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第22球  我妻翔平!

 




 六回裏、2-0で青北高校のリード。

 東峰の攻撃。

『七番、レフト、保科君に代わりまして、代打、我妻君』


 我妻が右バッターボックスに入る。


(ここで代打か……ってかこいつ、デカいな)


 大山は横目で我妻を確認すると、180後半はあるだろう背丈に驚く。


(ん……我妻……?)


 我妻という名前に覚えがあった慎吾。

 だが、いまいち誰だったか思いだせない。


「プレイ」


 雄馬が第一球目を投げるが、我妻は振る気配をせず見送り、ストライクとなる。


「速いな。あのピッチャーどこ中だ?」

「あん?」


 いきなり話しかけてきた我妻を、大山が見上げる。


「さあな、青森出身だそうだぜ」

「なるほど、地方のやつか。だから知らなかったんだな」


 青森出身と聞いて納得する我妻。


「プレイ!」


 雄馬が第二球目を投げる。

 我妻はスイングするが、空振りした。

 ツーストライクと二球で追い込む。

 だが彼は悲観している訳ではなく「これぐらいか」と呟いて構える。


「――ッ!?」


 我妻の雰囲気が変わった。

 そう本能で感じ取った雄馬は、インハイボール気味へ投げ込む。

 しかしボールはミットに収まることはなく、キンっと!!と快音を鳴らして飛んでいった。

 パサッ……ボールはレフト側のネットに突き刺さり、三塁審判が腕を回した。

 文句無しのホームラン。


「おいおい、マジかよ」


 打球を目で追っていた雄馬が、苦笑いをする。

 ホームベースを踏んだ我妻は、大山に喋りかけた。


「いいボールだ。が、あれぐらいの速さなら全国にいくらでもいるぜ。まあ、うちの二軍程度には通用するだろうがな」


 そう言ってホームに帰る我妻を横目に、大山は雄馬の所に行く。


「まさかお前のボールを一打席であそこまで運ぶとはな、いやー恐れいったぜ」


 気を遣うように軽い口調で大山が言うと、雄馬は「そうっすね」とあまりダメージは受けていなみたいだった。


「簡単に勝たせてくれるとは思ってなかったっす。けどまあ、やっぱりホームランを打たれるのはいい気分じゃないっすね」

「まっ、切り替えていこうや」


 ぽんっと肩を叩いてくる大山に、雄馬は「うっす」と答えた。

 キャッチャーポジションの位置に戻る大山。

 その後の八番バッター山下はショートフライ、九番バッター戸田はファーストゴロに打ち取る。

 ツーアウトランナー無しで、三巡目になり一番バッター有田。

 第一球目、有田はセーフティーバントを仕掛け、ボールは三塁に転がる。


「サード!」

「くっ!」


 大山が声をかけるも、意表を突かれてしまった文学が前に行くが出遅れてしまう。

 しかし雄馬が素早く反応し、素手でキャッチしてファーストへ送球。


「アウト!」

「ちくっしょ……」


 ギリギリアウトになり、惜しくもアウトになってしまった有田は悔しがりながらベンチに戻った。


「すまん進藤、出遅れてしまった」


 文学が謝ると、雄馬は彼の肩にぽんっとグローブ叩いて、


「今のがセーフティーバントだ。相手の意表を突いて、自分が生きるバント。勉強して覚えていても、実際にやられると反応できねぇだろ」

「……ああ」

「それが野球の面白さってやつだ」


 雄馬はにやりと笑うと、宗谷にもこう伝える。


「宗谷先輩、あれがお手本のようなセーフティーバントのイメージっす」

「あれを俺にやれってことか」

「そうっすね」

「簡単に言ってくれる」


 ため息をはく宗谷は、満更でもなさそうだった。




 東峰の監督は、今の雄馬のプレーに驚いていた。


(サードに取らせる完璧なセーフティーバント。しかも意表を突いたはずなのに、あのピッチャーは素早く反応し、素手で取りそのまま投げるという好判断。フィールディングも申し分ない。本当に、あんな逸材がどこに隠れていたのだというんだ?)


