第３２球 vs川澄高校２ 配球を読まれてる！？
青北高校と川澄高校との試合。
０―０と点は動かず。
二回表、青北の攻撃。
バッターは四番の慎吾。
（こいつにも慎重に行くぞ）
（おう）
慎吾を警戒する川澄バッテリー。
一球目、二球目は明らかに外し、ツーボールとなる。
（手を出してくる気配はないな……一球臭いところいってみるか）
キャッチャーのサインに頷いたピッチャーは、アウトコースに変化球を投げる。
「――ッ」
カキンッと甲高い音が鳴り響く。
慎吾が打った打球はライナー性になり、三遊間を抜けてレフト前ヒットになった。
「いいぞ山田ー！！」
味方の声援を無視する慎吾を見ながら、川澄キャッチャーは驚いていた。
（今のも全然甘くねぇとこたぞ……それを一球で捉えるのかよ。これはもっと警戒レベルを上げなきゃダメだな）
ノーアウトランナー一塁。
次の打席は五番大山。
「大山先輩、打っちゃっていっすよー！」
（簡単に言ってくれるよ……）
打席に入る大山は、気合を入れる。
しかし初球の変化球を引っ掛けてしまい、サードゴロ。
５－３－１のダブルプレーになってしまった。
「……す、すまん」
落ち込みながらベンチに帰ってくるキャプテンに、みんなが「ドンマイドンマイ」と優しく声をかける。
「先輩、手伝いますよ」
「あ、ありがとな」
キャッチャー防具を着るのを手伝う雄馬。
そんな彼に、大山は申し訳なさそうに言う。
「ごめんな雄馬、俺がチャンスを潰しちまって……」
「何言ってんすか、まだ二回ですよ。落ち込むのは早いですって」
「あ痛っ！」
バシッと大山の背中を叩く。
六番バッターの小西が三振になり、チェンジとなった。
「ほら、いきますよ」
「お、おう！」
二回裏。
川澄高校の攻撃は四番からとなる。
「しゃあ！」
この四番も打つ前から声を出し、気迫が溢れていた。
「プレイ！」
第一球目、雄馬が投げたストレートをじっくりと見逃す四番バッター。
（速いな……それにあいつ等が言ってたように手元でグンッと伸びてきてる。予想よりタイミング早めで振らないと……）
打席に入った仲間から情報を得ていた四番バッターは、実際見た情報と摺り合わせる。
二球目も空振りとなり、三球目はバットに当てるもセカンドフライ。
「おっけーおっけー」
小西が危なげなくフライをキャッチしてワンアウト。
（まだ差し込まれてるのかよ！？）
早めに振ったはずなのにつまってしまい、驚く四番バッター。
続く五番バッターも詰まった当たりでファーストゴロに倒れる。
六番バッターは４球で三振に打ち取ってチェンジとななった。
この回も三者凡退に終わった。
三回表。青北高校の攻撃。
七番文学は、八級粘るも、最後のフォークに空振りして三振してしまう。
ベンチに帰ってくる文学に、光一が「惜しかったな」と声をかけた。
「横に滑るスライダーならなんとか追いつける。だが、急激に落ちるフォークを打つのは難しいな」
「まだ始めて２、３か月のお前がスライダーに対応できるのが凄えよ……」
自分の打席を冷静に振り返って口にする文学に、「恐ろしい奴」と光一がヒく。
続く八番バッターは城田。
ストレートを狙うも、バットに当たらず三振。
九番バッター中丸は全球フルスイングで三振となる。
光一はベンチに帰ってくる中丸を半眼で睨みながら、
「……お前はもう少し文学を見習えよな」
「うるせえ！俺は全球ホームランを狙ってんだよ！」
「それは無理だろ」
間髪入れずに告げると、中丸は「なんだとゴラぁ！？」とメンチをきる。
そんな彼に、雄馬が仲裁に入った。
「まぁいいじゃねえか、九番バッターがホームラン狙って全球フルスイングするチームなんて滅多にいねえし、俺は面白いと思うぜ。それに、フルスイングってのは意外とピッチャーにもダメージがあるしな」
「ほーら、進藤だってこう言ってんじゃねぇか」
雄馬を味方につけて調子に乗る中丸に、光一は「勝手にしてくれ」とため息をついた。
