第20球 一点じゃ足りない!
青北高校と東峰大相模高校との試合。
二回表、青北高校の攻撃。
打順は六番小西から。
追加点を取りたい青北だったが……。
『六番、セカンド、小西君』
「うわ!?」
『七番、サード、文学君』
「……」
『八番、センター、城田君』
「わわ!?」
三人共全く手が出ず、あっという間に三者三振に倒れてしまった。
「球曲げんのってずるくない?」
「なるほど、変化球はあんなに軌道が変化するのか……」
「ごめーん、全然ダメだったよ」
「これからこれから。ほら、速く守備につけ」
手も足も出ず三振してしまった一年トリオを励ます大山。
(なんだ~あのへっぴり腰なスイングは。五番までと違って初心者のようじゃないか……いや、初心者なのか?)
彼らのスイングを見ていた東峰監督は、頭を悩ませていた。
二回裏、攻守が変わって東峰の攻撃。
『四番、サード、住谷君』
「しゃあ!」
気合を入れてバッターボックスに立つ住谷。
彼を横目に、大山はミットを構える。
(さあ東峰の四番だ、こいつに打たれるかどうかで話が変わってくるぜ、進藤!)
「プレイ!」
(安心しろよ先輩。今日の俺は――)
雄馬は投球動作に入り、
(誰にも打たれるつもりはねぇ!!)
投げる。
「――ッ!!」
住谷はスイングするが、バットは空を切った。
「ストラーイク!」
「ナイスボール!(いいぞ、これならいける!)」
その後も雄馬のボールがバットに触れることはなく、住谷を三振に打ち取る。
「くそっ」
(ひえー、なんてスイングすんだよ。二軍といえど、流石東峰の四番だな。次はもっと注意しなきゃ)
四番バッターのスイングスピードに肝を冷やす大山。
それからも雄馬の走った球は打たれず、
五番、センター、中島。
六番、ショート、北村を三振に打ち取り、チェンジとなった。
これで雄馬は、一回から六者連続で三振となる。
三回表、青北の攻撃。
『九番、センター、中丸君』
「へへ、やっと俺の出番だぜ」
バットをぶんぶん回してバッターボックスに向かう中丸。
ネクストサークルに向かう宗谷に、雄馬がアドバイスを送る。
「宗谷先輩、バットを短く持って、とにかく当てることを考えてください。ボールが転がれば、先輩の足ならいけますよ」
「……おう、そこで見ていろ」
そうアドバイスをくれる雄馬に、宗谷が強く宣言した。
「うがー!!」
「ストライクバッターアウト」
全てフルスイングで三振して帰ってくる中丸に、大山は半眼で「お早いお帰りで」と茶化すように言う。
「うるせぇよ!」
「中丸」
「あん、なんだよ!?お前もなんか文句あんのか?」
声をかけた雄馬につっかかる中丸に、雄馬は「ナイススイング」と褒める。
「初打席で全球フルスイングなんてできる奴いねぇよ。次は頼むぜ」
「お、おう。俺に任せておきな!!」
そんなやり取りを見ていた大山とうららは、笑顔で見合った。
「球速は?」
「最高が128kmです」
「なにぃ!?」
計測に行っていたマネージャーから雄馬の球速を聞いた監督は、すっころびそうになるほど仰天した。
(Max128kmだと?どう見ても130後半は出ているように見えるぞ。よっぽど伸びとキレがあるんだな。とはいえ、こいつらがバットに当たらないのはどういう事だ?昔と比べて今では高校野球で150kmを投げる子は多くなった。こいつ等も150kmを投げるピッチャーの球を打ってきた。なのに何故カスリもせんのだ、130km台など打ち頃のはずだぞ?)
なぜ東峰の選手達が打てないのか監督が困惑していると、宗谷が打ってサードゴロになる。俊足を飛ばすが、ギリギリ間に合わなかった。
「惜しかったな」
「ああ、ボールに当たって思わず驚いてしまった。次はいける気がする」
「そのいきっすよ、先輩」
「おう!」
その時、キンっと音が鳴り響く。
光一が鋭い打球を打つが、惜しくもサードライナーに終わってしまった。
(くっそ、経験者の俺が足を引っ張ってどうすんだよ!!)
