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第28球  野球部復活!!



 GWはたっぷり練習に費やした。

 それはもう朝から日が暮れるまで泥だらけになりながらやって、へとへとになって帰る。

 けれど皆、野球が楽しくて仕方ないのか、練習中笑顔は絶えず、誰もが声を出して積極的に行っていた。

 折角のGWにも関わらず、練習を休む者は一人もいなかった。


 そんな野球漬けのGWを過ごした、休み明けの学校。

 雄馬が登校すると、沢山の生徒に声をかけられた。


「試合見たよ、凄かったね!!」

「ねーねー、君ってあの時のピッチャーでしょ!?」

「ふーん、近くで見ると結構男前じゃん」

「私、感動しました!」

「ねえあんた、彼女いんの?」


 一年生から三年生まで、東峰大相模との練習試合を見に来ていた生徒達から声をかけてもらい(全員女子だったが)、雄馬は一人一人丁寧に対応し、クラスに着いた頃には精神的にくたびれていた。


「おっす、大将。どうした、朝から元気ねーじゃん。GWの練習でへばっちまったのか?」


 同じクラスの光一に挨拶された雄馬は、かったるそうに答える。


「そんなんじゃねーよ。ただ、なんか女子にいっぱい話しかけられてな。全員と話してたらなんか疲れた」

「く~、色男はモテるねー、憎いやつめ~」


 下卑たにやけ面を晒しながら茶化してくる光一を半眼で睨みながら、雄馬は勘弁してくれよといった風に、


「声をかけられるのは嬉しいけどよ。なんでこんなに多いんだ?」

「あ~ん?何言ってんだ大将、そんなん大将の投球姿を見たからに決まってんだろ。確かにあん時の大将は、俺でも惚れちまうほどカッコよかったしな」


 腕を組みながら光一がそう言うと、雄馬は光一との距離を少し離した。

 そんな彼に光一は「冗談を真に受けんなよ」と突っ込む。


「まぁとにかく、あん時の大将は女子には一際輝いて見えていたってことよ。俺もちったあ声をかけられもしたけど、数人だったしな」

「……」

「おい、そんな憐れんだ目で見んなや」


 その時、山田もクラスに入ってくる。

 すると、彼にも多くの女子が殺到した。

 慌てながら「うるせえ、群がってくんなや!!」と狼狽えている慎吾を指しながら、「あいつは?」と聞くと、光一は腕で顔を隠しながら、


「ちくしょう、世の中やっぱり顔だよなぁ」と嘆き悲しむ。


 そんなコントをしている二人に、慎吾が近寄ってきた。


「くそ、朝から鬱陶しくて仕方ねぇぜ」

「ぶっ殺すぞお前」

「な、なんだよ八乙女……顔が怖えぞ……」


 元不良の慎吾がビビるほど、今の光一は凄んでいた。

 今の光一と絡むのはダルいと判断した慎吾は、雄馬に顔を向けて、


「おい進藤、今日部活申請しに行くんだろ」

「おう」

「バシッと行ってこいよ。流石にこれ以上伸びると、夏の予選に間に合わねぇからな」


 慎吾の助言に、雄馬は「任せろ」と強く頷いた。




 放課後。

 雄馬はうららのクラスの前でうららを待っていた。


「ねー、あれ進藤君だよね」

「本当だ。進藤君、かっこよかったよねー」


 ここでも女子に見られ、ひそひそと話されている。

 居心地を悪くしていると、うららが慌てた様子でやってくる。


「待たせちゃってごめんね!」

「全然待ってねぇよ」

「そう?じゃあ行こっか」

「おう」


 二人が並びながら歩いていると、周囲の生徒達が二人を見ながら、


「あの子誰?」

「春野さんだよ。ほら、マネージャーの」

「へえ、マネージャーなんていたんだ。付き合ってんのかな」

「さあ」

「「……」」


 周囲の話し声が聞こえ、うららは顔が赤くなってしまい、雄馬は頭の上をガシガシ掻いた。

 変な感じになってしまった空気をかえようと、うららが口を開く。


「やっとだね」

「そうだな」


 それだけで、うららの言わんとしていることが分かる雄馬。


「色々あったね」

「そうだな、色々あった」


 本当にたくさんの事があった。

 雄馬とうららが職員室で出会い、二人で野球部を作ろうと誓いあった。

 一番最初は大山が入ってくれて、その後は宗谷が。

