腹は減るのだ。
かなりの空腹感があり、俺は本来なら残しておかなければならない食料の一部までも食べてしまった。
満腹になると、また睡魔が襲ってきた。
混乱し、困惑したままで眠れるとは思わなかったが、やがて俺は再び眠りについた。
目覚めた。
どれくらい眠っていたのだろう。
どうやらずいぶんと長く寝ていたようだ。
そして気づいた。
目の前に男の死体があった。
眠る前には消えていたはずの男の死体が。
背筋に寒いものが走る。
俺の全身はガタガタと震えだした。
そのまま死体を凝視していたが、俺は立ち上がった。
よろけてこけそうになりながら。
もう我慢ができない。
こんなところにはこれ以上一秒たりともいたくはない。
俺は震えて言うことを聞かない手でなんとか身支度を整えると、外に出て、急いで戸を閉めた。
外は相変わらず猛烈にふぶいている。
ほほに当たる風は痛く、数メートル先もまるで見えない。
この吹雪の中移動するのは、はっきり言って自殺行為だ。
命の保証がまったくない。
しかし俺はそのまま歩き出した。
死ぬかもしれない。
いや死なないほうが不思議なくらいの吹雪の中を、俺はそのまま進んだ。
終