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第21球 トリプルプレー!?

 



 青北高校対東峰大相模高校の試合。

 四回の裏、東峰の攻撃。

 2-0で青北高校リード。

 打順は一巡し、バッターは一番の有田から。

『一番、セカンド、有田君』


「しゃあ!」


 雄馬が第一球目を投げると、バットに当てられてしまう。

 ボールは右横に飛んでいきファールとなった。


(まだ振り遅れてんのかよ!?)

(流石に当てるよな)


 初めて当てられたことで、大山は「だよなぁ」と思う。

 流石に王者東峰。

 二巡目になると目も慣れてくる。

 東峰の監督は当たり前だと言わんばかりの顔だった。


(この回から二巡目だ。たかだか130kmの速球で、いつまでも東峰うちの打線を抑えられると思うなよ!)

「……」


 ポンっポンっとボールを弄ぶ雄馬は、帽子をキュッとかぶりなおして投球動作に入る。

 大きくふりかぶり、足を上げ、踏み込む。


(当てられるもんなら……)


 投げる。


(当ててみやがれ)

「――!?」


 放たれたボールは真っすぐ伸び、振られるバットを置き去りにして、ズドンッとキャッチャーミットに吸い込まれた。


「す、ストライーク!」

「ナイスボール!(手ぇ痺れたああ!)」


 重いボールを受けて手が痺れてしまうが、大山は我慢してボールを返す。

 もう一度投げ、一番バッターの有田を三球三振に打ち取った。


「ストライクバッターアウト!」

「なんで速くなってんだ……!?」


 悔しそうにバッターボックスから離れる有田。

 さらに雄馬は続けて二番佐野、三番沼田を連続で三振に打ち取った。

 これで雄馬は、王者東峰から12打者連続で三振を奪ったのだ。



「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」



 観客や甲斐達が大声で叫ぶ。

 誰もが雄馬の圧巻な投球に魅了されていた。

 東峰の監督は、慌ててマネージャーに問いかける。


「な、何kmだ……?」

「1……40kmです」

「140kmだと!?」


 大袈裟に驚く監督。


(さっきまでの球より10kmも速くなっているのか!?いや……それも驚きだが、東峰わたしたち相手に一巡目は力をセーブして投げていたのか、こちらの目を慣れさせないために……なんという子だ!?)


 化物を見る目で雄馬を睨む監督。

 東峰の監督は、雄馬の手に踊らされていたのかと恐怖した。


 試合は中盤に入り、五回表、青北の攻撃となる。

『八番、レフト、城田君』


「わっ!?」


 城田はなんとかバットに当てるも、ボテボテのピッチャーゴロ。


『九番、センター、中丸君』


 中丸はまたも全球フルスイングしたが、一度もバットに当てられず三振に倒れた。

 打順は三巡目、宗谷に回る。

『一番、ライト、宗谷君』

「くそ……」


 宗谷はなんとかバットに当てようとするが、変化球に合わせられず三振に倒れてしまい、チェンジとなった。



 五回裏、東峰の攻撃。

『四番、ファースト、住谷君』


「……」

「いい気迫じゃねぇか、そうこなくちゃ面白くねーよな」


 鋭い眼差しでこちらを睨んでくる四番バッターにつられ、雄馬の目も鋭くなる。


(こっちも負けらんねーんだよ!)


 一球目は空振り。

 二球目はファール。

 そして三球目は高めのボール気味を振ってしまい、三振に倒れる。


「くっそ……!」

「マネージャー、スコアブックを貸してくれ」


 悔しそうにベンチに戻ってくる住谷を横目に、東峰の監督はマネージャーからスコアブックを貸してもらい、雄馬が投げたこれまでの位置を確認する。


(これは……)


 それを見て、監督はあることに気付いた。


(全部が同じ場所ではなく、上下左右に上手い具合に散らかっている。特に三球目は高めが多く、振らせようとしている意図が分かる。これはたまたまなのか?それとも狙って……)


 監督が雄馬を見ると、視線が重なり合う。

 雄馬はニッと笑っていた。


(ッ!?たまたまではない、全部狙ってやった事か!?だが、これを140kmの速球で狙ってやっただと?あのピッチャーはコントロールも並外れているのか!?)


