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第46球 vs東峰大相模高校7 誰が打つんだよ!!



 青北高校と東峰大相模高校との試合。

 六回の裏にランナー二人を置いて、四番竹中という窮地を三振でくぐり抜けた雄馬。

 点は動かず1-1のまま、終盤戦に突入するのであった。


七回表。

青北高校の攻撃。

雄馬がベンチに戻っていると、みんなが背中にグローブを叩きながら声をかける。


「すげえぜ進藤!」

「あの竹中を三振かよ」

「この野郎、あれだけ打たせてこいって言ってんのによ!!」


光一が呆れながら言うと、雄馬は「はっ」と笑って、


「お前等がいるから、俺は何も考えず投げれるんだよ」

「大将……」


 雄馬の言葉に胸が熱くなる光一。

 その時、足下につっかかった雄馬が倒れそうになった。


「雄馬!」


 咄嗟に大山が正面から支える。

大山は雄馬の身体を起こしながら、


「おい、大丈夫か!?」

「平気っすよ。はぁ……はぁ……ちょっと、小石に突っかかっただけです」


 そんな言葉を残しながら、この回先頭バッターである雄馬はバットを持って打席へと向かう。


「おい……あいつ……」

「もう限界かもしれねぇ」


 苦しそうな雄馬を、みんなが不安そうに見つめていた。

『三番、ピッチャー、進藤君』


「はぁ……はぁ……」


バッターボックスに立つ雄馬だったが、息が整っておらず、今にも倒れそうなほど消耗しているのが分かる。

その様子を神里はキャッチャーポジションから見上げて、


(……限界だな。それもそうか、この暑さに加え初回から全力投球。しかも相手は《おれたち》だ、集中力の消費も半端ではない。それに控え投手がいるうちと違い、進藤はここまで一人で投げ抜いてきたのだろう。疲労もピークなはずだ。逆に、ここまで戦えただけでも賞賛に値する。といっても、容赦はしないがな)


 未だに高校一年生。

 五回戦までたった一人でマウンドを守ってきた雄馬。

 様々な不利条件に同情はする。

 しかし、戦うならば全身全霊で叩き潰す。


「プレイ!」


試合が再開する。

四宮が投げる一球目はストレート。

これを雄馬はフルスイングし、ファールとなる。


「馬鹿野郎!なにフルスイングしてんだ!さっさと三振して戻ってこい!!」


大山が叫びながら注意するが、雄馬は聞く耳持たず構えてしまう。


「あの馬鹿、もうそんな体力残ってねぇだろ……」

「雄馬君……」


大山とうららが心配そうに見つめる中、雄馬は(へへっ)と心の中で笑って、


(先輩の言うとおり、さっさと三振してベンチで少しでも休みてえよ)


二球目はアウトコースにスライダーが外れ、1-1となる。


(けどな……)


三球目はインコースにカーブが決まり、雄馬は手が出せずカウント2-1。


(仲間が頑張って守って、光一があんなに粘って……)


四球目はストレートが少し高めに外れて2-2。


(喰いついてこないな、見えているのか?まあいい、次で仕留めるぞ)


神里からサインを受け取った四宮は、アウトコース一杯に渾身のスライダーを投げ込んだ。

雄馬がぐっと踏み込み、


(燃えないわけねぇだろーが!!)


キン!!

雄馬はスライダーを捉え、ボールをはサードの頭を越えフェアになり、長打コース。


(アウトコースのスライダーを引っ張っただと!?)


打球の行方を確認した雄馬は、ドタドタと走りながら一塁を回る。

それを見た大山が「無理すんな雄馬!」と叫ぶが、雄馬はそのまま二塁へ。


(いつまでも調子に乗るなよ、進藤!)


