庶民である恋敵をいじめた罪で断罪され、婚約破棄され、辺境で野垂れ死にました悪役令嬢です。生まれ変わったらなぜか恋敵の娘になっていたんですが…
「にーた、にーた、あしょぼ!」
「うん、遊ぼうユーディア!」
私はにっこりと笑うと、兄の手の中に走りました。
抱っこしてくれる兄。
「ユーディア、クロス、仲がいいなあ相変わらず」
「お父様!」
「おとうしゃま!」
私がうんうんと頷きながら私たちを見ているお父様に抱き着きに行きます。
うわぽんぽんお腹ですわ。
剥げてお腹も出てますが、まだこれでも一応30前なのですわ。
「5歳の誕生日会、明日だぞユーディア」
「あいうれしいです!」
「そうかそうか、わが愛しい妻マリアの忘れ形見のユーディア、かわいいかわいい我が娘。あ、クロス、お前の愛しい兄と義姉さんの忘れ形見、愛しい愛しい我が息子だ!」
高い高いをしながら、クロスお兄様に笑いかけるお父様。
クロスお兄様は私の従兄、実叔父様夫婦が事故で死んでお父様が養子としました。
私のお母さまはすでに亡くなりました。
私は実はお母さまを前世いじめていた悪役令嬢だったりします。
いえ、お母さまは王太子殿下の愛とやらをゲットしまして、それに嫉妬した私がいじめて、その罪で婚約破棄で辺境送りになったのですが。
お母さま、違う人が好きでして、それが商人の息子であったお父様でした。
私を辺境送りにしないでとお母さま、最後までお願いしてくださっていたようです。
頭から水をかけたりしてごめんなさい……。足をひっかけたりしてごめんなさい。
辺境で恋敵を呪いながら私は病死、そうしたらなぜか恋敵マリアさんの娘ユーディアとして生まれ変わっていたのですわ。
お母さまは私を生んですぐ亡くなり、おいおいおいといつも泣いているお父様がそばにずっといましたが。
お兄様とお父様は忘れ形見の赤ちゃんを育てよう! と一致団結し、ここに私はめでたく5歳まで成長できたというわけです。
「そういえば、王太子の婚約者選びがまたあるそうだな」
「そういえばお母さまも婚約者候補だったとか」
「婚約破棄をしてから、候補がみな辞退して、もうあの方もそういえば27歳になるのか」
「もうお歳ですね」
お兄様がさらりといいますが、確かに歳、あの時は確か18歳でしたし。
お父様は28歳ですが、30半ばくらいにしか見えませんわ。
「……うちのかわいいユーディアを候補にするとか何とか言ってきたぞ」
「はあ?」
「断ったにきまってるだろ!」
マリアさんは男爵令嬢、庶民でしたが、実は誘拐されたお嬢様で、下町に捨てられて。という。16でそれがわかってという……。お父様とお母様、愛の駆け落ちをしたのですが、私が生まれて許してもらえたらしく、一応お父様も男爵の血縁ということになってます。
でもねえ、どうして5歳の幼女を候補にする?
「うちのかわいいユーディアちゃんは、絶対に嫁にやらん!」
「確かに!」
私は二人を見てため息をつきます。でもねえ、あれから婚約者も見つからず、お母さまにも振られて散々な人生だったようですわねえ。
もう関係ないですけど。
「王太子しゃま、お歳!」
「ほらほら、まねはだめだぞ」
「あい!」
私たちは仲が良く平和でした。
私は悪役令嬢の前世を反省して、生きていくことにしたのですが……。
「うう!」
寝ていた私を誰かが攫い、どこかに連れて行こうとするのです。
うちは一応商家、護衛もいるのにどうして!
静かにしろ! と脅され、袋に詰められ運ばれていく私……。
「これが、亡きマリアの忘れ形見、ちっとも似ていないじゃないか!」
「……似てなくてわるかったでしゅね!」
袋から出されると、そこには剥げてお腹がでたおじさんがいました。
もしかしてこれってレオン王太子殿下?
いやうちのお父様と似たり寄ったりのおじさんぶりでした。
「おじしゃん!」
「いやしかし幼女を己好みに育てるという手もあるな」
「いやでしゅ、かえしてください!」
どうもお母さまの代わりとして攫われてきたようですが、27歳に5歳って普通に犯罪だから!
私は帰ると抵抗すると、お前王太子妃になりたくないか? と聞かれました。
「いやでしゅ!」
「……ふつう、なりたいと答えるものだが」
「家にかえしてくだしゃい!」
どこまで行っても平行線で、私は帰せと泣き叫び、部屋の閉じ込められました。
「あのバカ、いつまでたっても成長しない……」
軟禁された私は、さてどうして逃げ出そうと考えます。
王宮の一室なのは間違いない、お父様たちが探してくれているはずですが……。
「イル・エールシュ、我が使役する鳥よ、偉大なる魔鳥、我が呼びかけに応じよ!」
前世の私が得意としたのは呼び出しの魔法、相性がいいのが魔鳥でした。
転生して何度か試したら呼び出せたので、この子をお父様のもとに行かせようと考えたのです。
小さな黒い鳥が現れ、私は「お父しゃま、この子は私の使い魔です。ユーディアは王宮に王太子殿下のおじしゃんに閉じ込められています。助けてくだしゃい」と伝言をしました。
私が小さいせいか短文しか覚えられません。
私は行って、と窓の隙間から鳥を逃がし、さてどうしようかなとベッドに座りました。
「あのロリコン、どうしてもお母さまを忘れられないのか」
寝転ぶと眠気が襲ってきました。目を閉じると、前世、お母さまに水をかけたりとか足をひっかけたりしたことを思い出します。
もう謝ることもできない……。
「ユーディア、我が愛しい娘よ! ああ、ひどいことはされなかったかい?」
「あい!」
「……殿下、これは誘拐です。我が娘を深夜にさらうなど」
「ご招待しただけだ」
「娘はまだ5歳です!」
魔鳥の伝言を聞いたお父様が王宮に乗り込んで、陛下に直談判、私はこうして救い出されました。
おいおいおいと私を抱きしめ泣くお父様。
殿下は誘拐と言われて怒っていますが、陛下がお前は王太子としての資質がやはりないようだなと言われています。
誘拐は大罪ですし。
「追って沙汰を待て! 謹慎だ!」
陛下がお父様に謝罪すると、いえ無事でしたしとお父様は頭を下げます。
でも内心はかなり怒っているんだろうとは思います。
「愛しいユーディア、わしのかわいい娘、もっと護衛を増やそうな、どうしてあんな馬鹿がこの国にいるんだが、マリアもリーデル様が辺境送りになったとき怒っていたぞ、元庶民である自分がこんなところにいるから気分がよくないという気持ちもわかるのに、それくらいのことで罪だという殿下の神経が信じられないとな」
お母さまはそういえば私の辺境送りを反対してくれていましたわね。
私がううと泣き出すと、お前にこんなことを言ってもわかるまいすまない、怖かったんだなとぎゅっとしてくれて頭をなでてくれました。
「おとうしゃま、大好き!」
「おうそうかそうか、わしもユーディアのことは大好きだ。わが愛しい娘」
お父様がぎゅっとしてくれるから安心して私は目をつむりました。
ああ、お母さま、あなたをいじめてごめんなさい。
その罪はあなたには贖えないけど、多分、私の愚かさを思い知らせるためにあなたの娘になったのね。
私は……前世の愚かさを悔いて、お父様とお兄様と生きていきます。
願わくばお母さま、見守っていてくださいませ。
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