第50球 戦士達の休息
東峰大相模高校との試合からあっという間に月日が過ぎ、八月も残り少しという頃。
青北高校の選手達は練習の息抜きに、みんなで近場の夏祭りに出向くことになった。
「おーい大将~まだか~」
「おう、ちょっと待ってろ」
夕日が沈む頃、雄馬のアパートに光一が訪れる。
仕度をして外に出てきた雄馬に、光一が問いかける。
「もう歩けるようになったのか?」
「まあな……ギブスは取れたが、まだ走っちゃいけねえって言われたよ。とりあえず今は上半身とか体幹トレーニングしまくってる」
「大将の辞書には休むという文字はねぇのかよ……」
呆れた風にそう言うと、雄馬は「はん」と鼻を鳴らして、
「あんな試合を見せられたら、黙ってなんかいられねぇよ」
「……だな。東峰と青森山野高校の試合、壮絶だったわ」
甲子園決勝。
神奈川県代表東峰大相模高校と青森県代表青森山野高校の試合は、延長十一回にも及ぶ大接戦だった。
最後は青森山野の四番バッターがサヨナラホームランを放って幕は閉じられたが、どちらが勝ってもおかしくない名勝負だった。
死力を尽くした試合を見て、燃えない高校球児がいないはずがない。
「それに青森山野には、一年生が二人もレギュラーに入ってたしな」
「その二人、俺の元チームメイトなんだぜ」
雄馬がそう話せば、光一が目を見開いた。
「何だって!?おい、マジなのか!?」
「マジだよ。ったくあいつら、俺より先に甲子園で優勝しやがって。腹立つぜ」
険しい表情を浮かべている雄馬に、光一は、
(こいつの元いたシニアチーム、どんだけ強いんだよ……)
雄馬の元チームの強さに恐れを抱いていると、雄馬は「早く行こうぜ」と笑って、
「遅れると中丸あたりがうるさそうだ」
「ははっ、確かにな」
集合場所に着くと、すでに慎吾以外のみんなが集まっていた。
因みに慎吾は、仲間での甲斐達と来る予定である。
「おいこら進藤、遅せぇぞ!」
「行動する時は時間厳守にしてもらわないと困るな」
文句を言ってくる中丸と文学に、雄馬は半眼で「悪かったよ」と謝る。
「見ろ雄馬、春野の着物姿を!」
ジャーンと大山が言うと、恥ずかしそうにしているうららに視線を送る。
黄色をベースにしてあり、花が描かれている着物に包まれているうららを見て、雄馬は言葉を失った。
「「……」」
「おい雄馬、なにか言うことあるだろ?ん?」
黙ってしまう二人に、大山が肘で雄馬の肩を押しながら茶化すように言うと、雄馬はポリポリと頭を掻きながら、
「そうだな、似合ってんじゃねぇのか?」
「えへへ、ありがと。これ、おばあちゃんの着物なんだけど、着て行きなさいって言われて」
「そうか。そりゃうららのばあさんも、きっと綺麗だったんだろうな」
「え……?」
「え?」
うららの顔が真っ赤に染まる。
そんなうららの反応に、雄馬がキョトンとした。
二人が作り出す良い雰囲気をぶち壊すかのように、無表情の光一が口を挟んだ。
「ねぇねぇお二人さん?俺達がいるのもお忘れでないかい?」
「んな訳ねえだろ、うらら、こんな奴等置いておいてさっさと行こうぜ」
「え?ええ!?」
うららの腕を掴んで歩きだす雄馬を見ながら、大山達はやれやれとため息を吐いた。
花火が始まるまで、みんなで出店を回る。
射的、輪投げ、メダカ取り、輪投げと色々遊び回る。
とくにストラックアウトは盛り上がった。
全員で勝負することになったが、手投げにもかからず全球命中して雄馬の勝利となる。
景品のストラップはうららにあげると、彼女ははにかみながら「ありがとう」と喜んだ。
「出店の飯ってなんでこう上手いんだろうな。高いの分かってるんだけどついつい買っちゃうんだよなぁ」
「それでもお前は食いすぎだよ……」
大山は食ってばかりで、宗谷が注意しても全く止まらず、呆れてしまう。
そうやって屋台を回っていると、慎吾のグループと合流した。
「ダーリーン、会いたかったー!!」
「おお!?」
突然抱き付いてくるギャルの愛理に雄馬がたじたじでいると、うららが恐い笑顔を浮かべながらゴゴゴゴゴゴゴ!!と背後に効果音を出していて、小西と城田は身体を震わせながらおびえていた。
甲斐や菊岡や蟹田とも挨拶を交わしていると、慎吾が雄馬に話しかける。
「おう、元気だったか」
「まあ、ぼちぼちな」
「足は治ったみたいだな」
「いや、ギブスが取れただけでまだ満足には動けねーな」
雄馬が左足を見つめながらそう言うと、慎吾は「そうか……」と続けて、
「新人戦には間に合わねーか」
「ああ、悪いな」
「構わねーよ」
「けど、やっぱり大会っつー目標がねーと、みんなもモチベーション上がんねーだろ」