三回裏、川澄の攻撃。
七番バッターはショットゴロ。
八番バッター、九番バッターはともに手が出ず三振となった。
自チームが未だにヒットが出ない状況に、監督は「うーむ」と悩まし気に呻って、
（球が速いだけのピッチャーだと思っていたが、コントロールもいいのか？内外、高低、良い感じにバラけている。だが追い込んだ時は、アウトコース低めの手が出ないところにズバンと投げている。これが偶然ではなく必然ならば、とんでもないピッチャーだな）
監督は雄馬の投球スキルに驚嘆するも、（だが……）と続けて、
（コントロールがいいならやりようはいくらでもある。それにどうやら変化球は持っていないようだし、次の回が勝負だ！）
監督が「この回だ！この回をしっかり締めてこい！」と鼓舞すると、選手達は「はい！」と大きく返事をしてグラウンドへ駆けてゆく。
四回表。
打順は一番宗谷からの好打順。
（出る、何がなんでも転がしてやる！）
宗谷はバットを指一本短く持つ。
それを、川澄キャッチャーは見逃していなかった。
アウトコースに全球スライダーを投げられ、宗谷はバットに当てることすら出来ずに三振してしまう。
「くそ……」
悔しがる宗谷。
その展開を見ていた慎吾は、相手キャッチャーを褒めた。
「あのキャッチャー、やるな」
「ピッチャーじゃなくて、なんでキャッチャーが凄いの？」
何故ピッチャーではなくキャッチャーを褒めるのか分からずに小西が問いかけると、慎吾が説明する。
「先輩がバットを短く持って打ち気なのが分かったんだろうな。すぐにアウトコース、それもややボール気味の配球を立てた」
「宗谷先輩の意識の逆を突いたというわけか」
「そうなるな」
途中から話に入ってきた文学に相槌を打つ。
すると小西は「なるほどなー、キャッチャーって大変なんだなー」と感心した風に言うと、慎吾は続けて、
「まぁ、キャッチャーは扇の要って言うしな」
そんな話をしている間に、光一が詰まった当たりでポテンヒットになった。
（ら、ラッキー！！）
一塁ベースの上で喜ぶ光一。
これでワンナウト一塁。
打席は三番の雄馬になる。
（３、４番の前にランナーは出したくなかったんだけどな）
川澄キャッチャーは慎重に配球を組み立てる。
しかし雄馬は初球のスライダーを捉え、ライト前ヒットを打った。
ワンナウトランナー１、３塁、先制点のチャンスとなった。
監督がキャッチャーにサインを送ると、キャッチャーは頷いて立ち上がる。
「あれ、なんか急に相手のキャッチャーが立ってキャッチボールしてんだけど。なにあれ？」
川澄バッテリーの行為に小西が疑問を抱くと、文学が説明する。
「あれは敬遠だな。今のバッターとは勝負をせず、フォアボールで歩かせるプレーだ」
「勿体ねぇの、何でただでフォアボールあげちゃうんだよ」
「満塁にして守備をし易くするという点もあるが、大部分は強打者との戦いを避けるためだ。現在のバッターである山田との勝負をさけ、ネクストバッターである大山先輩と勝負したほうが良いと判断したのだろう」
「ふ～ん、ようするに先輩はなめられているって訳ね」
「そういう事だな」
身も蓋もない小西の結論に宗谷は「おいおい……」と突っ込むが、心の中では熱く大山のことを応援していた。
（打て大山、ここで打たなくてどうする！）
「ボール、フォアボール！！」
敬遠は成功し、慎吾は「ちっ」と舌打ちしながらバットを置いて一塁に向かう。
そしてネクストバッターである大山が打席に入った。
（そりゃ山田との勝負は避けるよな……）
ワンナウトランナー満塁。
一打先制点のチャンス。
初球は真っすぐでストライク。
（このピッチャーはコントールもいいし、押し出しは期待できそうにない。俺が打たなくちゃダメなんだ。最悪外野まで飛ばして、タッチアップでもいい！）
続く二球目。
大山は気合の入ったスイングをするも、フォークボールを引っかけてしまいピッチャーゴロ。
