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第33球 vs川澄高校 大山武志!

 



 青北高校と川澄高校との試合。

 四回裏に連打をされてしまい、0―3と川澄高校にリードされてしまっている。

 その原因は、キャッチャーである大山の配球が読まれているからであった。


「先輩、早く歩いて下さいよ!」

「ったく、新人の癖にベテランをこき使うんじゃねぇ」

「だって、先輩に見て欲しかったんですよ!私が見つけた青北高校、絶対今大会のダークホースになりますって!」


 一回戦の山王高校も観戦しに来ていた新人野球記者の鳥谷綾乃が、先輩でもあるベテラン記者の松平まるだいら康介こうすけを急かす。

 一回戦で五回コールドとノーヒットノーランを達成した青北高校をマークした鳥谷は、会社の先輩でもある松平に見てもらう為にやって来た。

 最初は渋っていた松平だったが、鳥谷がどうしてもと言うので仕方なく見に来たのだ。


「ああもう、先輩が遅刻するからもう半分終わっちゃってるじゃないですか!……って3-0!?えっ嘘、青北高校負けてるの!?」


 得点ボードを見て驚く鳥谷。

 一回戦で圧巻のピッチングをしてノーノーを果たした雄馬が打たれているとは思わなかった。

 その状況を見て、ベテラン記者の松平は「ほらな」と笑って、


「所詮県予選の一回戦だ。そういうことが起きるのもたまにあるんだよ。お前一押しのピッチャーが打たれて残念だったな。まぁ、まだまだ新米のお前じゃしょうがないか」


 欠伸をしながら言う松平。

 鳥谷は雄馬を眺めながら「そんなぁ……」と落ち込んでいた。




 五回裏。川澄高校の攻撃。

 川澄の選手達は円陣を組んで、士気を上げていた。

 監督がみんなの顔を眺めながら、こう告げる。


「三点取って満足するな。貪欲に狙っていけ!」

「「はい!!」」


 みんなが大声を出し、再び闘志をみなぎらせていた。


「……」


 その気迫に押され、大山の心はさらに弱々しくなっていく。


「プレイ!」


 川澄高校は七番バッターから。


(初球は外していこう……)


 雄馬は大山のサイン通りに投げ、カウントは2-1になる。


(決め球を狙っているなら、外して空ぶりを取ってやる!)


 相手の裏をかこうと配球を立てる大山。

 それから二球続けてストライクゾーンは避けるも、打者は全く振って来ない。


(くそ、一体どうなってんだよ!?)


 困惑する大山はストライクゾーンで勝負するも、狙っていたかのようにフルスイングされ、二塁打を打たれてしまった。


(下位打線にも打たれた……もう何がどうなってんのか分かんねえよ!?)


 混乱する大山。

 彼の考えてることを、川澄高校の監督は手に取るように理解していた。


(分かるぞキャッチャー君、君の気持ちは痛いほどわかる。どこを要求しても打たれ、どうすればいいのか困惑しているのだろう?そういうドツボに嵌っている時は、とことんダメになってしまうものさ)


 監督は続けて雄馬を見て、


(彼が真っすぐしか投げれないのが厳しい点だな。変化球が一つでもあれば話は変わってくるのだが、ストレート一本じゃリードするのも難しかろう。いくら質の良いストレートがあっても、まっすぐだけで勝てるほど野球は甘くないぞ!)


 ノーアウトランナー二塁。

 続く八番バッターにも安打を打たれてしまい、ノーアウトランナー一塁、三塁とまたもやピンチに陥ってしまう。

 大山は慌ててタイムを取ると、雄馬のもとへ向った。

 今にも泣きそうな顔をする大山は、「すまん」と一言謝る。

 すると雄馬はため息をつきながら、


「何がっすか?」

「何がって……俺のリードが悪いせいで打たれたし……それと、チャンスに二回もゲッツーしちまうし……」


 下を向きながら徐々に声が小さくなっていく大山に、雄馬は一言。


「つまんねー顔してんじゃねぇよ」

「えっ……」


 突き放すような言葉を浴びせられ、大山は驚いてしまう。

 雄馬の顔を見上げると、彼は半眼で睨んでいた。


「先輩、今自分の何がダメだのか分かってんすか?」

「そりゃ……リードにゲッツーに……」

「違うね」


 雄馬は間髪入れずに否定すると続けて、


「ゲッツー?打てない時は誰にだってあるさ。リードがダメ?それは打たれてる俺が一番悪いんだよ」

「じゃ、じゃあ何がダメだって言うんだよ!?」

「自分が打てないことを守備に持ち込んで、勝手に塞ぎ込んでんのがムカつくんだよ」

「――っ!?」


 はっ!とする大山に、雄馬は言葉を伝える。


「守備の要であるキャッチャーが無言ってどういう事なんだよ。視野を広く持って、人一倍声を出して、みんなのやる気を上げるのがキャッチャーの役目なんじゃねぇのか。なのにあんたはずっとだんまりで、辛気臭い顔してミットを構えるだけ。それなら、ただの的と変わんねぇんだよ」