悔しがる光一の肩に雄馬がポンッと置くと、ニッと歯をむき出し、
「肩を抜けよ光一。良い当たりだったじゃねーか、たまたまサードの正面に飛んじまっただけだよ。切り替えようぜ」
「……おう、そうだな」
雄馬がそう言うと、こわばっていた光一の顔に笑顔が浮かんだ。
三回裏、東峰の攻撃。
「プレイ!」
(やっぱそう簡単に点を取らせてくれる相手じゃねーよな)
東峰のピッチャーも良い投手だ。
平均135kmの速球に、変化球も持っている。
野球経験が圧倒的に少ない青北の選手では、ヒットを打つことは難しいだろう。
(点はやれねぇな)
気合を入れる雄馬は、剛腕を唸らせる。
『七番、レフト、保科君』
「うっ」
『八番、キャッチャー、山下君』
「入ってんのかっ!?」
『九番、ピッチャー、戸田君』
「くそ」
「ストライクバッターアウト!!」
またしても三者三振。
ボールをバットに当てることも許さず、たった27球で東峰の一巡を終わらせてしまった。
九者連続の三振。
その信じられない結果に、場内がどよめいていた。
来賓用テント。
「いやー凄いですねえ」
「いやー凄いですねえ……」
理事長達が話している中、静香がえりなに問いかける。
「えりな、私野球は詳しくないんだけど、これって凄いのよね?」
「……ええ、そうね」
慎吾の仲間の夏川愛理は目をハートにして、
「はぁぁぁ、ダーリン、マジかっこよすぎなんですけど……」
「確かに、よくわかんないけど凄いのはわかる。ねえ甲斐、凄いんでしょ?」
そう問いかける蟹田みやびに、甲斐は言葉につまりながらも答える。
「凄い……なんてもんじゃねーと思うけどな。慎吾達が戦っている相手は、去年の甲子園行った高校なんだぞ」
甲斐の話に、菊岡が「へー、すげーな」と感心していた。
四回表、青北の攻撃。
『三番、ピッチャー、進藤君』
雄馬がバッターボックスに立っている中、青北ベンチの中も異様な雰囲気が漂っていた。
城田がぼそりと言う。
「ねえ、進藤君って、本当に凄い人だったんだね……」
「そうかー?あれだけ甲子園に行くって言ってたし、あれくらいやれるんじゃねぇの?」
頭の後ろで手を組みのほほんと言う小西に、文学が眼鏡を直しながら言う。
「そうだな。だが一つ分かったことがある。進藤が口だけの男ではないという事だ。甲子園を目指す……正直僕は九割疑っていたが、やつは本気で言っていたようだ」
「……そうだな。進藤は口だけの男じゃない」
大山がオウムのように言うと、他のみんなも静かに頷いた。
「フォアボール!」
(ちっ、露骨に外してきやがったな)
(マグレかもしれねえが、もう油断はしねえ)
雄馬への投球は臭い所に投げられ、勝負を避けられてしまった。
雄馬とキャッチャーの視線が一瞬交差するが、雄馬はすぐにファーストに向かう。
『四番、ファースト、山田君』
左打席に入る慎吾を目線で見上げたあと、キャッチャーの山下はピッチャーの戸田に視線を送る。
(体格もいいし、さっきのスイングも鋭かった。ここも慎重に行くぞ)
(分かった)
東峰バッテリーがサインで意思疎通を図るなか、慎吾は熱く燃えていた。
(ぜってえ打つ)
「プレイ!」
戸田が投げ、あっという間にカウントはワンストライク・スリーボール。
雄馬の時と同じように、ストライクゾーンには入れないピッチングをしていた。
(次もボール気味の変化球だ。引っかかったらもうけもんだ)
山下がサインを送ると戸田が頷き、ボールを投げる。
(しまった、中に入ってる!)
山下が胸中で慌てる中、慎吾はぐっと足を踏み込んだ。
「甘めえんだよ!」
キンッ!とバットはボールを捉える。
「フェア!」
ライナー気味の打球は一塁線の内側に落ち、ヒットとなる。
雄馬はボールの行方を横目に、快速を飛ばした。
(一点じゃ足りねぇ!)
雄馬は勢いを落とさず三塁ベースを回った。
「馬鹿!無理すんな!」
「舐めんじゃねえ!」
大山が叫び、ライトの佐野がバックホーム。
キャッチャーの山下がボールを掴んでタッチするも、雄馬はスライディングしながら左手でホームベースにタッチしていた。
「セーフ!」
主審が両腕を横に広げ、雄馬の生還が認められた。
「「うおおおおおお!!」」
雄馬がベンチに帰ると、興奮した仲間達が出迎える。
「ナイスラン!」
「お前どんだけすげーんだよ!」
「おい進藤、テメエ一人で野球やってんじゃねえよ!」
「痛ぇわ、叩くなって」
セカンドベースにいる慎吾は、面白くなさそうに盛り上がっているベンチを見る。
「ちっ、俺が打ったってのに進藤にいい所を持ってかれちまったな」
そんな中、キャッチャーの山下がピッチャーの戸田のところに向かう。
山下は申し訳なさそうに謝った。
「悪い、はっきり外させなかった俺のミスだ」
「いや、ちょっと中に入っちまった。俺のミスだ」
「切り替えようぜ、流石にこれ以上点はやれねぇ」
「おう」
話し合った東峰バッテリーは、ポジションに戻る。
ノーアウトランナー二塁。
『五番、キャッチャー、大山君』
「先輩、続けー!」
大山の打席の最中、東峰の監督は驚きながら、うららからタオルを受け取っている雄馬を見ていた。
(四番のバッティングにも驚いが、やはり目が行ってしまうのはあの進藤とかいうピッチャーだ。一見暴走に見えたが、ライトが少しもたついているのを確認していた。足も速く、最後のスライディング技術も見事だった)
雄馬の一挙手一投足を観察していた監督は、突出した雄馬の能力に関心していた。
大山はファーストゴロに終わってしまうが、その間に慎吾は三塁に進塁する。
ワンアウトランナー三塁。
『六番、セカンド、小西君』
「よっしゃー、俺も打っちゃうからねー」
ご機嫌な小西が右打席に入る。
(圧巻のピッチング、ホームランを打てる打力。足も速く、スライディング技術もある。正直に言えば特A級の選手だ。何故あんな子がこんな無名校にいるのか不思議でならん)
東峰の監督が考えごとをしている間に、小西は三振に終わってしまう。
「くっそー」
『七番、サード、文学君』
文学もスイングするも、変化球に対応できず空振り三振してしまい、チェンジとなった。
(残念でならんな。野球は一人では勝てない、こんな学校に入ったことを後悔するだろう)
東峰の監督は雄馬の選択を、残念に思ったのだった。
お読みいただきありがとうございます!!
「面白そう」「続きが気になる」と思っていただけたなら
ブックマーク登録及び下にある☆☆☆☆☆のクリック、もしくはタップをお願いします!
本日の夜、もう一話投稿します。




