第31球 第二回戦vs川澄高校
山王高校との初戦、10―0の五回コールドで勝利した青北高校。
次の週の土曜日。
雄馬達は、第二回戦の試合相手である川澄高校に赴いていた。
青北高校が球場になった一回戦と違って、今回は青北高校を応援する者は少ないが、それでも慎吾の仲間達やうららの父親といったおなじみの応援団が駆けつけてくれていた。
「ダーリーン、頑張ってー!」
「慎吾ー、打たなかったら承知しないからねー!」
アウェイなのをおくびにも出さず大声で応援する夏川愛理と蟹田みやび。
「おい、そんな大声出すなよ……」
「それな……」
逆に男子勢の甲斐と菊岡は身体を縮こませていた。
「頑張れ、青北高校」
そんな応援団の横で、うららの父親の芳樹が雄馬達を応援していた。
「今日の相手って強いの?」
「なんか一回戦でノーヒットノーランしたんだってさー」
「マジかよ!そんな強いとこなのか」
「まぁ、うちなら大丈夫でしょ。春の大会でもそれなりに勝ってんだしさ」
逆に相手の川澄高校はホームだからか、多くの親族や生徒が応援に訪れていた。
青北ベンチ。
「なあ文学、川澄高校は強いのか?」
大山が問いかけると、そばにいたうららが尋ねる。
「大山先輩、なんでマネージャーのわたしに聞かず文学君に聞くんですか?」
「じゃあ春野は知ってんのか?」
「……」
あっちのほうを向いて黙ってしまったうららに、大山は「ほらな」とため息を吐く。
二人のコントが終わったと判断した文学は、鞄から手帳を取り出して、
「春季大会は三回戦まで残ってますね。特別誰か突出している選手がいる訳ではありませんが、逆を言えばチームバランスが良いと思います。うちとは逆ですね」
「そうだよなー、相手はシード校だし、そんなもんだよなー」
「シード」は、春に行われた春季大会で良い成績を残した高校が与えられる。
一回戦を飛ばし、二回戦から戦える権利だ。
という事は、川澄高校からしたら青北が初めての試合となるのだ。
逆に雄馬達青北高校は「パッキン」とよばれ、一番試合数が多い場所になる。
「ちっ、ズルぃ奴らだ」
中丸が腕を組みながら愚痴ると、光一が庇うように口を開いた。
「春季大会で勝ち残ったあいつらの特権だ。文句は言えねぇよ」
「そうだよカズ」
「ちっ」
「ただ、シード校が絶対的に有利っていう話でもねぇぜ」
慎吾の話に、宗谷が「何んでだ?」と尋ねると、
「シード校はこれが初めての試合だ。浮足立つこともあるし、うまくいかないこともある。それに相手は一回戦を勝ってイケイケな状態、パッキンがシード校を食うってのは、よくある話だぜ。まあ、そこんところは相手も分かってるんだろうけどな」
慎吾の説明のとおり、川澄高校は青北を警戒していた。
「相手の青北は一回戦を五回コールドで倒している。それもピッチャーはノーヒットノーランを達成しているそうだ」
川澄高校の監督がそう言えば、選手達は「マジかよ……」と驚愕する。
ノーヒットノーランと聞いておびえる彼等の緊張を解そうと、監督は続けて、
「だがこれは相手校が弱かったのもある。まぁそれでも凄いことにかわりないが、お前達が打てないとは私は思わない」
「まぁ、そうですね」
「130ぐらいなら全然打てるよな」
「しかし、向こうには一回戦を勝った勢いがある。何が起こるか分からない。無名校だからと油断しないで、気を引き締めていこう」
「「はい!!」」
元気よく返事をする選手達。
そんな彼等の顔を見て、監督は心の中でよしっと頷いた。
(シード校を食うジャイアントキリングはよくある事だ。それも相手が無名校と聞けば、誰もが油断しても仕方ない。その点、青北は一回戦を圧倒的に勝利したことで、油断ならない相手となった。あいつらの実力ならば、初回から集中すれば負けることはないだろう)
グラウンド中央に整列して挨拶する川澄選手達の背中を眺めながら、監督は闘志を燃やす。
(去年の夏は三回戦負け。そして春季大会は四回目戦負け。やっと手に入れたシード権を生かし、今年はベスト16を狙う!)