「……」

「それに、今の先輩に投げても全然楽しくないね。気分も乗んねぇよ」


 厳しく言う雄馬に、大山は何も言い返せない。

 雄馬の言う通りだ。

 自分はゲッツーで何度もチャンスを潰してしまい落ち込んで。

 それを守備に持ち込んで声もかけられず、配球を読まれてドンドン打たれて。

 全部自分の所為だと落ち込んで、周りに気を配っていなかった。

 青北のキャプテンでもあり、守備の要であるキャッチャーなのに、全部自分のことしか考えていなかった。


「君達、タイム長いよ。早く戻りたまえ」

「すんません!ほら先輩、早く戻ってくださいよ」


 しっしと、あしらうように雄馬が手を振ると、大山はとぼとぼとキャッチャーポジションに戻っていく。


(うわぁ、雰囲気最悪じゃねえか、どうすんだよ大将!?)


 二人のやり取りを見ていた光一は、心配そうに大山を見る。

 川澄高校の監督も、青北バッテリーを見ながら、


(モメ事か?まあ、これであのキャッチャーは確実に潰れたな)


 監督がそう思っていると、突然パアアアアン!と甲高いが鳴り響いた。

 それは、大山が自分の両手で頬を強く叩いた音だった。

 大山は大きく息を吸い込み、


「ノーアウトランナー一、三塁!内野は近いところでゲッツー!外野はとにかくバックホームだ!!」


 突然大きな声を出して指示する大山に、みんながキョトンとする。

 するとみんなはにやっと笑うと、


「「バッチコーーーイ!!」」


 と声を出し始めた。


「プレイ!」


 試合が再開され、大山はぐっとミットを構える。

 雄馬が投げたボールがストライクになると、大山は「ナイスボール!!」と声をかけながら雄馬に返球した。

 ボールをキャッチした雄馬は、帽子を直しながら「やればできんじゃないすか」と笑った。

 その光景を見ていた監督は、驚愕していた。


(馬鹿な……あそこから息を吹き返しただと!?)


 ツーストライクに追い込んだ後、大山はミットをど真ん中に構えた。

 その挑戦的なリードに雄馬は「いいじゃん!」と歯をむき出しにして笑うと、大きく振りかぶった。


(ワインドアップ!?)


 雄馬がワインドアップをしたことで、ファーストランナーはすかさず二塁に走る。

 だが誰も動じることなく、雄馬の投球を見守った。

 足を上げ、腰を捻る。

 大きく踏み込み、リリース。

 指先から放たれたボールは空を裂き、バットを置き去りにしてミットに吸い込まれた。


(は、速えっ!?)

「ストライクバッターアウト!!」


 三振に打ち取られた九番バッターは、今までの球速よりも格段に速くなっている球に驚く。

 大山は「ナイスボール!」と雄馬にボールを返すと、心の中で彼に感謝した。


(ありがとな雄馬、おかげで目が覚めたよ。そうだよな、キャッチャーが一人で塞ぎ込むなんてあっちゃいけないよな。打てないし、打たれるしで、俺はダメだって……そうじゃないんだよな。キャッチャーはやる事が山ほどあるんだ、落ち込んでる場合じゃなかった!!)


 ぐっと構える大山。

 雄馬は「それが欲しかったんだよ!!」と豪速球を投げ、一番バッターと二番バッターを三振に打ち取った。


(馬鹿な!?今までより10kmは速くなっているぞ。力を隠していたというのか?それに、先ほどまでとは気迫が違う。別人になったようだ)


 雄馬のピッチングに驚く監督。




 攻守交替となり、六回表。

 0-3と川澄高校のリード。

 打順は九番の中丸から。

 キャッチャー防具を外している大山に、雄馬が声をかける。


「よくど真ん中に構えましたね、打たれるのが怖くなかったんですか?」

「お前なら、あそこに構えた方が燃えるかなって思ってさ」


 頭の後ろをかきながら言う大山のぽんっと肩を叩き、雄馬は「流石俺の女房役だ」と告げて中丸の応援をする。

 そんな彼の背中を見つめながら大山は「本当……頼りになる一年だよ」とため息を吐いた。


「うおらああああ!!」


 中丸も気合を入れるも、変化球に苦戦して三振してしまう。

 打順は三巡目になり一番宗谷となる。

 何とか出ようと粘るが、フォークにつられ三振してしまった。

 ノーアウトランナー無し。

 二番バッターの光一はスライダーを打ち、一二塁間に抜けてライト前ヒットとなる。

 そして三番バッターの雄馬。


(点差はある、ここは勝負だ!)