 監督の表情を読み取った我妻が、さっき手に入れた情報を伝える。


「あのピッチャー、青森出身だそうですよ」

「青森だと?」

「たまに地方にいるじゃないですか、雑草の中にひと輝く一輪の花が。そんな感じですよ、あいつは。まぁあの程度のピッチャーは、全国には結構いますけどね」

「まぁ、お前からしたらそうなんだろうな」


 呆れる監督。

 しかし、我妻は心の中で笑っていた。


(まだ両手が痺れてやがる……)


 我妻の両手がぴくぴくと震えている。

 雄馬の球をホームランにした時から、ずっと痺れが収まらない。

 それほど重いストレートだった。


(進藤雄馬……面白い)


 我妻はぎゅっと拳を握りながら、楽しそうに笑ったのだった。




 青北ベンチ。


「おう進藤!ついに打たれちまったなー!」

「ちょっとカズ、なんで嬉しそうに言うのさ」


 楽しそうに声をかけてくる中丸に、雄馬は申し訳なさそうに謝る。


「悪いな」

「お、おう……」


 初めて見た雄馬のしおらしい態度に、面をくらってしまった中丸。


「ほらー、カズがあんなこと言うから進藤君落ち込んじゃったじゃーん」

「う、うるせえ!打たれるあいつが悪いんだよ!」


 罰が悪そうに叫ぶ中丸

 そんな中、慎吾が雄馬に告げる。


「思い出したぜ」

「なんだよ突然」

「あの我妻ってやつ、東峰大相模中学の四番だったやつだ」

「なんだって!?」


 慎吾の話に大山が驚く。

 光一もそういえばと考える仕草をして、


「見たことあるとは思ってたんだよな。そうか、東峰中四番の我妻翔平あづましょうへいだったのか。夏の大会は神奈川優勝。全国はベスト4。確か15歳以下の日本代表、アンダー15にも選ばれていたはずだ」

「マジかよ、そんなすげー奴だったのか」


 我妻の経歴に驚きを隠せない大山。

 光一は慎吾に向かって、


「お前の中学も準決勝で負けてるよな」

「ふん、俺はその試合に出ていないがな」


 慎吾がいた大神中は、準決勝で東峰中学と当たって負けている。

 その前に慎吾の父親が亡くなってしまったことで、慎吾は野球を止めてしまった。

 なので東峰中と対戦した時に、慎吾は出場していなかった。


「グレてた奴が偉そうに言ってらー」


 小西が小言を言うと、慎吾の額に血管が浮き出る。

 慎吾が切れる前に、雄馬が口を開いた。


「相手が誰であろうと気にすることじゃねぇよ。今日勝ちゃ俺達の方が強い、そうだろ?」

「そうだね、私もそう思う!」


 ガッツポーズをするうららがそう言えば、ビビッていたみんなの表情が柔らかくなった。




 七回表。

 一点取られてしまったが、2-1で青北のリード。

 青北の攻撃、先頭バッターは六番の小西から。

『六番、セカンド、小西君』


「そろそろ俺もヒット打ちたくなっちゃった」


 気合を入れて打席に入る。

 しかし小西はバットに当てるもボテボテのピッチャーゴロに倒れ、ワンナウト。


『七番、セカンド、文学君』

「……」


 ツーストライクワンボールで、東峰バッテリーが仕留めにきた変化球を見送ってしまい、文学は三振に打ち取られてしまい、ツーアウト。


『八番、レフト、城田君』

「ダメだ……バットに全然当たらないや」


 城田もあっという間に三振に倒れ、スリーアウトチェンジとなる。


「なんだテメエら、全然ダメだな!」

「中丸に言われたくねーなー」

「なんだとゴラぁー、もういっぺん言ってみやがれ!」


 仲良くじゃれ合う一年生を横目に、大山は心の中で、


(初心者が打てるレベルのボールじゃねーよ。腐らず元気にやってるだけマシだよな)


 と、意外と元気な彼等に関心していたのだった。





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