えんぴつ返して!!
彼には、借りたえんぴつを返せない理由があった。
小学6年生、もどかしい2人の恋物語。
「あのさ、拓都くん!
この前貸したえんぴつ、返して!! 」
登校するとすぐに、彩渚は、隣に座る拓都に声をかけた。昨日よりも、少し強い口調で。
「あ……、忘れた」
「え〜、今日も? もう何日も経つじゃんか!
なくしたんでしょ?! 」
「なくしてはない! 明日持ってくる」
拓都は動揺しているのを隠すため、必死で平静を装った。なぜなら、制服のポケットには、返すはずの鉛筆が、もう何日もずっと入っていたからだ。
その鉛筆の先には、
「好きだ」
こすれた字で、そう書いてあった。
慌てて消そうとしたため、字がすれて不恰好になっていた。
彩渚と拓都は、幼稚園から小学6年生までの長い付き合いだ。姉同士が同級生と言う事もあり、低学年の頃までは、よくお互いの家で遊んでいた。
しかし、いつの頃からだろうか、何となくお互いに気まずさを感じでいた。
彩渚は活発な女の子で、なんでも思った事をハッキリと言えるタイプ。学級委員長なんかも任される、しっかりものだ。
一方、拓都はお世辞にも頼りになるタイプではなく、いつもクラスの男子達とヘラヘラとしていた。
「先帰ってて! 先生に頼まれたやつ出したらすぐ追いかける! 」
その日の放課後、彩渚は友達にそう伝えると、そのまま机に座り何か書いていた。
「何のやつ? 」
拓都が帰り際、机を覗き込み声をかけた。
「球技大会のやつ、集計してクラスごとに希望ださんといけん 」
「ふ〜ん、大変そう 」
拓都はそれだけ言うと、いつも通り友達と教室を出て行った。
10分くらいしてからだろうか、拓都が1人走って教室に戻ってきた。その手には、彩渚に返すはずの鉛筆が握られている。
彩渚しか残っていない静かな教室に、拓都の息遣いが響く。
「これ、やっぱり返す! 汚してなかなか返せんかった! 」
拓都は真っ赤な顔で、鉛筆を差し出した。
書いてある文字に気がついた彩渚の顔も、段々と赤く染まっていった。
「ごめん、ボールペンで書いたけぇ、こすっても消えんかった 」
そう言って謝った拓都に、彩渚はお道具箱から油性マジックを取り出すと、こう言った。
「ちゃんと分かるように、
マジックでなぞって!」
2人は職員室に立ち寄ると、急ぐ事なく、ゆっくりと一緒に帰り道を歩いた。
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