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第7球 部活動紹介に飛び入り参加!?

 



 昼休みが終わると、一年生達は体育館に集まる。

 入学式の時のように椅子は用意されていなので、床に地べたで座った。

 キーンコーンカーンコーンと5時限目開始のチャイムが鳴り響くと、壇上に生徒会長の冬月えりなが現れた。


「きゃー!えりな様だ!」

「本当に何度見ても目が癒されます!」


 憧れの生徒会長を目にして沸き立つ一年生達に、えりなはマイクを持って口を開いた。


「みなさんこんにちは、部活動紹介の司会を務める生徒会長の冬月です。今日はみなさんに、上級生達が部活の紹介を行いますので、よく聞き、よく考え、自分が興味を抱いた部活があったら是非体験入学してみてください。高校生は学業も勿論大事ですが、部活の中でしか得られない経験もたくさんあります。時には辛いことも苦しいこともあるでしょう。でも、それはきっとみなさんを大きくしてくれる糧となることと思います。では上級生のみなさん、よろしくお願いします」


 えりなが挨拶を終え壇上を去ると、一年生達はパチパチパチ!と盛大な拍手を送る。

 光一や他の男子生徒は、彼女の凛々しい姿に見惚れていた。

 それからは生徒会副会長の野薔薇静香が進行を務め、部活動紹介が始まった。

 上級生が次々と現れ、各部活の紹介を行っていく。

 話だけの紹介もあったが、時にはユニフォームを着た生徒達が軽い実技を交えながらの紹介もあった。

 運動部、文芸部、どれも魅力ある紹介だった。

 一通り終わったところで、司会のえりなが壇上に立つ。


「一年生のみなさん、部活動紹介はどうでしたか?興味のある部活があったら是非体験入部をしてみてください。これからの三年間、実りのある時間を過ごしてくださいね。では、これで部活動紹介を終わります」

 えりながシメたその時、「ちょっと待ったーーーー!!!」と叫び声を上げ、ダダダッ!と雄馬が壇上に飛び上がった。


「えっなになに!?」

「これも演出?」

「誰あの一年生って、なんか最近見たことあるような……」


 雄馬の乱入に一年生がざわつく中、えりなが突然現れた雄馬に注意する。


「何ですか貴方、早く元にいたところに戻りなさい」

「すいません、ちょっとだけ俺に時間をください」


 そう言うや否や、雄馬はえりなを押しのけ、マイクを握りしめた。

 そして、驚いた顔で自分を見ている一年生達に向けて、口を開く。


「俺は1年5組の進藤雄馬だ。ここ最近クラス中を駆け回ってるから、見覚えはあると思う」


 雄馬がそう言うと、一年生は「ああそういえば」と納得して、


「何度も男子に野球部に入らないかって誘ってた人だよね」

「うん、結構イケメンだから覚えてる」

「ちっ、あいつまたウゼーことしてやがる」


 女子はわりかし好印象だったが、男子はうんざりしたような顔をしている。

 そんな男子の中でも、光一は雄馬の“しでかし”に腹をかかえて笑っていた。


「はっはっは!本当大将おもしれーな。あんなことできねーよ普通、マジうけるわー」

「進藤君……」


 うららは心配そうな表情を浮かべて、雄馬を見つめていた。

 体育館が騒然となり、野薔薇とえりなが目線を合わせ、事態を収集しようとする。


「進藤君、もう一度言います。速やかに自分のいた場所に戻り――」

「時間がないから単刀直入に言う。野球部に入ってくれないか」


 えりなの注意を遮り、マイクごしに雄馬がそう言うと、ざわついていた体育館が一瞬で静寂に包まれた

 口を閉じて、静かに自分を見つめる彼等に雄馬は続けて話し出す。


「この青北高校は一度、甲子園で優勝している。そんな強い学校の野球部がどうして廃部になっちまったのか知らねーけど、俺はもう一度野球部を復活させて甲子園をめざしたい。でもそれには、お前たちの力が必要なんだ」


 雄馬は言葉に炎を乗せ、続けて、


「きついし、面倒なことも多いし、金もかかっちまう。けどそれ以上に、野球は楽しいんだ。あれほど夢中になれるものを、俺は知らない」


 さらに熱を上げ、雄馬は告げる。


「初心者だろうと構わない。運動が苦手でも構わない。俺が野球の楽しさを教えてやる。約束する、野球部に入ったことを絶対後悔させない。そして俺が必ず甲子園に連れていく。だから、野球部に入ってくれないか」


