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第一話毒殺[中編]


 「ーーですから先輩、殺されてください♡」


 「いやいやいや、なんで!?なんで君に親友がいるから僕が死ななくちゃいけないの!?」


 「大親友です。」


 絶対零度の声と光の消えた目で凛花が返す。


 「うん、わかった。大親友ね。」


 命の危機を感じ雪橙が慌てて訂正すると凛花の顔に笑みが戻る。


 「まぁ、その辺の説明もするとですね、椿ちゃんがある朝こう言ったんですよね。」


 すっと目を細めて凛花が過去の回想に入る。


 ◇◆◇◆◇


 「そう、あの日、あの温かい春の日、いつものように椿ちゃんと登校していたら椿ちゃんがこう言ったんですよね。」


 『ーーーあのね凛花ちゃん!私、好きな人ができたの!』 


 その瞬間、微笑んでいた凛花の顔が修羅のようになったことに椿は気づいていない。


 『その人はね、二年の如月先輩なんだ♩王子様みたいな優しい雰囲気にドキドキしちゃった!』


 実に幸せそうに笑う椿。


 その顔は恋する乙女の顔になり、黄色の瞳がキラキラと美しく輝いている。そんな椿を見て凛花は思った。


 ーーー殺そう。


 ◇◆◇◆◇


 「そう思っちゃったんですよね〜。」


 眉間に皺を寄せ忌まわしい当時の過去を思い出しため息をつく凛花。それでも彼女の容姿のためか、気だるげで陰鬱な雰囲気の美少女に見える。


 「いやまって、おかしい。」


 電光石火で雪橙が返す。その顔からはいつもの王子様の笑みは消え、呆れたような雰囲気が出ている。


 「おかしい?どこが?」


 心底不思議だと言わんばかりに目を見開く凛花。こいつ、常識はあるのか?、という副音声が聞こえる気がする。


 「なんで、妨害しようとか諦めさせようとかの前に殺そうっていう発想が出てくるの!!」


 その言葉は如月雪橙の魂の叫びだった。一般常識を持つ人間ならば、殺そうなどとは考えないはずだ。


 今までの人生の中で暗殺されかけたことは沢山あったが、ここまでぶっ飛んだ奴に狙われたのは初めてである。


 そんな雪橙の魂の叫びに凛花は、


 「椿ちゃんを守るためです。」


 と、はっきりと言い切る。さっきまでの狂人ぶりは何処へやら、真剣な目で雪橙を見ている。


 「先輩は総理大臣の息子です。椿ちゃんはこの社交界の薄汚さを知りません。だから、もし先輩とくっついてしまったら社交界のクソジジイに利用されるかもしれません。そうでなくとも、先輩の恋人ということで椿ちゃんが暗殺されるかもしれません。」


 透き通る凛花の青い両目が雪橙の翡翠色の目を真っ直ぐ見つめる。


 ーードキン


 (‥‥ドキン?)


 無意識に自分の心臓に雪橙は手を当てる。心臓はいつもより早く脈打っていて、暗殺されかけた時の体が冷えてゆくような嫌な心臓の鼓動ではなくて、どこか心地よい、暖かい心臓の鼓動である。


 自分の謎の胸の鼓動について雪橙が考え込みそうになるその時、


 「先輩?」


 はっとして顔をあげるとそこには美しい凛花の顔がすぐそこにあった。なぜかまた高鳴る胸の鼓動を抑えて


 「なんでもないよ。」


 と完璧な王子様の笑みで本心を隠してそう告げると、そうですか‥と凛花が疑問に思いつつも再び話し始める。


 「椿ちゃんは私の心の支えです。私が一番辛かった時に支えてくれました。だから、私が今度は椿ちゃんを守る番なんです。」


 「だから、椿ちゃんを守るために先輩には死んでもらいたいんです。」


 (‥‥ただ親友のことで逆恨みしているわけではないんだな。倫理観や道徳心が随分と欠如しているだけで、根は友達思いの優しい子だな‥。)


 (それはさておき、)


 「ストップストップ、なんでそこで僕が死ななくちゃいけないんだい?僕が椿さんの告白を断れば済む話だろう?」


 と、そう雪橙が困り顔でそう返すと、


 「えっ!!!!」


 と、目を見開いて凛花が驚いていた。


 「あんな、天使の中の天使のような純粋で穢れを知らない愛らしさと可愛らしいのが塊のような椿ちゃんの告白を断ることができるんですか!?!?」


 それはもう、この世の常識が覆ったような衝撃を凛花は受けているようだった。


 (‥そんな表情も可愛いな‥)


 衝撃を受けている凛花をよそに、雪橙の口元は自然とにやけ始めていた。


 (‥‥ん?可愛い?この子は僕のことを殺そうとしてきているのに?)


 (‥でも、今日一日でかなり彼女の印象は変わったな‥‥なんでも卒なくこなす本当の感情を見せない面白くない子だと思っていたけれど、今日は感情豊かで見ているこっちも楽しめそうだ。)


 雪橙の中の人間評価表で凛花が〝興味の対象外〟から〝なんだか楽しいおかしな子〟に変わった瞬間である。



 ーーそして、雪橙は気づいていないが、凛花の持つ凛とした雰囲気に魅せられ恋心を抱いた瞬間でもあった。


 

 



 

 


 

 

 


 


 

 

 




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