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第49球 誓い!

 


 青北高校対東峰大相模の試合。

 雄馬の身体の状態が試合続行不可能となり、青北高校が棄権。

 点は2-2と引き分けだったが、青北高校の棄権により東峰大相模高校が勝利した


 自分達の試合を応援してくれた人達へのお礼の挨拶を終え。

 雄馬達がベンチに戻ると、うららと三里先生が駆け寄ってくる。


「雄馬君!!」

「大丈夫!?」

「ああ、こんなんへっちゃらだって……」


 雄馬が強がっていると、突然生徒会生会長のえりながベンチにやってきた。


「三里先生、外に車を用意しています。彼を早く病院へ」

「ありがとう冬月さん。進藤君、そこまでいける?」

「余裕っすよ」

「バカ、まだ無理すんな。春野、進藤についていってあげてくれ」


 大山が頼むと、うららは「は、はい!」と返事をした。

 一人で歩き出してしまう雄馬の身体をうららが支えると、雄馬は「すまねえな」と言って身体を預ける。

 えりなに付いていくと、高級車が待っていた。


「乗って」

「は、はい」

「おいおい、何だこのデッケエ車は。こんなん初めて見たぞ」


 高級車を前に驚く雄馬は、ベンツの後部座席に乗り込む。

 うらら、続いてえりなも乗ると、運転主に指示をした。


「出して、板野」

「かしこまりました」


 車を出す板野。

 まだ意識が朦朧としている雄馬は、うわ言のように呟いた。


「悪いな、うらら」

「うんうん、全然平気だよ」


 雄馬が世話になってすまないと思っていたうららだったが、どうやら違うようだった。


「負けちまってよ……今度は……絶対……」


 最後まで言いきれず、目を閉じてしまった雄馬の頭を撫でながら、うららは優しく微笑みながら、


「そうだね。次は勝とうね。おつかれ様、雄馬君」

「……」

 そんな二人の姿を、えりなは横目で眺めていたのだった。




 雄馬がうららに連れられてから、大山達は道具を片付け後、会場の外に集合していた。


「……」

「……」

「……」


 誰もが口を閉じていた。

 口を開けるほど疲れている訳ではない。

 いや、その逆だ。

 疲れていないからこそ、悔しくて口を開けないのだ。

 東峰大相模高校との試合は、ほとんどが雄馬一人で戦っていた。

 戦わせてしまった……。

 この場にいる誰もが、それを感じていたのだ。

 自分の力の無さに落ち込む彼らに、キャプテンの大山が口を開く。


「あの王者東峰と引き分けた、俺達やるじゃん……て思ってるやつは、ここにはいないよな」

「「……」」

「東峰と引き分けたのも、東峰と互角にやり合えたのも、全部雄馬のおかげだ。俺達は歯が立たず、何もできなかった」

「その通りだ……僕たちの力は何一つ通用しなかった」

「進藤君が最初から全力で投げていたのって、僕たちの守備がまだまだだから、付け入る隙を与えないためだったのかもしれないね」


 大山の言葉に、文学と城田が反応する。


「そんで限界超えながら投げてたってのかよッ」

「クソったれ……」

「不甲斐ないのは俺達だ」

「ムカついてくるよね、自分にさ」


 光一が、中丸が、宗谷が、小西が、心底悔しそうに拳を握る。


「こんなところで終われねぇぞ、終わってたまるかよ」

 己に誓うように、口にする慎吾。

 みんなが、彼と同じような想いを抱いていた。


「そうだな、みんなで強くなろう。あいつと肩を並べて、今度は東峰に勝とうぜ」


 大山が告げると、みんなは「「おう!!」」と誓ったのだった。




 青北の選手達が決意をあらわにする中、東峰大相模高校の選手達も会場の外で集合していた。

 勝ってベスト8を決めたというのに、誰も明るい顔をしていない。

 そんな彼らに、森下監督が口を開く。


「みんなお疲れ様、よくやった……と言いたいところだが、お前等の顔を見ればそうではなさそうだな」

「「……」」


 選手達は歯を喰いしばる。

 勝ったなんて思っていない。

 それどころか、敗北感すら抱いている。

 相手は初心者だらけの無名校。

 コールドで勝って当たり前の相手に、引き分けのまま勝利してしまった。

 去年の夏、そして今年の春の神奈川を制覇した王者東峰が。

 最後の最後まで、たった一人のピッチャーを打ち崩せなかったのだ。


「青北高校のピッチャー、進藤雄馬君。結局、最後まで彼を打ち崩すことは叶わなかった。スタミナ不足と言えばそれまでだが、彼はまだ一年生、体力がつくのはこれからの話だ。問題は、一年生の進藤君相手に八回までお前達がたった2点しか取れなかったことだ」


 森下監督は「いいか」と続けて、


「確かに彼の投球は凄まじかった。だが、甲子園には彼のようなピッチャーがゴロゴロいる。これでは甲子園優勝どころか神奈川ですら勝てないぞ。それを肝に銘じておけ!!」

「「はい!!」」


 森下監督は最後に、低い声でこう告げる。


「……たった一人で我々を追い詰めた進藤君の誇りに傷をつける者がいたら、私が許さんからな」

「「はい!」」



 ◇



 それからのことを話します。

 生徒会長のえりな先輩が用意してくれた車で、私達は近くの病院に向かいました。

 雄馬君はやっぱり、熱中症と診断されました。

 かなり危ない状態だったらしくて、あの時無理をしないで棄権して本当に良かったと思います。

 けど、お医者さんはもう一つ雄馬君の状態を説明しました。

 左足の骨に罅が入っていたようです。

 多分、我妻君が打った打球が当たった時だと思います。

 お医者さんによると、全治二ヶ月はかかるそうです。

 お医者さんは、この状態で投げれたことが信じられないと驚いていました。

 激痛で、とてもじゃないが立つのも辛いって言ってました。

 やっぱり雄馬君は、チームのみんなの為に我慢していたのです。

 怪我をしている雄馬君は、八月のはじめに行われる新人戦に出れるかお医者さんに尋ねました。

 まずは怪我を治してから!と怒ったのですが、彼は「こんなもん唾つけときゃ治るだろ」と呑気なことを言っています。

 お医者さんとしては呆れた風に、やめなさいときっぱりと言ってくれました。

 雄馬君は「なんだあのやぶ医者は!」と憤慨して、大会に出る気満々ですが、私が絶対止めます。


 私達青北高校に勝った東峰大相模高校は、破竹の勢いで勝ち上がり、決勝では強豪、横浦高校に7-1と圧勝。

 堂々と甲子園に乗り込み、決勝まで勝ち進みましたが、決勝では3-4と惜しくも敗れ準優勝となってしまいました。

 負けてしまったけれど、私達に勝った東峰大相模高校が準優勝してくれたことで、少しだけ誇らしい気持ちになりました。


 それから月日はあっという間に流れ、もうすぐ夏休みも終わるころ。

 みんなで夏祭りに行くことになりました。





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