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第45球 vs東峰大相模高校6 男じゃねえだろ!!

 


 青北高校と東峰大相模高校との試合。

 五回の裏に四番竹中のソロホームランを浴び、1―1の同点に追いつかれてしまう。

 その後もピンチが続いたが、光一と小西のファインプレーに助けられ、なんとか追加点は阻止したのだった。


 六回の表。

 青北の攻撃。

 ベンチに戻る雄馬に、光一がグローブで背中を叩く。


「おいおい大将、打たせろって言ったそばから三振取ってんじゃねぇよ」

「ああん?俺は打たせるつもりで投げたぜ。けど、あっちが勝手に空振ったんだよ」

「そ、そうか……?」


 光一が頭の上にハテナマークをつけている間に、選手達は円陣を組む。

 大山がキャプテンとしてみんな告げた。


「見ての通り、雄馬はもうへばってきてる。いつ逆転されてもおかしくない」

「おいおい、誰がへばってるって?」


 つっこむ雄馬を無視して、大山は続ける。


「俺達が点を取って、少しでもこいつを楽にしてやるぞ!」

「「おう!!」」


 気合を入れる青北ベンチ。

 しかし気合だけで王者東峰のエース四宮を打ち崩せる訳でもなく、


(くそったれー!!)

(バントすらできないのか!?)


 九番中丸、一番宗谷が三振に倒れてしまった。

 ツーアウトランナー無し。

『二番、ショート、八乙女君』

 打席に入る光一は、ベンチに座っている雄馬を横目に、


(絶対に打つ、俺達が打たないで誰が雄馬を助けるんだよ!)

「プレイ!」


 四宮が放った一球目はカーブ。

 タイミングが合わず、光一は空ぶってしまう。


(俺なんかが超高校級の四宮の球を普通にやって打てる訳がねぇ。一か八か、山を張ってやる!まっすぐだ、まっすぐだけを狙うぞ。後は全部カットしてやる!!)


 第二球目。

 四宮はストレートを投げてきたのに対し光一は(来た、まっすぐ!)とバットを振る。

 バットに当たったが、打球は一塁ベースの外に飛びファールとなってしまった。


(いける、まっすぐなら俺でも打てる!)


 希望を抱く光一。

 三球目は遊び球でアウトコースに外れてボール。

 カウント2-1。


(決め球は何でくる?スライダーか、カーブか?)


 四宮が投げた球は四球目はスライダー。

 これに反応した光一はなんとかカットした。


(喰らいついてやる、絶対に出塁してやるぞ!)


 それから光一は粘りに粘り、10球目がボールとなってフルカウントとなった。


「はぁ……はぁ……」

「はぁ……はぁ……(この野郎、さっさと三振しろよ!)」


 両者一歩も譲らず。息が荒くなる。


「打て八乙女ー!」

「見えてる見えてるー!」


 青北のベンチから声援が飛んだ。


(よく見えているな、集中しているのが分かる。狙いは真っすぐで、変化球はカットか。四宮の変化球をカットし続けるだけで凄い奴だ。このまま無駄に球数をかけたくない。次からはクリーンナップ、できれば出したくない。踏ん張れ四宮!)


 神里からサインを受け取った四宮はこくりと頷くと、


(さっさと終わっとけよ!!)


 迎えた第11球目、四宮が選んだボールはストレート。


(来た、ストレート!!)


 待ち望んだ球が来た光一は強振し、ボールは三遊間へ。


「抜けろー!!」


 しかし、飛びついたショートの田中がキャッチする。


(あの体勢じゃ投げれねぇだろ!)


