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第17球  理事長の提案!

 


 えりなに野球部創設を断られた次の日の放課後。

 雄馬とうららの二人は職員室に訪れ、三里先生に部の話を聞いていた。


「どうにかなんないっすか、先生」


 手を叩いて雄馬が頼みこむが、三里先生は「う~ん」と難しい顔を浮かべて、


「今回ばかりはちょーっと難しいかなぁ。まずね、部活動のことは全て生徒会が管理しているの。あっ、生徒会は部活だけじゃなくて体育祭とか文化祭の費用とかも管理していてね、とにかく生徒会が許可を出してから、職員会議で協議することになるのよ。だから生徒会から許可を取らないとどうにもならないのよね。けど、冬月さんの言い分は至極真っ当だし、はっきり言っちゃうと無理だと思う」

「そんな……」


 三里先生の話にうららが落ち込む。

 雄馬はそれでも食い下がろうとしたが、その時、突然横から声がかかった。


「話は聞かせて貰ったよ」

「り、理事長!?」


 不意に声をかけてきたのは宗一郎だった。

 三里先生はすぐに立ち上がり、姿勢を正す。

 雄馬とうららは入学式の挨拶で理事長の顔を一度見ているが、全く覚えていなかったので「誰だこの爺さん」状態でキョトンとしていた。

 そんな雄馬に、宗一郎が話しかける。


「どうやら野球部を作りたいようだね」

「はい」

「だが実績がないので部にはなれない。実績を作ろうにも試合に出れないので、八方塞がりだ」

「……はい」


 悔しそうにする雄馬に、宗一郎は提案した。


「ではこうしよう、君達には去年神奈川県で優勝した東峰大相模高校と試合してもらう。そして勝ったら、部として認めてあげようじゃないか。私はあそこの理事長とは周知の仲でね、頼んであげよう」

「ま、マジですか!?」


 食い気味で尋ねる雄馬に、宗一郎は「マジだとも」とニコやかに続けて、


「が、もし勝てなかった場合、当初の通り愛好会から始めて頑張ること。それでまだ文句を言うなら、愛好会の許可も出さないよ。それでいいかね」

「はい!いいです!やったぜうらら!」

「ゆ、雄馬君……」


 はしゃぎ喜んでうららの両腕を握る雄馬だが、うららの顔色は優れなかった。

 彼女の懸念を、宗一郎が代わりに伝える。


「喜んでいるところ悪いが、部に昇格する為には東峰大相模に勝たなければならないんだよ。“勝てるのかね、去年の神奈川覇者に“」


 そう問えば、雄馬は宗一郎の目をまっすぐ見つめて即答する。


「勝ちます。その為に俺は青北ここに来ました」


 力強く告げる雄馬の姿を見て、宗一郎は目を細める。


(なんと自信に満ち溢れた目だ。あの時の原ちゃんにそっくりじゃないか)


 今の雄馬と、若き祖父の面影が重なり懐かしむ。

 宗一郎のチームメイトであり友である雄馬の祖父も、まっすぐな瞳をしていた。


「よろしい、では後の事は任せたまえ。試合の日時はGW初日、週の土曜、朝九時。場所は我が校のグラウンド。それでいいかね?」

「はい、ありがとうございます!!うらら、早くみんなに伝えに行こうぜ!!」

「う、うん!あの、ありがとうございます!失礼します!!」


 二人は頭を下げて感謝し、急いで職員室を出て行った。

 元気な若者の姿を見てニコニコしている理事長に、三里先生が恐る恐る尋ねる。


「あの、よろしかったのですか?」

「何がだい?」

「いえ……勝手に決めてしまって。部活動の件は娘さん……えりなさんが関わっているのでは?」

「三里先生」

「はい」

「確かに部外者の私が口を出すのは余りいいことではないよ。えりなにも勝手にやったことは悪いと思っている。だがね、一教育者として、このまま彼らの未来ある可能性を摘み取るのはいけないとも思うんだよ」