打球に追いついた我妻が、レフトからの好送球を投げる。

ボールはノーバウンドでセカンドへ。


「おおお!!」


雄馬は頭から飛び込み――、


「せ、セーフ!!」


ギリギリでセーフとなった。


「ぜぇ……ぜぇ……ぜぇ……」


ベースの上で中腰になる雄馬は、荒い呼吸を繰り返す。


『進藤君、ナイスバッティングです!!しかし……大丈夫なのでしょうか、凄い辛そうにしていますが……』

『相当辛い筈です。体力的にも気力的にも……彼が動いていられるのは、もう執念でしょう』



青北のベンチも雄馬が打った時は盛り上がっていたが、キツそうな雄馬を見て押し黙ってしまう。


「ねえ、誰か進藤君と交代してあげられないの……?」

「無理でしょ……だって野球部、九人しかいないんだもん」

「そんな……」


応援団も、雄馬の奮闘に気が気でなかった。


「もうダメ、あーし見れないよ」


うずくまって顔を伏せる愛理の背中に手を当てながら、蟹田が告げる。


「見てあげなよ、あんたが見てあげないでどうすんのさ」


甲斐と菊岡は、打席に入る慎吾へ目一杯叫んだ。


「打て慎吾ぉぉぉ!!!テメエが打たねぇでどうすんだよ!!」

「頑張れ慎吾!!」


うららの父親も、雄馬を心配そうに見つめる。


「雄馬君……」


生徒会副会長の静香が、えりなの袖をぎゅっと握りながら、


「進藤君、大丈夫かしら……」

「どうかしらね」

「もうえりなったらまだ――」


静香がえりなの表情をうかがうと、彼女は唇を強く噛んでいた。


理事長の宗一郎は、真剣な表情で雄馬を見つめながら、


(揺るぎない勝ちへの執念、やはり君は原ちゃんそっくりだよ、雄馬君)




神里は審判にタイムを貰うと、四宮の元へ向かう。


「今のは最高のコースに最高のスライダーだった。あれは打った進藤を褒めるしかない」

「ったく、投げて打って走って、生意気なルーキーっすよ」

「ふっそうだな。次の四番はどうする、敬遠するか?」


神里がそう問いかけると、四宮は「まさか」と首を横に振って、


「一年如きに敬遠したくないってのもありますけど、ここで逃げ腰なら東峰のエースナンバー張ってないっすよ」

「だろうな。お前ならそう言うと思ったよ。ここを凌ぐぞ、四宮」

「っす!」


神里がポジションに戻ると、試合が再開される。

ノーアウトランナー一二塁。

『四番、ファースト、山田君』


「ふぅぅぅ」


 慎吾は大きく深呼吸してから打席に入る。

第一球目はストレート。

慎吾は強振するが、振り遅れてファールとなる。


(打てだと……言われなくても分かってる)


続く二球目はカーブが外れて1-1。


(ピッチャーの癖に打ちやがって……何なんだテメエはよッ)

「はぁ……はぁ……」


慎吾は一度雄馬に視線をやった後、四宮を見る。

三球目はスライダー、これを振るが合わず空ぶってしまった。

カウント2-1。


(追い込んだ、決めるぞ四宮!)


神里が送ったサインに頷いた四宮が、四球目を投げる。

ボールはアウトコース一杯の真っ直ぐ。


(四番の俺が打たねぇで――)


ぐっと踏み込み、強振。


(誰が打つんだよ!!)


――カキーン!と、甲高い音が鳴り響き、ボールは高々とレフト方向へ。

慎吾は走りながら「入れ、入っちまえ!!」と叫ぶが……。

ボールはフェンスを越えず、フェンスにぶつかってしまう。

雄馬はサードベースを回り、ホームへ。

打球に追いついた我妻が、中継の田中に投げ、田中はバックホームへ。

捕球した神里が雄馬をタッチしようとするが、


「はぁ……はぁ……はあ……」

「くっ!」

「セーフ!!」


雄馬は既にホームベースにタッチしていた。

先制点を取り、2-1と突き放す。



「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」



『打ちました!四番山田君、惜しくもホームランは逃しましたが、フェンス直撃の二塁打!!その間に進藤君が生還し2-1!!ついに均衡が破れました!!』

『ナイスバッティングでしたね。つまりながらもあそこまで飛んだのは、自分を信じてフルスイングしたからでしょう。本当にナイスバッティングでした』


「しゃあ!ナイス慎吾!」

「やったぜ!!」


応援団の仲間達が大声で喜ぶ。


「よく打った山田ーー!!」

「ナイスバッティング!!」

「今日だけはテメエにヒーロー譲ってやらぁ!!」


青北ベンチが盛り上がる中、雄馬がたどたどしい歩きで戻ってくる。


「進藤!」


宗谷が雄馬に駆け寄り、肩を貸してやる。


「雄馬君!」


ベンチに倒れるように座る雄馬に、うららがタオルとドリンクを渡す。

雄馬はそれを受け取りながら、「サンキュ」と小声でお礼を告げた。

うららは雄馬の身体を見る。

汗が滝のように出ていて、息も全然整らない。

うららから見ても、雄馬はもう限界であることが分かった。


「雄馬君……これ以上はもう……」

「大丈夫だ、うらら……」


 心配するうららに、雄馬は重ねて言う。


「ぜってー勝つ」


 ノーアウトランナーランナー二塁。

『五番、キャッチャー、大山君』


(打つ、絶対打ってもう一点入れてやる。たった一点じゃ足りねぇよ!!)


