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第二話【呪殺】


 この日、如月雪橙は不運であった。


 というのも、朝起きると目覚まし時計が頭上の棚から落ちてくる、化学の実験中に割れたフラスコの破片が頬に当たる、それで保健室に行けば消毒液を頭から被る、階段で転ぶ、プリントで指を切る、など、どれも一日に一回はあるかないかくらいのものだが、それが何回も繰り返されるのは異常としか言えない。


 だが、そんな雪橙の今日一番の不運は生徒会室の扉を開けてしまって、その中の光景を見てしまったことだろう。


 ガチャリ


 「あっ」

 

 可愛らしい声が生徒会室に響く。声の主は東雲凛花この学園のお姫様である。


 室内には凛花しかおらず、夕暮れ時の光が室内をオレンジ色に染めている。


 学園の一の美少女がオレンジ色に染まる豪華な室内で優雅に微笑んでいる。その光景はまるで一枚の絵画のように美しい。 


 が、その光景を見て雪橙は絶句した。


 それもそのはず、元々赤いカーペットが敷いてあったはずの床に、所々薄汚れた正方形の紙が置かれ、その紙にに何やら赤黒い線で描かれた魔法陣、蝋燭、宝石のようなもの、ナイフ、雪橙の写真が置かれていた。


 「凛花ちゃん、何その魔法陣‥‥」


 美しく整った顔に手を当て、雪橙が呟く。


 「先輩を呪殺するためのものです!」


 そんな雪橙とは対照的に花が咲くような笑顔で凛花が答える。


 (もしかして僕が今日、やたらと怪我をしたのはこのせいなのかなぁ?)


 「この呪法はですね、段々と効果が出て来て最後には対象者を死に至らしめる物なんですよ!」


 雪橙が考えている横で嬉々としてヤバいことを話し始める凛花。


 (いやぁ、絶対凛花ちゃんの呪いのせいなんだろうなぁ)

 

 呪いで人を殺すなんて科学が発達した現代では普通あり得ないだろう。


 だが、凛花なら成功させる。そんな風に思わせるヤバさが凛花にはある。


 「でもさ、凛花ちゃん、どうして呪殺なんて不確かな方法を選んだの?君の頭脳と身体能力ならもっと他に方法があったんじゃないかな?」 


 悩んでいては仕方ない、と雪橙が聞くと、


 「それは、呪いで先輩が死んでくれたら事故死で片付けられて万が一にも私が捕まる可能性が無くなるからですね。」


 「第一、現代で呪いで相手を殺すなんて非科学的な事、警察はまともに相手なんてしませんよ。」


 ふふふと可愛いく笑ってそんな答えを返す凛花。こういう事を考えて行動をするあたり彼女は賢い。


 だが、

 

 (その賢さを別のところで発揮してくれたらなぁぁぁ)


 その賢さが自身の暗殺のためだけに発揮されているのがヤバ過ぎる。


 雪橙が頭を痛めていると、


 「と、言うわけで」


 「呪殺の続きをしますか!」


 と言って、魔法陣の上に置いていたナイフを振りかぶって雪橙の写真に突き刺そうとする。


 「いやいやいや、ストップ、ストップ!!」


 全力で走って止めに行く。これ以上の不運が襲ってくるのは勘弁してほしいものである。

 

 今まさにナイフを突き刺そうとしていた凛花の腕を引っ張って呪殺を止める。


 が、


 「おわっ!?」


 強く引っ張りすぎだのだろうか、凛花がバランスを崩して後ろに強く倒れ込む。そしてそのまま凛花の腕を掴んでいた雪橙も凛花の方向に倒れる。


 ドサッ パキン


 (あっ‥ちょっ‥)


 気づけば、雪橙が凛花を押し倒しているような体制になっている。


 (うわぁぁぁぁ)


 鼻と鼻がくっつきそうなほどお互いの顔が近くて、慌てて軽くパニックを起こす雪橙と何かに気づいて顔を真っ赤に染めてプルプルと震え出す凛花。


 「は‥は‥は‥」


 小さく空いた口から途切れ途切れに声を出す凛花。

 そして、急に


 「はやくどけえぇぇぇ!!!」

 

 と、それはもう、普段の礼儀正しい彼女とは思えないほど口汚く大声で叫んだ。

 

 「うわっ!?」


 その圧に押されて雪橙が退くと、


 「あぁぁぁぁ」


 倒れていた雪橙の足を退けて残念そうに凛花が叫んだ。


 そこには魔法陣の上に置いてあった宝石が倒れた雪橙の足で粉々になっていた。


 「この宝石貴重だったのにぃ」


 眉を下げて心底残念そうにする凛花。そのまま数十秒間あぁぁぁと叫ぶと、大きなため息をついて


 「これじゃあもう、呪殺は出来ませんね。非常に不本意ですが、今日の暗殺はこれで終わりです」


 今日の暗殺というパワーワードを生み出して、呪殺セットを片付ける凛花。


 片付け終わって呆気に取られている雪橙の方を向いて凛花は一方的に別れを告げる。


 「はぁ、それじゃあ今日はこれで帰らせていただきます」


 そしてそのまま生徒会室から出ていってしまった。


 一方、雪橙とはというと、


 (うわぁぁ、凛花ちゃん、柔らかかったぁ、なんか凄いいい匂いもしたぁぁ、)


 いくら総理大臣の息子で学園一の頭脳とはいえ思春期男子、好きな子を事故とはいえ押し倒してしまって平静でいられるわけがないのだ。


 (はぁ、今日も僕の負けだなぁ)


 きっと勝てる日は来ないと感じつつ、誰もいなくなった生徒会室で雪橙は一人赤くなった顔を沈めるのだった。

 

 


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