 三里先生は黙って宗一郎の話に耳を傾ける。


「私は部を作るとはいっていない。チャンスを与えただけだよ。そのチャンスを掴めるかどうかは、彼ら次第だ」

「そう……ですね」


 宗一郎の教師としての横顔を見て、三里先生はじーんと感動し、尊敬を抱いた。

 宗一郎は三里先生に柔らかい顔を向けて、


「三里先生、彼らのこと、よろしく頼むよ」


 そう言うと、宗一郎はその場を後にした。




 雄馬とうららはグラウンドに訪れ、練習中のみんなを集めた。


「おい皆聞いてくれ!野球部を作れることになったぞ!!」

「なに!?」

「本当!?進藤君!」

「デカした進藤!俺はお前のこと信じてたぞ!!」


 部を作れると聞いて喜ぶ一同。

 だが疑問を抱いた大山が雄馬に質問する。


「なんでいきなり許可が下りたんだ?」

「それがよー、三里先生と話してたら突然偉そうな爺さんが来て、試合をやって勝ったら部にしてくれるって言ってきたんだよ」

「雄馬君、あの人多分理事長だよ」


 宗一郎の顔を思い出していたうららが説明すると、雄馬は「えっマジ?」と驚いた。


「へーそうなのか。で、どこと試合するんだよ。初心者の俺らでも勝てるところなのか?」

「ああ、東峰大相模って言ってたっけな」

「ほー東峰大相模かー……って東峰大相模!!?」


 突然大山が大声を上げる。

 光一と慎吾も、同じように驚いた。

 野球に詳しくない小西達は、びっくりしている大山達の様子にきょとんとなっている。


「なになに、みんななんで固まってんの」

「もしかしてその高校って……とんでもなく強いんじゃ……」

「東峰大相模高校……去年の夏に神奈川県を制覇して甲子園にいった、正真正銘の強豪校だよ」


 光一が説明すると、みんなが「えっ……」と固まってしまう。


「進藤、マジなのか」


 慎吾が確認を取るも、雄馬は「マジだ」と即答する。

 大山はへなへなと地面に膝をついてしまった。


「終わった……完全に終わった」


 大山だけではなく、雄馬以外の全員が暗い顔をしていた。

 それはそうだ。

 甲子園に行った強豪校と試合して、自分達が勝てる訳がない。

 そんなのもう、学校側は部活を作らせる気はないじゃないか。

 そう落ち込む彼らに、雄馬が「おいおい」と奮い立たせるように口を開く。


「なんだよ急に萎えて、勝ちゃいんだよ勝ちゃあよ」

「馬鹿言うなよ、相手は東峰だぞ?奇跡が起きたって勝てる訳ないじゃないか」

「そうだな、百パーセント負ける」

「ちくしょう……上手いこと言って、結局部を作らせる気なんてさらさらねーじゃねーかよ!!」


 大山に続き、文学と光一も弱気なことを言う。

 他の者も口に出してはいないが、諦めムードになっていた。

 そんな彼らを雄馬は半眼で睨んだ。


「お前等、つまんねー奴らだな」

「……あ?」


 雄馬の言葉に、中丸が反応する。


「だってそうだろ、相手が強いからってもう戦うのを諦めちまってんじゃねーか。だからつまんねーって言ったんだよ」

「なんだとこらぁ!もういっぺん言ってみろごらあ!!」

「進藤なりに俺達をやる気にさせようとしているのはわかる。けどな、流石に相手が東峰じゃ……」


 庇おうとする大山だが、雄馬には全然そんな気はなく、


「言ったよな。俺は甲子園に行くって。ならどの道、その東峰ってところにも勝たなきゃなんねーんだ。だったら後でやろうが今やろうがかわらねーだろ」

「けどさ、実際問題どうやったって厳しいでしょ」


 城田が冷静に言うが、雄馬は気にせず、


「確かに勝てる可能性は低いだろうな。だけどそれが諦める理由にはならねぇんだよ。勝てるかどうかじゃねぇんだ。絶対に勝つんだよ、勝って部を作る。それ以外に考える必要があるのか?」

