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山に登った。
真冬に。
夏だろうと冬だろうと、山に登る。
今日の天気は快晴と言うことだったのだが、山の天気はまるであてにはならない。
吹雪だ。
前がよく見えない、と言うよりも、目もまともに開けていられないほどの猛吹雪だ。
それも突然に。
さっきまで雲一つない青空だったと言うのに。
――確かこの近くに山小屋があったはずだが。
絶望的なほどに視界が悪い中、なんとか小屋にたどり着いた。
もう運がよかったとしかいいようがない。
転がり込むように中に入る。
入ると、隅に男が寝ころんでいた。
目を閉じて仰向けに。
服装から登山者のようだ。
この山小屋は登山者以外が利用することはまずないのだが。
「ちょっと失礼します」
返事はない。
どうやら眠っているようだ。
とりあえず荷物をおろして座る。
そのまま男を見ていたが、微動だにしない。
寝返りもなければ寝息も聞こえてこない。
寝ていると言うには違和感がありすぎる。
――ひょっとして……。
俺は男に恐る恐る近づいた。
口と鼻に手を当てる。
男は息をしていなかった。
念のため脈をみる。
なかった。
つまりこの男は死んでいるのだ。
――ええっ!
でもどうしてだ。
少し前までは完全に晴れていたのに。
遭難して死んだとしたのなら、あまりにも早すぎる。
崖から落ちたと言うわけでもなく、この男は山小屋で死んでいるのだ。
戸惑った。
迷った。
見知らぬ死体なんかとさして広くない山小屋で、一緒にいたくはない。
当然だ。
そうかと言ってこの猛吹雪の中、外に出るわけにもいかない。
そんなことをすれば、自分が死体になってしまう可能性が高いのだ。
それはいくらなんでもできない相談だ。
腹を決めた。
このままここにいよう。
やせた中年男の死体と一緒に。
相手は死体だ。
動くこともしゃべることもないのだ。
一旦そう決めると、思ったよりも落ち着きを取り戻してきた。
おまけに眠い。
疲れているのだ。
死体を見ていたが、俺はやがて眠りについた。