第16球 野球部結成……ならず!
山田慎吾とその仲間達を仲間に加え、ついに部員が9人揃った次の日の放課後。
雄馬はみんなに書いて貰った入部届を持って、生徒会室に訪れた。
コンコンと雄馬がドアをノックすると、どうぞと入室の許可を得たので入る。
生徒会室には冬月えりなと野薔薇静香、それと眼鏡をかけたおかっば頭の女子生徒がいた。
彼女の名前は西川茜。生徒会の書記を担当している。
「進藤君だったわね、今日はどうしたのかしら」
雄馬は会長椅子に座っているえりなの元まで歩き、机の上に入部届を置いた。
「会長、10人揃ったので、野球部を作りに来ました」
真剣な顔で雄馬が告げると、えりなは出された入部届を一枚一枚めくりながら確認し、
「……本当に10人集めたのね。では、許可致しましょう」
「よっしゃああああ!!」
会長直々の許可を得た雄馬はガッツポーズをして叫ぶ。
喜びをあらわにしている雄馬に、釘をさすようにえりなが伝えた。
「勘違いしているところ申し訳ないけど、許可したのは“野球愛好会”です」
「ははははは!!!……えっ?野球愛好会?」
雄馬の笑いはすんっと止まり、不思議そうな表情を浮かべて問いかける。
「それって野球部じゃないんすか?」
「ええ、そうよ」
断言されてしまった雄馬は、だんっ!と両手で机を叩いて抗議する。
「ちょっと待ってくれ!10人揃ったら野球部を作れるんじゃないのか!?」
「作れないとは言ってないわよ。ただ、野球愛好会が野球部になるのがいつになるのかは、わかりません」
「なんだそれ……意味がわからねえ。どうして野球部が作れないんだ!?」
納得できないと雄馬が激しく問いただすと、えりなは冷静に答えた。
「部を作るということは、学校から部費が下りるという事です。なんでもかんでも部を作っていたら、きりがないでしょう?一年間で使える部費の額は決まっているの。なのでまずは愛好会を作り、それなりの実績を作って、それが認められたら部として認められるのよ。どの部活もそうやって地道な努力により作られている、野球部だけ特別扱いはできないわ」
えりなの説明を聞いた雄馬は呆然とするが、なんとか食い下がる。
「実績って……例えばどんな!?」
「そうね、その分野の大会で優勝したり、賞を取ったりすることかしら。この学校にも漫画研究部や小説部なんてものもあるけど、どちらも賞を取って結果を残しているわね」
「大会で優勝って……そもそも愛好会って公式大会の出られんのかよ」
「出れません」
はっきし言うえりなに、雄馬はくってかかる。
「出れないって……じゃあどうやって部に昇格するんだよ」
「そうね……毎日真面目に練習に励み、校内清掃に尽力でもすれば、三年後には昇格するんじゃないかしら」
「三年後って……それじゃあ遅いんだよ!!俺は今野球部を作りたいんだ!!」
ワガママを言い続ける雄馬に、えりなは冷たい声音で告げる。
「進藤君、野球部は一度廃部になっているわ。その時点で、学校側からの印象は悪いのよ。それでも作りたいというのなら、真面目に活動を行って認められることね」
「くっ」
「話は以上よ。仕事があるので、用がないなら出ていってくれるかしら」
歯を食いしばって悔しそうな雄馬は、下を向いて生徒会を出る。
彼が去った後、西山が眉根を寄せて、
「なんですかさっきのガサツな生徒。会長に向かって失礼な態度でしたし、ありえません。やはり男って野蛮な生き物ですね」
「こらこら茜ちゃん、あんまり口の悪いことは言っちゃいけません」
静香が「めっ」と茜を窘めると、彼女は「はい、すいません」としゅんとしてしまった。
静香はえりなの方を向いて、
「でも凄いね、進藤君。この短期間で本当に10人集めちゃうなんて。もともと男子も少ないのに」
「彼の行動力は私も褒めるところではあるわ。でも、それと部活を作る話は別よ」
「わかってるわ。えりなが言った通り、みんな愛好会から始めて努力して部になっているんだもの」
静香の言う通り、新しく部活を作ろうとしていた生徒達はみな愛好会から始め、地道に成果を上げて部に昇格している。
野球部だけを例外にする訳にはいかない。
えりなは小さなため息を吐いて、
「まあ、あれだけ言えば彼も諦めるでしょ。さっ、仕事に取り掛かりましょ」
「「はい」」
「何が野球部は作れないだ、何が三年後だ。んなちんたらしてられっか、絶対野球部を作ってやる!!」
えりながあれだけ言っても、雄馬は全く諦めていなかった。
機嫌が悪い雄馬がグラウンドに行くと、ランニングをしていたみんなが雄馬のところに集まってくる。
「おう進藤、どうだった。野球部は作れたのか?」
大山が気軽に聞くと、雄馬は「駄目だった」と下を向きながら残念そうに言う。
「「はぁ~~~~~~!!?」」