「「……」」


 雄馬の迫力に、誰もが息をのむ。

 そんな中、慎吾が口を開いた。


「進藤の言う通りだ。もう予定は組まれちまったんだろ?俺達に退路はねえ、ならグダグダ言ってねーでやるしかねーだろーが」

「それもそーだなー、別に負けたって野球が出来なくなる訳じゃないし」


 慎吾の意見に小西も乗る。

 二人をきっかけに、他のみんなも元気を取り戻した。


「ふん、別にやらないとは言っていない」

「そうだね、この際だ。玉砕覚悟でやってみるよ。ね、カズ」

「ちっしょうがねーなー。そこまで言うならやってやらんでもねぇよ」

「そうだな、やるしかないよな。なあ大山」


 宗谷が座っている大山に声をかけると、彼はがばっと立ち上がり、


「そうだな。あーだこーだ言っても始まらない。いっちょやってやるか!」

「そのいきだぜ、先輩」


 チームの士気が上がっていくのを見ていたうららは、雄馬を見つめる。


(凄いなあ、雄馬君は……)


 あれだけやる気を失せてしまっていたみんなを、雄馬がった一人で立ち直らせた。

 みんな、雄馬の気迫に引っ張られたのだ。

 どんな状況でも決して諦めない不屈の闘志を持っている雄馬を、うららは尊敬と熱いまなざしで見つめていた。


「よっしゃ、試合まであとちょっとしかねぇ、やれるだけやろうぜ」

「「おう!!」」


 打倒王者東峰という目標を持ち、チームは一丸となったのだった。




 ダンっと、えりなが理事長室の扉を強く開けた。


「どういうことですか、おじい様!?」

「こらえりな、学校では理事長と呼びなさい。それに、入る前にノックぐらいしたらどうかね」


 険しい表情のえりなに宗一郎が窘めると、彼女は「申し訳ありませんでした」とすぐに謝る。


「野球部の件ですが、理事長が直々に許可を出したとお聞きしました」

「おや、ついさきほどの事なのに、耳が早いね」

「……生徒会の書記がたまたま職員室に用事があって、聞こえたそうなのです。それよりもどういうことでしょうか、部活のことは生徒会に一任されているはずです」


 えりなが抗議すると、宗一郎はしっかりと説明する。


「私が野球部の許可を出したのは、一つの条件と三つの理由からなんだ」

「その条件とは……」

 えりなが問いかけると、宗一郎は条件を話す。

「去年、夏の神奈川県大会を優勝した東峰大相模高校と練習試合をし、もし勝てたら部の許可を認める」

「……」


 条件を聞いて黙っているえりなに、今度は何故許可したのかという理由を述べていく。


「理由の一つは、万が一野球愛好会が東峰に勝った場合、彼らに箔がつくからだ。甲子園に行った強豪校の東峰に勝った、それだけでも話題性は十分にある。それは二つめの理由に繋がってくるのだがね、女子校と統合したことで、男子生徒の数が著しく減少している。私としては、共学である我が校にももっと男子生徒が来て欲しいと思っているのだよ。もし彼らが東峰に勝てば、野球に興味がある男子生徒が増えるかもしれないだろう?」

「……三つめはなんでしょうか」


 えりなが聞くと、宗一郎は人差し指を唇にあて、お茶目な雰囲気で告げる。


「それは秘密だよ。私の個人的な理由だからね」

「……」


 理由を聞いても、まだ納得できないように押し黙るえりなにこう話す。


「よく考えてみたまえ、私は東峰に勝ったらと言ったのだよ。初心者だらけの彼らが、神奈川の覇者である東峰に勝てると、えりなは本気で思っているのかな?」

「……思いません。奇跡が起きたとしても、勝つことは不可能でしょう」


 それを聞き、宗一郎は「ふふ」と笑って、


「なら、なんの問題もないじゃないか」

「……分かりました。失礼します」


 これ以上何を言っても無駄だと判断したえりなは、踵を返す。

 そんな彼女に声をかける。


「あっ、練習試合は青北こちらに招待するから、申し訳ないけど生徒会には色々手伝ってもらうよ」

「……わかりました」


 そう言って、今度こそえりなは去ってしまう。

 宗一郎は去っていく孫娘の背中を眺めながら、


「後は君達次第だよ、進藤雄馬君」



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