申し訳なさそうに雄馬が言えば、慎吾は「馬鹿野郎」と眉間に皺を寄せる。
「俺達を見くびんじゃねぇよ。お前がいない間、あいつらはそれなりに必死に練習してたぜ。お前の代わりに小西がピッチャーをしていたり、俺もキャッチャーを試したりな。あの野郎、小せぇ癖に以外と良い球投げえるんだぜ。それに変化球の筋もいい」
へぇ、と感心する雄馬に、慎吾は続けて、
「この前の試合を振り返って思ったんだが、勝ち上がっていくにはやっぱピッチャーは最低でも二人は必要だ。お前にばっか負担はかけさせられねぇよ」
「悪かったな、不甲斐ないピッチャーでよ」
いじけた風に笑いながら告げる雄馬に、慎吾は真面目な顔をして「逆だ」と言う。
「不甲斐ないのは俺達の方だ。東峰との試合、ほとんどお前しか戦っていなかった。いや、お前だけに戦わせちまった」
「んなことねーだろ」と否定するが、慎吾は「あるんだよ」と歯を噛みしめて、
「それがあの結果だ。九回持たず、お前を潰さしちまったんだからな」
「……」
そう言われると、雄馬は何も言い返すことができなかった。
黙ってしまう彼に、慎吾は「はっ」と笑った。
「最後の我妻との勝負、間近で見ていてブルっちまったぜ。生まれて初めて、人を怖いと思った」
「なんだそれ、俺そんなに怖かったのか?」
首を傾げながら問いかけると、慎吾は「ああ」と頷く。
「闘志っつうか、気迫っつうか、そんなものが全身から溢れて出ていたぜ。目に見える訳でもねーんだがな。けど、あの時のお前は、それくらい化物じみていた。東北の怪物って言われるのも分かるぜ」
「やめろよそれ、なんか恥ずいんだけど」
「実際誇ってもいいぜ。あの東峰打線を2点に抑えたのは、甲子園優勝した青森山野含めて全国でもお前だけなんだぜ」
そうなのだ。
東峰大相模高校は神奈川県大会ではほとんどの試合を大差で圧勝し優勝している。
同様に、甲子園でも大量得点して勝ち上がっていった。
決勝の青森山野には三点しか取れず惜しくも敗れてしまったが、東峰を最少得点に抑えたのは雄馬が投げた青北高校なのだった。
「つっても、九回にはどうなってたか分からねーけどな」
慎吾が茶化すように言うば、雄馬は「うっせー」とつっこむ。
『もうすぐ花火が始まります』
「おっ花火だってよ」
「早く行こうぜ!やっぱいい席で見たいじゃん!?」
「だよなぁ、分かってんじゃねーか小西!」
「あっ二人とも、こんな人混みで走っちゃダメだよ!!」
花火が開始される場内アナウンスが流れると、小西と中丸はテンションを上げて駆けてしまう。
そんな二人を、城田が注意しながら追いかけた。
文学もため息をつきながら後を追う。
「なんか城田と文学って、あいつらの親みたいだよな」
「文学が父で、城田が母って感じか?」
「それ」
大山の意見に宗谷が同意していると、慎吾が仲間に告げる。
「俺達もそろそろ行くか」
「ええー!あーし、ダーリンと花火見るー!!」
「はいはい、あたし達はこっちねー」
「じゃあねー」
「またな」
ダダをこねる愛理を蟹田が引きづって行く。
その場には、雄馬とうららがぽつんと残った。
雄馬はうららを見ながら「俺達も行くか」と言うと、うららは「うん」と頷き、横になって歩く。
二人が他愛ない話をしていると、どん!どん!と花火が上がっていった。
夜空に咲く綺麗な花火を眺めながら、うららが雄馬に話しかける。
「雄馬君」
「あん?」
「もう、あんな無茶はしないでね。私、すっごく心配したんだから」
雄馬の顔を見つめながら告げえてくるうららに、雄馬は彼女の頭に手を置くと、
「ああ、しねえよ」
「よかった。それを聞けて安心しました」
嬉しそうにはにかむうららに、雄馬は宣言する。
「うらら」
「ん?なに?」
「絶対にお前を、甲子園に連れて行ってやる」
決意した顔で告げる雄馬に、うららは笑顔で「うん」と口にして、
「楽しみにしてるね」
そんな二人を応戦するかのように、花火が鳴り続けていたのだった。
お知らせがあります。
ここまでかけ走で投稿してきましたが、ここで一度筆を折らせて頂き、完結扱いとさせて頂きます。
理由としましては、閲覧数とブクマ数が思っていたよりも伸びなかったため、書き続けるモチベーションを保てないからです。
ジャンル的にも難しいとは思っていましたが、私的にはかなり熱意を持って書いていただけに、己の力不足でこのような結果になって、これ以上書くのは難しいと判断しました。
完走目指して頑張りますと言っておきながらこのような結果になってしまい申し訳ございません。
ブックマークをつけてくれた読者様、評価を下さった読者様、申し訳ございませでした。
いつかまた、青北野球部の続きを書きたいと思っております。