１―２―３のダブルプレーとなり、絶好のチャンスを潰してしまった。
「あーあ」
「あのデブ、またやらかしちまったな」
青北ベンチはため息をつく。
残念な気持ちのまま、守備に向かった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
必死にファーストを駆け抜けた大山は、その場で膝に手をついてしまう。
（クソッ、またゲッツーかよ！！ どんだけチームに迷惑かけてんだよ俺は！！）
二度もチャンスを潰してしまったことで、自己嫌悪に陥る大山。
そんな彼に、うららが駆け寄る。
「先輩！防具の装着手伝います！」
「ああ春野……ありがとな」
ベンチに戻る大山は、うららに手を借りながら急いで防具をつけると、キャッチャーポジションに向かった。
「わ、悪い雄馬！遅れた！」
「っす」
短めの返事をした後、すぐに投球練習を行った。
大山はボールをキャッチしながら、
（やっぱり雄馬、怒ってるよなぁ……）
内心でびくびくする大山。
そんな精神状態のまま、四回裏が始まる。
四回の裏、川澄高校の攻撃。
打順は一番からの好打順。
一球目と二球目がストライクになり、すぐに追い込んだ。
（よし、ここでアウトコースだ）
大山のサインに頷いた雄馬が投げた三球目。
川澄の一番バッターがアウトコースの真っ直ぐを捉え、打球はライト前ヒットになる。
（打たれた……）
この回、川澄が初めての安打となる。
ノーアウトランナー一塁。
続く二番バッターも簡単に追い込むが……。
（よし、今度こそ！）
大山はまたアウトコースに要求したが、それもクリーンヒットされてしまう。
打球はセンター前に運ばれ、ノーアウトランナー一塁、二塁。
（またそこを打つのかよ！！）
決め球であるアウトコースを二度続けて打たれてしまい、戸惑う大山。
そして続く三番バッターには、初球を捉えられボールは左中間の長打コースに飛んでいった。
「回れ回れ！！」
二塁ランナーは楽々ホームに帰り、一塁ランナーも中丸と城田の捕球が遅れたことにより帰ってくる。
先制点は川澄高校。
これで点差は０―２。
しかもノーアウトランナー三塁で、まだピンチは続いている。
そして迎えた四番バッターはレフトフライ。
飛距離は十分で、タッチアップにより三点目を失ってしまった。
五番、六番はバッターはゴロで打ち取ってチェンジになるも、三点という大きな点を失ってしまった。
「みんな、おつかれ！！ここから反撃だよ！！」
うららが明るく振る舞うが、ベンチの空気は明らかに下がっていた。
「おい進藤、テメエぼかぼか打たれすぎなんだよ！！」
「おう、悪いな」
「ちょっとカズ、やめなよ」
中丸が雄馬に食ってかかるが、城田が後ろから羽交い締めにして止める。
雄馬は淡々と謝った。
「でも、何で突然打ち出したんだろうな。一回り目はそうでもなかったのに」
宗谷が顎に手をやりながら疑問気に呟くと、慎吾が答える。
「まぁ十中八九、こっちの配球を読まれていたな」
「え？」
慎吾の発言に大山は目を見開きながら顔を上げる。
慎吾は続けて、
「先輩、追い込んだ後の決め球はアウトコースにサイン出していましたよね。相手は簡単に追い込まれたフリをして、三球目の決め球を狙ってきた。それも二者連続で」
「……そ、そんな」
「それに、初球ストライクも狙われてますね」
「ま、マジかよ……」
慎吾の話に打ちひしがれた大山は心の中で、
（じゃあ、俺の迂闊な配球で三点も取られたってのかよ……！！）
ぎゅっと、悔しさで拳を握る大山。
それを見てうららが「先輩……」と心配そうに大山を見る。
励ましたいが、なんて声をかければいいかわからない。
そうこうしている間に六番小西と七番文学と八番城田が打ち取られ、チェンジとなる。
点差は０－３と川澄高校にリードされ、青北高校に嫌な雰囲気が立ち込めるのだった。