 横目に様子を確認し、セーフを確信した光一だったが――、


「田中!」

「頼んだ!」


 田中がサードの竹中にボールをグラブトスし、素手で受け取った竹中がファーストへ速い球を送る。


「こんのッ!」


 光一はヘッドスライディングするが――、


「アウトォォオオ!!」


 惜しくもアウトとなってしまった。

 地面を叩きながら「くそおおおお!」と悔しがる光一。

 田中と竹中は、「ナイスキャッチだ」「へへ、お前こそ」と拳を合わせた。


『東峰ショート田中君、ナイスキャッチです!そしてサードの竹中君との連携も凄かったですね!!』

『ですねぇ。青北の二遊間に劣らないスーパープレーでした。高校生であんなこと中々できないですよ。ハイレベルな戦いですね』


 ベンチに戻ると、光一は「くそ!」と壁を殴った。


「そう悔やむな、惜しかったよ」

「そ、そうだよ!まだチャンスはあるよ!」


 大山と城田が慰めるが、光一は「ダメなんだよ……」と項垂れながら呟いて、


「俺達が打たねえと、またあいつが一人で頑張っちまうじゃねぇか!!」

「「――!?」」


 光一がそう言えば、みんなはマウンドに向かう雄馬を見つめたのだった。




 六回裏。

 東峰の攻撃。

『九番、ピッチャー、四宮君』

 左打席に立つ四宮は、一球目の真っ直ぐを見送る。

 荒い息を繰り返して苦しそうな雄馬を一瞥して、喉の奥で小さく笑った。


(何だよこの棒球、もう球威もキレもなくなってきてんじゃねぇか。もうへばっちまったのか?)

「はぁ……はぁ……」


 雄馬が二球目を投げる。


(このくらいの棒球なら、俺だって打てるぜ!)


 カキーーン!!

 四宮が打った打球は高々と上がり、左中間へ。


『打ったーー!!打球は左中間へ!ライト宗谷君懸命に追いかける!しかしこれは間に合うか!?』


 左中間へのフライを追いかける宗谷は、打球をどう処理するか迷っていた。


(突っ込めばギリギリ届くか!?いや、もし取れなかったとしたらカバーに入るのは中丸だ。最悪の場合、ランニングホームランになる可能性もある。ここはリスクを避けた方がいいのか!?)


 その時、不意に宗谷の脳裏に二つの記憶が呼び覚ます。


『先輩の足なら、どんな球にだって追いつきますよ』


 いつかの放課後練習で、雄馬が宗谷にそう言った。

 宗谷の足の速さなら、普通の選手が追いつかない範囲まで捕りに行けると。


『正直雄馬は限界だ。東峰はどんどん打ち込んでくるだろうぜ。あいつの為にも、俺達がカバーしてやらねぇと』


 守備に入る前、大山がそう言ってきた。

 宗谷は、走りながら決意する。


(そうだ、俺達が戦っているのは東峰だ!初心者軍団の俺達が王者にリスク無しで勝とうなんて、無理に決まってるじゃないか!!)


 ボールの落下地点に宗谷が飛び込む。


(何よりも、ここまで一人で引っ張ってきた進藤を俺達が支えないでどうするんだ!!)


 ズザーーー!!と、宗谷が芝生の上を腹から滑った。


「先輩!」

「宗谷先輩!」

「宗谷!」


 みんなが見守る中、宗谷はグローブを掲げた。

 グローブの中には、ボールがしっかりと入っていた。


「「うおおおおおおおおおおおおおお!!」」


 宗谷のファインプレーに、会場が沸く。


『捕ったーーーー!!捕りました!!ライト宗谷君、四宮君の打球を飛び込んでキャッチしました!!ファインプレーです!!』

『思いきったプレーでしたねえ。一歩間違えれば最悪なケースでした。けど僕、ああいうガッツ溢れるプレー、大好きです』


 宗谷は自分で立ち上がった後、セカンドの小西にボールを返す。

 マウンドで親指を立てる雄馬に、宗谷もその場で同じように返した。


「すげーすげええ!!先輩すげえっすよ!よく追いつきましたっすね!!」


 興奮しながら声をかけてくる中丸に、宗谷はこう答える。


「一年ばかりに良い格好させる訳にはいかないからな」


 宗谷を睨みながら、四宮は「クソッ」と悔しそうに呟いた。

 ワンナウトランナー無し。

 打順は三巡目に入り、一番の田中から。

『一番、ショート、田中君』


(嫌なムードになってるな……ここは俺が出て、流れを持ってきてやる!!)