野球部が作れないと聞かされてみんなは驚いてしまう。
そんな彼等に、雄馬は生徒会室での出来事を話した。
「俺もどうなのかと思っていたが、やはり駄目だったか」
うーむと呻る宗谷。
小西が頭の後ろで手を組みながら口を開く。
「実績ったってな~、試合に出れないんじゃ無理だよなー」
「三年後か……僕たちはとっくに卒業しているな」
文学が冷静につっこむと、中丸と慎吾が雄馬につめ寄る。
「おい進藤!?テメエが甲子園に行くっていうから俺は入ったんだぞ!部が作れねーてのはどういう事だ!?」
「おい、まさか俺を引っ張っておいて、このまま諦めるつもりじゃねぇだろーな」
「まぁまぁそんな責めてやるな、こればっかりは進藤じゃどうしようもないだろ」
大山が興奮する二人を落ち着かせる。
雄馬はみんなに向かって宣言した。
「諦めるわけねーだろーが。絶対に野球部を作ってやらぁ」
「雄馬君は何か考えがあるの?」
うららが尋ねると、雄馬は一泊置いて、
「……ない」
「ないんかーい」
と光一が明るく突っ込むが、全く受けなかった。
険悪なムードを察した大山が、みんなにこう言う。
「時間ももったいねえし、とりあえず練習しようぜ。部活のことはみんなで考えればいいだろ」
「そうだな、俺もそう思う」
「ですね、ここで言い合っていても効率的ではない」
「そうだよカズ、まずは練習しようよ」
大山の提案に宗谷と文学が賛成し、城田が中丸をなだめる。
とりあえずその場は部活のことを置いておいて、練習を開始するのだった。
「マジでどうすっかなー」
「他になにか良い方法ないのかな」
「そんなうまい話し、簡単にはないだろ」
練習後。
雄馬とうららと光一は一緒に帰り、部活のことを話し合っていた。
そこで、うららはこんなアイデアを出す。
「明日の放課後、先生に一度聞いてみようよ。今回ダメって言われたのは、生徒会からなんだし。もしかしたら先生に聞いたら、案外いけちゃうかもよ」
「……そうだな、明日聞いてみっか」
「まっ、頑張ってくれよ」
「もう、八乙女君も他人ごとのように言わないで考えてよねー」
あまり乗り気でない光一にうららがそう言っている横で、雄馬は夕日を眺めながら、
(……絶対に諦めてたまるか)
その日の夜。冬月鄭。
えりなと青北高校理事長でもある祖父の宗一郎は、久々に食事を一緒にとっていた。
ふと、宗一郎がえりなに近況を尋ねる。
「どうだいえりな、学校の方は」
「特にかわりありません。勉学に励み、仲間と生徒会の仕事をこなしています。日々充実していますよ」
淀みなくすらすら言うえりなに、宗一郎は「そうかそうか」と喜んだ。
「まぁえりななら心配はしておらんよ。そうそう、ちょいと小耳に挟んだのだがね、なにやら野球部を作ろうとしている生徒達がいるとか」
思い出したように宗一郎がそう言えば、コーヒーカップを口に運ぼうとしていたえりなの手がピタッと止まる。
えりなはコーヒーカップを置いて「ええ」と続けて、
「そういう話はありました」
「ほう、ならば野球部が復活するのかね」
「いいえおじい様、野球部は作られません」
「はぇ?そ……そうなのかい?」
変な声を出してしまった宗一郎はゴホンと咳をして、改めて問いかける。
えりなは愛好会から始まり、部活に昇格するには実績が必要であることを説明する。
説明を聞いた宗一郎は(そうだったのか……)と理事長の癖に何も知らず感心していた。
「では、実績を作ればいいのでは?」
「そうですけど、愛好会の場合は公式の大会には出られないので、彼らにはまず真摯に真面目に愛好会に取り組んでもらいます」
「なるほど。では、彼らが学校にとって有益であると同時に、実績を作れば部に昇格できるという芽は残っている、ということだね?」
可能性の話をする宗一郎に、えりなは険しい表情を浮かべて、
「……確かにその場合、一考する余地はあるかもしれません。おじい様、私からも一ついいでしょうか。いくらおじい様が野球が好きだからといって、彼らに手を貸すということはしないで頂けますか。私も小耳に挟んだのですが、校外にあるグラウンドの使用許可を与えたのはおじい様だとか」
にこにこ笑う祖父に注意するが、宗一郎は「はて、なんのことだったかな」とすっとぼけた。
そんな態度の祖父にえりなは呆れた風にため息をつくと、「ごちそうさまでした、お先に失礼します」と席を立ち上がる。
去っていこうとする彼女の背中に、宗一郎が声をかける。
「えりなはまだ、野球が嫌いかね」
えりなは一瞬立ち止まるが、
「ええ、野球なんて大嫌いですわ」
と吐き捨て、部屋を去ったのだった。
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