(分かった!)


 雄馬との勝負を選んだ川澄バッテリー。

 カウント2―2で追い込み、続く五球目。


「――ッ!」


 落ちる球をすくい上げ、センター前ヒットとなった。


(くそ、決めにいったフォークを打たれた……)


 勝負に行ったが打たれてしまった。

 ここでキャッチャーは監督に視線を送ると、監督は慎吾に敬遠のサインを送った。

 頷くキャッチャーは、立ち上がって横にずれる。


「あっまた敬遠かよ!?ズルいぞ、逃げんな!」

「その方が確実にアウトにできると判断してのことだろう。実際、大山先輩は二回チャンスを潰している。アウトを取れる可能性が高い方を選ぶのは間違っていない」

「そうだけどさ……」


 実際間違っていない。

 それは分かっているけど、納得はできない小西は、珍しく怒った表情でネクストサークルに向かった。

 その横で、宗谷は心の中で強く念じていた。


(打て大山、ここで打たなきゃいつ打つんだ!!)


 ツーアウトランナー満塁。

 バッターボックスに入る大山。

 彼を見上げながら、川澄キャッチャーは作戦を練る。


(この五番は変化球に全然合ってない。徹底的に変化球で攻めてやる)


「プレイ!」


 第一球目。

 真ん中付近に来たボールを強振するが、手前で落ちてストライクとなる。

 二球目はアウトコースにスライダー。

 これは見逃しボールとなる。

 三球目は低めにフォーク。

 これも見逃しボール。

 四球目はインコースにスライダー。

 大山は手が出ずストライク。

 これでカウントは2-2となり、追い込まれてしまう。


(次で決める!!)

(何でだろうな……自分の時は全然わかんなかったのに、今は相手の配球がよくわかる)


 五球目。

 ボールは低めに来たが、落ちてボールとなった。


(なっ!?今のを見送ったのか!?)

(あっぶねー!まっすぐだったら終わってた!!)


 フォークで仕留めにいったボールを見送られ驚くキャッチャー。

 これでカウントは2-3のフルカウントになった。

 次の球が正真正銘の勝負となる。


(満塁でフルカウント。暴投やボールになりやすいフォークは投げられないよな。それに、俺は全然スライダーに合ってない。とくりゃ――)


 第六球目を投げる。

 ボールは真ん中付近に行き、そこから横に滑った。


(スライダーしかないよなあ!!)


 配球を読み勝った大山のバットが火を噴いた。

 会心の一打はレフトオーバーの長打コースになる。


「回れ回れ!!」

 三塁ランナーの光一と二塁ランナーの雄馬は余裕を持って生還。

 そして一塁ランナーの慎吾も三塁を蹴った。


「バックホーム!」


 レフトが投げたボールが中継のショートに送られ、ショートがホームに向かって投げる。

 慎吾は頭から突っ込んだ。

 結果は――、


「セーフ!」

「「しゃああ!!」」


 慎吾の手が先にホームベースに触れており、セーフとなった。

 これで3-3。同点となる。


「先輩ーー、ナイバッチーーー!!」

「ぜえ……ぜえ……」


 二塁ベースで息を切らす大山は、ベンチに向かってガッツポーズした。


「やるじゃねえか!先輩!」

「まさかあそこで打つとはな。俺も驚いたぜ」


 そう告げる慎吾に、雄馬は「そうか?」と言って、にししと口角を上げる。


「俺は打つと思ってたぜ」

(よくやった、大山!)