 雄馬が部活動紹介に強引に飛び入り参加して、小西と文学と中丸と城田が入ってくれた。

 光一はやけに頑固だったし、慎吾とは喧嘩や荒事もあったが、二人とも入ってくれた。

 そして東峰大相模高校と試合し、勝ったのだ。


「頑張ろうね、雄馬君」

「ああ」


「残念だけど、まだ申請することは出来ません」

「ああああああ!!?おいあんた、この期に及んでまだダメだっつーのかよ!どうなってんだよ!?」

「雄馬君、ちょっと落ち着こうよ」

「これが落ち着いていられっかよ!!」


 怒鳴りながら、会長の机を叩く雄馬。

 そんな彼の腕を引くうらら。

 生徒会室に足を運んだ二人は、会長のえりなに野球部の申請許可を頂きに来た。

 だが、NOと答えられてしまう。

 話が違うじゃないかと詰め寄る雄馬に、えりなは冷静に答える。


「落ち着きなさい。誰も出来ないとは言ってないわ。私は“まだ”と付け加えたのよ」

「まどろっこしいな、わかるように説明しろよ」

「貴方が勝手に理事長とした約束……去年甲子園に行った東峰大相模高校に勝てば申請の許可が得られる。貴方達は見事それをやり遂げた。私も目の前で見ていたわ、貴方達の奮闘をね」

「お、おう」


 いつもと違って優し気な表情で話すえりなに、戸惑ってしまう。


「理事長が決めたことではあるけど、私個人としても認めてあげるわ」

「そりゃありがたいけどよ、じゃあ何でダメだんだよ」

「部活を作るにあたって、監督する顧問が必要なのよ」

「顧問?」


 雄馬が首を傾げると、えりなは不思議そうな顔で、


「あら、中学の部活でも顧問はいたでしょう?」

「どうだかな、俺は部活じゃなくてシニアに入ってたから」

「そう……。とにかく部を作るのには顧問が必要なの。早い話、野球部の顧問を引き受けてくれる先生がいたら、今すぐにでも部を作れるわ」

「顧問をやってくれる先生……」

「それなら……」


 雄馬とうららは顔を見合わせる。

 二人は「うん」と頷いた。

 そんな二人を見てえりなはふっと柔らかい笑みを浮かべて、


「どうやら心当たりはあるようね」

「はい!あの会長、私たち、今すぐ行きたいので失礼します!」

「健闘を祈っているわ」


 駆け足で去っていく二人を眺めながら、いきさつを見守っていた副会長の静香がえりなに声をかける。


「今日はいつになく素直ね」

「今日の会長は眉間に皺が寄ってないです」


 静香に便乗して書記の茜が言うと、えりなは椅子の背もたれに背中を預けて、


「……別に私は好きで彼等に冷たい態度を取っていた訳ではないわよ。会長として仕方なく厳しく接していたの」

「どうだかなー。あの時の進藤君、かっこよかったもんねー」

「何がいいたいのかしら……静香……」

「会長があの男に惚れてしまったと思っているのでしょうか」

「ば、馬鹿なことを言わないでちょうだい!」


 頬を染めて顔を背けるえりな。

 意外な反応に、静香と茜はびっくりした顔で見合ったのだ。




 早速職員室に訪れた雄馬とうららは、担任の三里先生の所に向かう。


「三里先生」


 うららが声をかけると、三里先生は二人に気付いて、


「進藤君に春野さん、どうしたの二人して」

「俺達先生にお願いがあって」

「お願い?あっ!それより試合見たわよ。もー凄かった。それしか言えないぐらい凄かったわ。まさか本当にあの東峰に勝っちゃうなんて思わなかった。でもよかったわね、これで野球部も作れるんでしょう?」

「ちょうどその事についてなんすけど」

「はい?」


 疑問気に首を傾げる三里先生にうららが告げる。


「先生、野球部の顧問になってくれませんか!!」

「……へ?私が、野球部の顧問?む、無理無理無理、無理よ。だってわたし、野球の知識なんてないんだよ!?それに、野球部の顧問なら男性の先生に頼んだほうがいいんじゃいかしら」


 両手を強くふりながら断る三里先生に、うららが真剣な顔で伝える。


「私たち、顧問をしてくれるなら絶対三里先生がいいです」

「そうっすよ。先生には沢山助けてもらったし、これからも俺達のことを見てて欲しいっす。知識が無いとか女の先生だからとか関係ないっす。先生に俺達のことを見てて欲しいんすよ」