 その意気込みが実ったのか、雄馬が放った三球目を捉え、レフト前に落ちる。


「しゃあ!」


 一塁で雄たけびを上げる田中。

 ワンナウトランナー一塁

『二番、セカンド、金沢君』

 金沢はベンチを見ると、森下監督のサインにヘルメットを触る。


「リーリーリー」

(くそ、リードでけぇな!)


 一塁の田中は、リードを大きく取っていた。

 東峰の一番バッター。

 当然足が速くないわけがない。

 必ず盗塁を仕掛けてくるだろう。

 雄馬はしつこく牽制するが、田中のリードの大きさは変わらない。

 雄馬が投球モーションに入った瞬間、田中がスタートを切る。


(読めてるっての!)

「ボール!」


 予め盗塁が来ると予想していた大山は、刺すために投げやすい位置にボールが来るよう雄馬に指示していた。

 立ち上がって捕球し、二塁に投げようとするのだが、


(走ってない!?フリだったのか!!)


 スタートを切っていた田中は一塁に戻っていた。


(くそ、揺さぶってきやがった!次は走ってくるのか!?)


 大山が戸惑う中、プレーが再開される。

 一球目と同様に田中がスタートを切り、それを読んでボールを外していたが、また田中は走るフリをするだけだった。


(くそ、カウントを悪くしちまった!)


 カウント0-2。

 バッターが有利なカウントになってしまう。


(次はなんか走ってきそうだけど、これ以上カウントを悪くしてもしょうがねえ。ストライクを投げろ、雄馬!)


 サインに頷いた雄馬が、三球目を投げる。

 と同時に、田中がスターを切った。

(やっぱり来たか!)


「ストライーク!!」


 捕球した大山がすぐに二塁に投げようとするも、そこには田中の姿がなく、一塁に戻っていた。


(またフェイクだったのか……良かった、ストライクを投げておいて。もう一度ゾーンだ)


 大山が雄馬にサインを送っている時、ランナーの田中とバッターの金沢もベンチからサインを受け取っていた。

 迎えた第四球目。

 田中がスタートを切る。


(また走ってきた!?フェイクか!?)


 田中が走り、金沢は大きくスイング。


「ストライク!」


 捕球した大山が位置をズラしてセカンドに投げるも、田中の足が勝って盗塁成功となる。

 まんまと二盗されてしまい、大山は心の中で悔しがる。


(くそ、ここで走ってくんのかよ)


 キャッチャー、バッター、ランナーの駆け引きを守備で見ていた宗谷と文学は、心の中で関心していた。


((ああいう揺さぶりもあるのか……))


『いやー、ここで盗塁してきましたか』

『今の盗塁には、多くの駆け引きがあったと思います。勿論キャッチャーの大山君も警戒していましたが、東峰が一枚上手だったということですね。流石森下監督です』


 カウント2-2。

 第五球目。

 雄馬が投げたまっすぐを、金沢が送りバントする。


(ここでスリーバント!?)


 雄馬が追いつきバッターは打ち取ったが、これでツーアウトランナー三塁になってしまった。

 見事スリーバントを成功してベンチに帰ってくる金沢に、森下監督が声をかける。


「ナイスバント!」

「っす!」


(金沢がどれだけバント練習をしてきたのか、私は知っている。球威のないまっすぐなど、金沢が失敗するわけがない)


 難しいスリーバント。

 選手を見てきた監督だからこそ、それだけの信頼があった。


(さあ、決めてこい、神里!)


『三番、キャッチャー、神里君』


(俺が決める)


 ツーアウトランナー三塁。

 打席に入る神里。

 しかし雄馬は制球に苦しみ、四連続ボールでフォアボールとなってしまう。

 一塁に向かいながら、神里は苦しそうな様子の雄馬を一瞥した。


(……とうとうスタミナ切れか)


 ツーアウトランナー一塁三塁。

 この最大のピンチで迎えるのは――

『四番、サード、竹中君』

 東峰の主砲、竹中明人。


(ここでこいつかよ……)