 そして、宗谷は口を開くこともなく小さくガッツポーズをした。

 川澄高校はタイムを取り、内野が集まる。


「すまねえ」


 みんなに謝るピッチャーに、仲間は「何言ってんだよ」と言って、


「まだ同点にされただけじゃねぇかよ」

「そうだよ、俺達が絶対に打ってやるから」

「まずはこのバッターを打ち取ろう」

「「おう!!」」


 再び士気を上げる川澄高校の選手達はそれぞれのポジションに戻っていく。

 ツーアウトランナー二塁で、一打逆転のチャンス。

 迎えたバッターは六番小西。


(六番も変化球には合ってない。初球はカウントを取りにいくぞ)


 サインに頷いたピッチャーは初球スライダーを投げる。

 しかし小西はそのスライダーに反応し、


「それはもう沢山見たよ」


 芯で捉えた。

 カキーンと甲高い音を響かせ、打球は右中間に飛んでいく。

 大山がホームに帰ってきて逆転。

 打った小西も二塁に向かった。


「うおー!!!???」

「すげーぞ小西!」

「ナイバッチ!!」

「にしてもあいつすげーな、今のマグレ当たりじゃなくて完璧の捉えた当たりだったぞ。初心者があのスライダーを打つとか信じられねーわ」


 皆が喜ぶ中、光一は小西の凄さに驚いていた。

 しかしバッターボックスに入る文学は、小西が打ったことをなんら驚いていなかった。


(山田が二度目の敬遠をされてから太陽の顔つきが変わった。あいつは気に入らないことがあると無視するか怒るかの二択。そして怒った時の太陽の集中力は尋常じゃない)


 小西と幼馴染の文学は、彼の性格がよく分かっていた。


(あいつには負けられんな)


 そして文学も、意外と負けず嫌いなところがあった。


「くっ……!」

「ストライクバッターアウト、チェンジ!」


 しかし変化球にはまだ対応できず、三振になってしまう。


「ナイバッチ小西!」

「まあね、俺天才だから!」

「この野郎、調子に乗りやがって」


 大山に褒められて笑顔を浮かべる小西に光一がため息を吐く。




 六回裏、川澄高校の攻撃。

 逆転し、4-3で青北リード。


「逆転はされたが、まだ四回もある。絶対に追いついて逆転するぞ!!」

「「はい!!」」


 まだまだ試合を諦めていない川澄高校。

 しかし、ここからの雄馬の投球は圧巻だった。

 ギアが上がったかのように、140km近い剛速球を投げまくる。

 この速球に川澄高校は手が出ない。

 さらに――、


「ふん!」


 四番、慎吾の打ったダメ押しホームランが川澄高校の心を折った。

 済ました顔でベンチに帰ってる慎吾に、雄馬が問いかける。

「随分と鬱憤がたまってたみたいだな」

「まだ全然打ちたりねーよ」


 頼もしい四番に、雄馬は「そうかよ」と笑った。




 そして迎えた九回裏。

 ツーアウトランナーなし。カウントは2-1と追い込んでいた。

(絶対打つ!このまま終わってたまるか!!)

 四球目を投げる雄馬。

 ボールはバットを置き去りにし、大山のミットに吸い込まれた。


「ストライクバッターアウト!ゲームセット!」


 ゲームセットとなり、5-3で青北が勝利した。


「キャー!ダーリンかっこいいーー!!」

「いいぞ慎吾ー!!」

「なんとか勝ったな」

「それな」

「いやーよかったよかった!」


 慎吾の仲間やうららの父親が喜びの声を上げる。

 応援にかけつけてくれた人たちに挨拶をしてベンチに戻る最中、慎吾が気になっていたことを雄馬に尋ねる。


「おい進藤。お前、川澄のアウトコース狙いに気付いてただろ。それに初球のストライクもだ」

「まあ、なんとなくはな」

「何で黙ってた。分かってたんなら三点も取られなかっただろ」


 文句を言ってくる慎吾に雄馬は「別にいいじゃねーか」と反論する。


「ああ?投球ってのはピッチャーとキャッチャーが二人で作るもんじゃねぇのか」

「そうなんだけどよ、俺が教えたんじゃ面白くねーだろ。それに、俺の女房役ならこれくらいのピンチは乗り越えてもらわないとな」


 勝気に笑いながら言う雄馬。

 歩みが止まった慎吾は雄馬の背中を見つめながら、信じられないといった風にぽつりと呟いた。


「これは公式戦だぞ、なのにあいつ……ドSじゃねーか」




 青北高校と川澄高校との試合を途中から見ていたベテランスポーツ記者の松平は顎に手を当てながら、


「進藤雄馬……面白い」

「ですよね!?ですよね!?彼、ノーヒットノーランも達成したし、ホームランも打ってるし、それに男前だし、話題性あると思うんですよね!!」


 目を輝かせながら迫ってくる女性記者の鳥谷にヒきながら、松平は顎をこすりながら「よし」と頷いくと、


「おい鳥谷、進藤の写真は撮ってあるか?」

「勿論ですとも!!」


 松平は「でかした」と言うと、楽し気な表情で、


「こいつは特ダネになるぜ」


 川澄高校に5-3で勝利した青北高校は、三回戦の切符を手にしたのだった。






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