第4球 先輩を説得しよう!
二年生の大山武志が新しく仲間に加わったが、それ以降は一人も勧誘が成功せず、次の月曜日を迎えてしまった。
その日の昼休み。
作戦会議のため、校内グラウンド手前の階段に座り、弁当を食べながら話し合う雄馬とうらら。
「くっそーー、全然ダメだな」
「そうだねぇ。みんなには何回も聞き過ぎて、もう嫌な顔されちゃってるもん」
大山を野球部に勧誘してからも、雄馬とうららは必至に勧誘活動を行っていた。
一年生と二年生のクラスには毎日顔を出して勧誘しているが、結果は芳しくない。
今年卒業してしまう三年生にもダメ元で行ってみたが、やはり受験で忙しく部活なんてやる暇はなさそうだった。
「くっそぉ、何で誰も野球に興味ねぇんだよ。おかしいだろ。あんな面白いのによぉ」
がしがしと乱暴に頭を掻きながら愚痴る雄馬。
焦るのも仕方ない。
早く野球部を作らなければならないのに、九人集めるどころか未だに雄馬と武志の二人しかいないのだから。
二人が悩んでいると、そこに菓子パンを咥えている大山が通りかかった。
「おー、進藤に春野じゃねえか。こんな所でなにやってんだ?勧誘は順調にいってるんか?」
と呑気に言ってくる大山に雄馬が喰いかかる。
「これが順調に見えますか!?てか、先輩も野球部の一員になったんだからほんの少しぐらいは手伝ってくださいよ」
「えーやだよ面倒くさい。それに、わざわざうざがれにいくのも嫌だし」
「……ですよねー」
がっくし落ち込んでいると、大山が「あ、そういえば」と思いだしたようにポンと手を叩く。
「あいつならもしかしたら野球部に入ってくれるかもしれないな」
「マジっすか!?誰ですかその人!!」
「誰ですか!?」
しゅばばば!と二人に迫られ、「どーどー」と抑えながら話す。
「二年の宗谷ってやつ。高一ん時同じクラスでよく話してたんだけど、あいつも中学で運動部だったんだよ。確か陸上部の短距離っつってたかな。成績も結構よかったらしいぜ」
「短距離ってことは足は相当速いな……その宗谷って人、何組でした?」
「今は2組だったか、真面目そうな見た目のやつだよ」
「2組で……」
「真面目な見た目……」
雄馬とうららは同時に思いだす。
すると、一人の人物が浮かびあがってきた。
『野球部?すまないね、俺はもう運動はしないって決めているんだ。他を当たってくれないか』
「「あの人だ!!」」
同時に声を上げる。
短髪で真面目そうな見た目で、嫌な顔をせず受け答えしてくれた二年生だ。
あの人が宗谷っていう先輩に違いない。
「なんだお前ら、もう宗谷に聞きに行ってたのか」
「はい。けど、ダメでした。もう運動はしたくないみたいで」
「今思ったんすけど、何で宗谷って人は陸上部に入らなかったんすかね?だって陸上は野球と違ってチーム球技じゃないし、成績良いなら走るのも好きだろうし……」
気になった雄馬がそう言うと、大山は「それがな」と続けて、
「ちゃんとは聞いてないけど、どうやら中学の時に大きな怪我をしちまったらしくてな。今は全力で走れないみたいだ」
「えっ、じゃあ野球も出来ないじゃないですか」
「先輩はどうして宗谷先輩を誘うおうと思ったんですか?」
走れないと聞き諦めモードの雄馬にかわって、うららが大山に尋ねる。
「あいつさ、たまに寂しそうな顔でグラウンドを眺めるんだよ。多分あいつは、まだ陸上に……走ることに未練があるんだと思う。進藤、お前ならもしかしたら、あいつをまた走らせてやれるかもしれない……って、そんな風に思っちまったんだよな」
「先輩……」
大山の話を聞いて「うーん」考えこむ雄馬。
「わかりました。俺、もう一度宗谷先輩に会ってきます」
「そうか、頑張れ進藤」
決意を固める後輩に、大山はエールを送ったのだった。
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野球部復編が終わるまでは毎日投稿します。
本日夜にもう一話投稿します。