 深く、深く頭を下げる。

 しかし、生徒達は戸惑うだけで、誰も「やる」とは言ってくれなかった。

 今度こそ、えりなが雄馬を止めに入る。


「進藤君、もう用は済んだかしら。それなら早く戻りなさい。それと放課後、生徒会室に来なさい。いいわね」

「はい……すいませんでした」


 えりなが怒気を含んで言うと、雄馬は謝りながら壇上を下りた。

 彼女はざわつく一年生達に、落ち着くように言って、


「えーみなさん、彼のことは気にせず、自分の入りたい部活に入ってください。では、一組から順番に退室して下さい」


 一年生が徐々に去っていく中、えりなが胸中でため息を吐いていると、静香が声をかける。


「おつかれ、えりな。びっくりしちゃったね」

「……ええ、そうね」

「進藤君、入学式の次の日には三年のクラスに来て、野球部に入らないかって必死に勧誘してたわ」

「二年のクラスにも来ていたわ」

「凄いね。今の飛び入り参加もそうだけど、度胸があるというか、あんなスポコン漫画の主人公みたいな人初めて見た」

「あら静香、あなた漫画なんて読むのね」


 えりなが「ふっ」と微笑みながら問いかける。

 一つ上の静香にため口をきくえりなだが、それは二人が小さい頃からの幼馴染だからだ。


「勉強の息抜きに読んでるの。結構面白いのよ、貸してあげようか?」

「遠慮するわ。さて、一年生も全員行ったことだし、私たちも撤収しましょう」

「えりな、あんまり怒っちゃだめよ」


 優しい声音で言う聖母に、完璧超人は鋭い眼差しを作ってこう答えたのだった。


「静香は甘いはね、ああいうタイプはつけあがらせると手に負えなくなるわよ」



 放課後。

 言われた通り生徒会室にやってきた雄馬がドアをノックすると、「どうぞ」と許可を得たので、ドアを開いて入室する。

 部屋の中には、えりなと静香の二人だけがいた。


「来ないかと思っていたけど、よく来たわね。自分が何を言われるか、検討はついているかしら」

「はい、部活紹介で飛び入り参加したこと、すいませんでした」


 雄馬が潔く頭を下げると、えりなは面食らったような反応を見せる。

 あんな馬鹿なことをやった生徒なのだから、もっと我儘な性格だと思っていたのだ。


「わかっているならいいわ。今回は初めてだから注意だけにしておくけれど、もし次も先ほどのような勝手をした場合、罰を受けてもらいます。それが反省文なのか休学なのか、それとも退学なのかわからないけど、そんなことになりたくないなら肝に銘じておきなさい」

「はい、気をつけます」


 脅すような言い方で言うと、雄馬はもう一度謝る。

 そんな彼に、えりなはふと尋ねた。


「進藤君、あなた野球部を作ろうとしているそうね」

「はい」

「残念だけど、それは無理よ」

「どうしてですか」

「理由は二つ。一つはどこの部活もグラウンドを利用しているから、野球部が使う場所がありません。もう一つは、この学校で野球なんてものに興味があるのはごく少数であって、集まる可能性は限りなく0に近い。だから進藤君、あなたも野球なんてものを諦めて、違う部活に入りなさい。それが嫌なら、転校を進めるわ」

「ちょっと会長、それは言い過ぎよ」

「……そうね、言い過ぎたわ、ごめんなさい」


 意図せず強い口調が出てしまったえりなに静香が注意すると、はっとしたえりなはすぐに謝る。

 しかし、黙って聞いていた雄馬が今度は反撃にでた。


「残念ですけど会長、野球部は作れますよ」

「なんですって」

「理由は二つ。一つは、野球部が使う場所は青北のグラウンドじゃなくて、元々野球部が使っていたグラウンドを使います。すげー荒れてたけど、今直してるんで、もう少しで使えるようになりますよ」