 監督が雄馬のコントロールに驚いている間に、五番中島、六番北村も三振に打ち取られてしまった。

 これで雄馬は、15者連続の三振を奪った。



 来賓用テント。

「前半が終わって未だノーヒット。驚きましたね」

「お、驚きましたねぇ……」

「「……」」


 横で理事長達が呑気に喋っているが、えりなは勿論、静香でさえ雄馬の投球に言葉も出なかった。



「はあ……ダーリンが格好良すぎて死にそう」

「あんたほんとにふらついてるわよ」


 ふらつく夏川を蟹田が支える。


「やべえな、あんな凄えー奴だったのかよ」


 甲斐が雄馬の実力に改めて感想を述べると、菊岡は「それな」と同意した。



 東峰ベンチ。

「監督、俺出ましょうか?」

「……」


 ずっとベンチに座って試合を眺めていた一人の選手が監督に尋ねる。

 彼は先発では出場していない控え選手だった。

 監督は「ふん」と鼻を鳴らすと、


我妻あづま、お前はこの試合には出さない」

「でも、このままじゃノーヒットノーラン喰らっちゃいますよ?」


 我妻と呼ばれた選手が淡々な表情で言うと、監督はぐうの音も出ず黙ってしまう。

 我妻はバットを持つと、


「まぁ一軍合流前のいい準備体操ですよ」

「……打たなかったら承知せんぞ」


 険しい顔で言う監督に、我妻は逆に尋ねる。 


「あの程度のボール、俺が打てないと思ってるんですか?」



 六回の表、青北の攻撃

『二番、ショート、八乙女君』


 光一の打ったボールが三遊間を抜ける。

 ファーストベースについた光一は、「しゃあ!」とガッツポーズする。

 東峰の監督は光一のバッティングを見ながら、


(一番と、六~九番は初心者だが、経験者もいるみたいだな)

『三番、ピッチャー、進藤君』


 キャッチャーの山下は監督を見やる。

 監督は勝負するなとサインを送った。

 雄馬、それに慎吾が露骨に勝負を避けられフォアボールとなり、無死満塁。

 絶対の好機に、打順は大山に回ってきた。


(チャンスに俺かよ!!)


 尻込みする大山は変化球を引っけてしまい、打球はサードへ。

 ゴロを捌いた沼田が三塁ベースを踏んだ後すぐにセカンドへ送球。

 捕球した有田がすぐにファーストへ送球。


「アウト!」


 大山は間に合わず、アウトになってしまう。


「トリプルプレーかよ!」


 舌打ちをする慎吾。

 5、4、3のトリプルプレーは珍しい。

 普通は満塁の場合、まずは点を取られないためにホームでアウトを取り、ファーストへ送ってダブルプレーを狙う。

 しかし打球がサード正面に飛んだことで、サードの沼田はトリプルプレーを判断した。

 打者が宗谷だった場合、一塁がセーフとなって一点入ったかもしれないが、足が遅い大山だったせいでトリプルプレーが成立してしまった。

 なにはともあれ、サード沼田の好判断である。


「すまねえ……」

「ドンマイっすよ、それより、ちゃんと俺の球取ってくださいね」

「お、おう!」


 雄馬が落ち込んでいる大山を慰めている中、東峰ベンチは円陣を組んでいた。

 東峰の監督は、「ナイスプレーだったぞ」とトリプルプレーでピンチを凌いだ選手達を褒めた後、みんなに謝る。


「すまなかった、相手を舐めていたのは俺だった。こんな無様な結果になっているのは、全て俺の責任にある」

「いえ、監督の所為ではありません!打てない俺達が悪いんです!」


 四番の住谷がそう言うと、他の選手も同じ気持ちだと一斉に頷く。

 庇ってくれている彼らに、監督はこう告げる。


「東峰というプライドは一度捨てよう、あのピッチャーを全国レベルと考えて戦うぞ」

「「はい!」」

「バットを短く持ち、とにかくボールの上を振って転がすんだ。バッティングを見たところ、恐らく相手チームのほとんどは野球未経験者だろう。転がすだけでチャンスは来る」

「「はい!」」

「それと高めのボールは絶対に振るな。あのピッチャーを楽にするな、プレッシャーを与えていけ!いくぞ!!」

「「はい!」」


 円陣を組んだことで気合が入った東峰ベンチ。

 それを横目に大山は(うわぁ、とうとうガチで来ちまった)と青い顔をし、逆に雄馬は勝気な笑みを浮かべたのだった。



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