各校の選手達がグラウンドの中央に並んだ。
大会運営審判がルールを説明したのち、試合を開始する。
「これより、川澄高校対青北高校の試合を始めます。互いに礼!」
「「お願いしあす!!」」
両チーム挨拶し、各自ポジションに移動する。
今回の青北は先攻なので、一斉にベンチに戻る。
後攻の川澄高校の選手達は守備に入った。
軽く守備練習を行った所で、試合開始となる。
「プレイ!」
一番バッターは宗谷。
今回もセーフティーバントを狙おうとしていたが、
「ストライク!」
「ぐっ」
初球のスライダーにバットを当てられず空振りしてしまう。
続く二球目もスライダーを空振り。
スリーバントで失敗するとアウトになってしまうので普通の構えに戻すが、三球続けてのスライダーに手が出ず三振してしまう。
「変化球連投かよ、落ち着いてんなー川澄バッテリー」
「それだけ宗谷先輩を警戒していたんですかね」
うららの問いに、大山は「だろうなー」と同意して、
「夏にかける思いはどの高校も同じだし、多分一回戦目を偵察しに来てたんだろうな」
「なるほど、シードだとそういうアドバンテージがあるんですね」
大山の話に文学が関心していると、中丸は不貞腐れたように口を尖らせ、
「なんでえ、やっぱりズルじゃんかよ」
「カズ~だからそれは相手の高校が努力したからだよ~」
そうこうしている間に二番バッターの光一も変化球をひっかけてしまい、内野ゴロで打ち取られてしまう。
そして三番バッターである雄馬がバッターボックスに入る。
川澄キャッチャーは雄馬をちらりと見て、ピッチャーに視線を送った。
(三番と四番は要注意だ。気を引き締めていくぞ)
(分かってるって)
キャッチャーの意図をくみ取った川澄ピッチャーは、ふうーと短く息を吐いて集中する。
「ふん!」
第一球目は真っ直ぐから入り、ストライクとなる。
(……速いな)
川澄ピッチャーが初めて投げたストレートを速いと感じた雄馬。
それは青北ベンチも同じで、誰もが驚いていた。
「うわ!?あのピッチャー速くね!?進藤より速い気がすんだけど!」
「山王のピッチャーとはレベルが違うな。東峰の二軍ピッチャーと同じくらいの速さだ」
「ありゃ多分、135とは出てるなー」
ベンチが球速に驚いている中、雄馬は二球目の真っ直ぐを振ってファール。
三球目の変化球は見送ってボールとなった。
カウント2-1と追い込まれてしまう。
川澄キャッチャーは雄馬を横目に見ながら、
(今のスライダーに手を出さなかったのかよ。見えてんのか、手が出なかっただけなのか。続けては怖ぇな……よし、アレでいくぞ)
(分かった)
キャッチャーのサインに頷いたピッチャーが第四球目を投げる。
ボールは真っ直ぐ伸び、雄馬は強振するが、
「っ!?」
ボールは手元で落ち、雄馬のバットは空を斬ってしまう。
「ストライクバッターアウト!チェンジ!」
三振に倒れた雄馬は、ベンチに戻りながらネクストサークルにいた慎吾に尋ねる。
「最後の球、なんだった?」
「あの落ち方はフォークだな。球速的にもチェンジアップじゃねえ」
「分かった、サンキュ」
変化球の正体を教えてもらい納得する。
雄馬が戻ると、キャッチャー防具をつけていた大山が雄馬にグローブを渡した。
「ほいよ」
「あざっす」
「お前が三振するところ、初めて見たよ。残念だったな」
気を使ってくれる優しいキャプテンに、雄馬は「ふっ」と笑って、
「じゃあ、俺の代わりに先輩が打ってくださいよ」
「いやー、それはどうかなー」
「そこは任せろって言うところでしょ。女房役として」
「そう言いたいんだけどね、俺、変化球苦手なのよ」
とほほと頼りない先輩を、雄馬は「こいつ駄目だな」と半眼で見ていた。
攻守交替となり、一回裏。
川澄高校の攻撃。
「プレイ!」
「しゃあ!」
一番バッターは雄たけびを上げて気合を入れる。
(ノーヒットノーランの実力、見せて貰おうか)
監督が注目する雄馬の第一球目。
初球のストレートを捉えるが、ショートの正面に飛ぶ。
光一は難なくゴロを捌くとファーストに送り、ワンナウトとなる。
「どうだった?」
「思ってた以上には速くないです。けど、手元で伸びてくる感じです」
「そうか」
監督が聞くと、アウトになった一番バッターはそう答えた。
続く二番バッターは三球目の高めを捉え、サードフライになる。
これを文学がしっかりキャッチし、ツーアウト。
監督が続けて聞くと、二番バッターも一番バッターと同じような答えだった。
続けて三番バッターも真っ直ぐがつまり、ファーストゴロでスリーアウトチェンジとなる。
その結果に、監督はうーむと困惑する。
(130kmも出ていないように見えるが、三人共つまっている所を見るとそれだけ球が伸びているのか。よほど良い真っ直ぐなのだな)
監督はパンパンと手を叩くと、
「この回も締まっていくぞ!」
「「はい!」」
お互い三者凡退と静かな立ち上がり。
試合はまだ、始まったばかりだ。
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本日夜にもう一話投稿します。