「春野さん……進藤君……」


 雄馬は自分の胸に拳を叩いて、


「先生が野球部の顧問になること、俺が絶対後悔させません」


 力強い眼差しで、信念が込められた台詞を言い切った雄馬に、三里先生は観念したように、


「そこまで言うなら、仕方ないわね」

「それじゃあ!!」

「なってあげるわよ、野球部の顧問」

「「よっしゃああ!!」」


 大喜びしながらハイタッチする二人に、三里先生は「しーー!ここ職員室だから!」と慌てて注意する。


「私も甲子園に連れてってくれるのよね、進藤君」


 としたり顔で聞いてくる三里に、雄馬はニヤリと笑って答えたのだ。


「勿論です」




「会長、顧問見つかりました!」

「あら、早かったわね」


 ずどん!と生徒会室の扉を開け、うららと雄馬が入室する。


「はい!三里先生が引き受けてくれました!」

「そう……あの先生なら問題ないわね。分かったわ、これで野球部の申請を許可致します。最終的には職員会議で判決されるでしょうけど、恐らく受理されるわ。おじい……理事長が絡んでいるからね」

「ありがとうございます!」

「部室と部費の明け渡しには時間がかかると思うわ。それまでは現状のまま頑張ってください」


 二人は「はい!」と返事をすると、さっと出て行ってしまった。


「全く、慌ただしい人たちなのです」

「ふふふ、これから楽しくなりそうね。ね、えりな」


 笑顔で聞いてくる静香に、えりなは「知らないわよ」と顔を背けたのだった。




「おーい、みんなー!!」


 グラウンドにやって来た雄馬とうらら。

 二人が土手の階段から降りてくると、みんなは練習を中断して集まる。


「どうだったよ、また冬月に無理難題を押し付けられでもしたか?」


 大山が尋ねると、雄馬はガッツポーズして、


「んなまさか、バッチリ通ったぜ!」

「おー!でかした進藤!!お前はやるやつだと思っていたぜ!!」

「やったね進藤君」

「ってことはこれで?」

「野球部が結成されたってことだな」

「「うえーーーーーーーーーーい!!」」


 全員が手を上げて喜ぶ。

 雄馬はみんなにこう言った。


「よし、じゃああれやるか」

「ちょっと恥ずいけど、今日だけは大将に付き合ってやるよ」

「陸上部は個人競技だったからな、実はこういうのに憧れていたんだ」


 雄馬をはじめ、みんなが円になるようにして並ぶ。

 雄馬が言ったアレとは、円陣のことだった。


「おいうらら、何ぼさっとしてんだ。お前も入れよ」


 円の外にいるうららに声をかける。


「えっ、私もいいの?」

「当たり前だろ。お前も野球部の一員だろ」

「……うん!」


 嬉しそうに返事をして、うららは雄馬の隣に立つ。

 みんなが中腰になって、隣同士の肩を組んだ。

 それを確認した雄馬が、みんなの顔を見ながら口を開く。


「ここまで来たのは誰かのおかげじゃねえ、みんなの力だ。後はただ上を見て駆け上がるだけ、甲子園目指して、行くぞー!!」

「「おお!!」」


「青北ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーファイ!!」

「「オーーーー!!」」


 掛け声が綺麗に決まり、みんなの心が一つになる。

 心が昂って居ても立っても居られないみんなは、道具を持ってグラウンドに駆けだした。

 そんな彼等を眺めながら、うららは隣にいる雄馬にぽつりと言う。


「私ね……ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、野球部を作るのは無理なんじゃないかなって思ってたの。人は全然集まらなかったし、東峰に勝てって言われるし。でもね、こうしてみんなが入ってくれて、東峰に勝って野球部ができた。今でも信じられないくらいで、あー、やっぱり雄馬君は凄いなって、野球って凄いなって思ったんだ」

「……ばーか」

「え?」


 雄馬はきょとんとするうららの頭に手を置き、ぐりぐりして、


「最初に始めたのは、俺達二人だろ?それに、俺だってうららのこと凄えーって思ってんだぜ」

「私が?」

「ああ。女で小っちゃいのに、一生懸命グラウンド整備してよ。何度断られても勧誘を諦めなかったし。こう言っちゃなんだが、自分がやれる訳でもない野球部のために必死に頑張ってよ、マジで凄えーと思う。俺としても、毎日上手いおかずを作ってもらってるし、あいつらの道具のこととかめちゃくちゃ助かってる。うららがいなかったら、俺だってもしかしたら野球部を諦めてたかもしれねぇ」

「雄馬君……」

「見てろようらら。俺達が、絶対に甲子園に連れて行ってやるから」

「うん、見てるよ……」


 うららは雄馬の横顔を見つめながら、もう一度、


「ずっと見てるから」


お読みいただきありがとうございましす!

これで野球部復活編は終わりとなります。

新章は甲子園予選編となります。

なるべく早いスパンで投稿したいと思っています!


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