「ここ以外のグラウンド……」


 口に手を当て考える仕草をするえりな。

 どうやら彼女はあのグラウンドが元野球部が使っていたグラウンドであることは知らないようだ。


「それともう一つ。部員は絶対俺が集めます。そんで証明してやりますよ。“野球なんてもの”って言ってるあんたに、野球の楽しさをね。んじゃ、そういうことで」


 そう言い切って、雄馬は生徒会室を出て行った。

 雄馬が去った後、静香がえりなに再び注意する。


「えりな、今のはあなたらしくなかったわ。一年生相手にあんな態度を……彼、凄く怒ってた」

「そうね……気をつけるわ」


 ふーーーと長いため息を吐くえりなに、静香が心配そうな顔で尋ねる。


「やっぱり、まだ野球が嫌い?」


 えりなはゆっくりと瞼を閉じながら、口を開いた。


「……ええ、野球なんて大嫌いよ」




「くっそーあの女、野球を馬鹿にしやがって。見てろよ、絶対部員集めてやっからな!」


 愚痴を吐く雄馬が元野球部のグラウンドに着くと、すでにうららが整備を始めていて、大山と宗谷はキャッチボールを始めていた。

 グラウンドにやって来た雄馬に、二年生ズが面白そうに聞く。


「おう問題児、ちゃんと怒られてきたか?」

「聞いたよ、部活紹介に飛び入り参加したんだって?まったくお前には毎度驚かさられるな」

「うっ……」


 大山と宗谷に弄られていると、うららも慌てた様子でやってくる。


「進藤君、大丈夫だった!?」

「まぁな、今回はおとがめ無しだってよ」

「よかったぁ。でも本当に驚いたよ、急にあんなことしちゃうんだもん。けどね、進藤君の熱い気持ちは、凄く伝わったよ」


 両手をグーにして言ってくるうららに、雄馬は「おう、サンキュー」と返す。

 すると、突然大山が「にしし」と笑いながら親指で上を指した。


「どうやら気持ちが伝わったのは、春野だけじゃないみたいだぜ」

「え?」


 指の先を追うと、四人の男子生徒が立っていた。


「おー! ここってグラウンドだったんだな!畑かと思ってたぜ」

「はぁ、なんで僕まで……」

「うわぁ、汚ったね。やっぱやめようかな」

「まあまあ、とりあえずやってみようよ」


 荒れたグラウンドを見下ろしながら喋る男子生徒達が、階段から下りてくる。

 目の前に来た四人を見て、雄馬は驚いていた。


「おっす進藤」

「……ふん」

「ちっ」

「やあ」

「お前ら……」


 雄馬は何度も勧誘しに行っているので、勿論四人の顔と名前が分かる。

 背が小さく、明るい性格の小西太陽こにしたいよう

 眼鏡をかけ、いつも教科書を開いて勉強している文学勉ぶんがくつとむ

 この二人は同じ3組で、仲が良く大体一緒にいる。

 ツンツン頭で、ちょっとグレ気味の印象がある中丸和也なかまるかずや。6組。

 目が細くて身長が高い、大人しく優しい性格の城田誠しろたまこと。7組。

 性格が真逆なこの二人に、接点があるのは知らなかった。

 小西が鼻の下を指でこすりながら、口を開く。


「野球とか全然興味なかったんだけどさ、あの演説を見て気が変わったんだ。進藤とやる野球なら、面白そうだと思った。だから俺、野球部に入るよ」

「小西……」


「僕は勉強に集中したいんだが、太陽がどうしてもと言うから……言っておくが、僕は運動神経は皆無だからな。」

「ああ、それでもう嬉しいよ、文学」


 素直に野球部に入ると言ってくれた二人に感謝していると、中丸が「けっ」と、


「俺は単なる暇つぶしだ。飽きたらいつでもやめっからな」

「もうカズったら、さっきはすごく興奮してたくせに」

「ばか誠、余計なこと言うんじゃねえよ!」

「ごめんごめん。進藤君、あれだけ熱心に誘ってくれていたのに断っておいてなんだけど、僕たちを野球部に入れてくれないかな」


 そうお願いする城田に、雄馬は嬉しそうな表情を浮かべて、


「当たり前じゃないか。歓迎するぜ、中丸、城田!!」

「みんな、よろしくね!」


 うららが挨拶した後、四人は二年生達とあいさつを交わしている。

 二年生に弄られている四人を眺めながら、うららが雄馬に話しかけた。


「やったね進藤君、いっきに四人も増えたよ!」

「おう、これで後二人だな」

「そうだね。でもあと二人、どうしようか。もう誘える人もいないし……」


 気を落とすうららに、雄馬が「考えがある」と続けて、


「一人は俺に任してくれないか」

「え?」


 雄馬は一人の男を思い浮かべながら、力強く言うのだった。


「どうしても、野球部に入れたいやつがいるんだ」




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