雄馬の為になんとしても追加点を取りたい大山だったが、五球目のストレートに押し負けて内野フライに倒れてしまった。


(くそ、何やってんだ俺は!!それでもあいつの女房役かよ!)


 悔しがる大山は、打てない自分を責める。

『六番、セカンド、小西君』

ワンアウトランナー二塁。

小西は打席に入りながら、


(正直さ、甲子園とかどうでもよかったし、つまんない高校生活をちょっとでも楽しめればいいべと思ってた訳よ)


一球目のスライダーには手が出ず、ストライク。


(でもさ……)


『俺は甲子園に行く。野球を選んだことを、絶対に後悔させねえ』


二球目のストライクを空振りストライク。

カウントは2-0。


(あんなの見ちゃうとさ、やんなきゃってなるじゃん!!)


三球目はアウトコースにスライダーが決まるが、


「……ボール!」

「ふぅ……」


カウント2-1。

四球目のカーブに小西はなんとか喰らいつく。


「ファール!」

(こいつ……今までカーブに合っていなかったが当ててきたな。マグレか?よし、もう一度試すか)


神里がサインを送るが、四宮は首を横に振った。


(このチビ、嫌な雰囲気を出してやがる。安易にカーブはやばいぜ、先輩)

(分かった、なら力でねじ伏せるぞ!)


サインが決まったバッテリーが、第五球目を投げる。

小西は真ん中高めのストレートを振るが、バットは空を斬った。


「ストライクバッターアウト!!」

「くっ……!」


小西は歯をくいしばりながら、打席から離れる。


「ナイスボール!!」

「ツーアウトオオ!」


 ツーアウトランナー二塁。

『七番、サード、文学君』

打席に入る文学。

一球目は真っすぐでストライク。

二球目もまっすぐだが、僅かに外れてボール。

三球目はスライダーがインコースに決まりストライク。

カウント2-1。


(一回も振ってこないな、打つ気がないとは思えんし、何を待っているんだ。カーブか?)


一度も打とうとしない文学に戸惑う神里。


「……」


文学はじっと四宮を見つめていた。

四球目はストレート、これを文学は上手くカットする。


(振ってきたか……狙い球はストレートだったのか?まあいい、なら次はカーブで釣ってみるか)


五球目のくさい所にカーブが放たれるが、文学は見極めてボールになる。

カウント2-2。


(これは釣られなかったか、一体何を待っている?)


文学の考えが読めない神里。

それも仕方ないかもしれない。

何故なら彼は打つ気がないからだ。


(現実的に考えて、僕があのピッチャーからヒットを打てる確率は低い。バットを短く持って当てるだけで精一杯だ)


六球目のスライダーにもなんとか喰らいつく文学。


(ならば……僕が出来ることは――)


『俺が打たれなきゃ、負けることもねぇんだぜ』


第七球目、インコースのストレートをカットする。


(一球でも多くカットして、進藤が休める時間を稼ぐことだ!!)

(こいつ、初めから時間稼ぎのつもりだったのか!?)


文学の意図に気付いた神里は、四宮にサインを送る。


(四宮も球数が増えている。これ以上時間稼ぎされてたまるかっ)


第八球目。

アウトコースに外れた、勢いのあるストレートを空ぶってしまい、文学は三振に倒れてしまった。


「ストライクバッターアウト!チェンジ!!」

「……」


静かにベンチに戻る文学は、心の中では自分の不甲斐なさに憤っていた。


(くそ、たった八球しか粘れなかったっ!)

「雄馬……いけるか」

「ん……ああ、おーけー」


休憩していた雄馬に大山が声をかけると、彼は生返事をしながら立ち上がった。

そして、小走りでマウンドに向かっていく。

そんな進藤の背中を、誰もが心配そうに見つめていたのだった。





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