 バッターボックスに入る竹中を横目に、大山は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。


「はぁ……はぁ……」


 雄馬が放つ第一球目を、竹中がフルスイング。

 打球は高々と上がり、レフトへ。


『打ったーーーー!!伸びる伸びるッ……しかし切れて惜しくもファールです』

『タイミングが早かったですね』


 左方向に飛んでいったファールボールを見ながら、竹中は自分を責める。


(球威が衰えているのを知っていながら早く振ってしまった。未熟……だが次は打つ)


 静かに構える竹中。

 彼の身体から、威圧感が迸っていた。

 そんな恐ろしい彼を見上げながら、特大ファールされた大山は戸惑っていた。


(雄馬の球も走ってない、これじゃ絶対打たれちまう。塁は一つ空いてる……ここは歩かせて、最悪次の我妻と勝負するか?)


 迷って中々サインが決まらない大山に、雄馬が叫ぶ。


「黙って真ん中にミット構えて下さいよ。後ろには頼りになる奴等がいるんすから!」

「雄馬……(分かったよ!)」


 腹をくくった大山は雄馬にボールを返すと、グッとミットを構えた。


(来い雄馬!お前の球をここに投げてこい!!)


 大山からボールを受け取った雄馬は、へへっと笑みを作りながら、


(一塁にランナーいるけど、やってもいいよな)


 大きく振りかぶる。


((ワインドアップ!?))


 彼の投球動作に、誰もが驚いた。

 しかしすかさず神里が盗塁を仕掛ける。

 雄馬は腰を捻り、踏み込む。


「おらぁ!!」


 指先からボールが放たれ、


「――!?」

「ストラーーイク!!」


 竹中のバットが空を切った。

 空ぶった竹中は雄馬を睨み、


(球威が戻った……ワインドアップにしたからか?いや、それ以前に俺が空ぶっただと……)


 雄馬の球が力を取り戻したことを怪訝に思う。

 神里の盗塁が成功し、ツーアウトランナー二塁三塁。

 カウント2-0。

 第三球目。

 竹中はストレートを捉えるも、ボールはバックネットに突き刺さる。


(振り遅れただと!?)


 差し込まれていることに驚愕する。

 続けて四球目は大きく高めに外れてボール。

 五球目も打ち損じファール。

 六球目は外角に外れてボール。

 カウント2-2。


「踏ん張れ大将!!」

「いけッ!」

「負けんじゃねえ!!」

「やっちまえ!!」

「進藤ッ」

「頑張って!」

「打たれたら承知しねぇぞ!!」


 みんなが雄馬に声援を送る中、ベンチにいるうららと三里先生は祈るように彼を見つめていた。


「頑張って……進藤君!」

「……雄馬君!!」


 仲間の想いを背に受ける雄馬は、「ははっ」と小さく笑って、


「はぁ……はぁ……(アがるねぇ!)」

(来い、雄馬!)


 大きく振りかぶる。


(ここでやらなきゃ……)


 身体を捻り、踏み込んだ。


「男じゃねぇだろ!!」

「――!!」


 雄馬が投げた渾身のストレートは、竹中のバットを置き去りにし、ズドンと重たい音を響かせながら大山のミットに収まった。


(球威が戻った訳ではない……球威が更に上がっている!?)

「ストラックバッターアウトオオ!!」


「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


『三振、三振です!!進藤君、東峰の四番竹中君を三振に打ち取りました!!』

『気迫溢れる投球ですねー、痺れましたよ!』


 ベンチに戻ってくる竹中に森下監督が尋ねる。


「珍しいな、お前が打ち損じるなんて」

「……ふっ、そう見えましたか?」

「どういう意味だ」

「単純な話です、俺が力負けしただけです」


 竹中はグローブをはめ、グラウンドに向かう。


「ただ、次は打ちますけどね」


 そう宣言して、竹中は駆けて行った。


(あの竹中が直球勝負で負けただと……終盤にきて、まだそんな力が残っているのか……進藤雄馬か……)


 森下監督は、ベンチに戻る雄馬の背を見つめながら恐れを抱いていた。

 そして試合は七回表、終盤戦に突入するのであった。







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