第13球 山田の母
「ここが山田の家か」
「普通の家だな」
三里先生から特別に山田の住所を教えてもらった雄馬と光一は、山田の家に訪れていた。
雄馬が怖気づにインターホンを鳴らすと、「はーい」と玄関から女性が出てくる。
恐らく山田の母親だろう。
恰幅の良い、芯が太そうな女性だと雄馬は思った。
「あらあんた達、どうしたんだい?見掛けない顔だけど」
「あの、俺達は高校で山田君と同じクラスメイトです。学校に来ていないみたいなので心配になってきました。山田君は今いますか?」
光一が丁寧な口調で尋ねると、母親は眉尻を下げて、
「ごめんねぇ。慎吾のやつ、今どこにいるかわからないんだよ。ふらっと家に帰ってくることもあるけど、すーぐどこかに行っちまうんだ。折角来てくれたのに、申し訳ないねえ。また来てやってくれるかい」
申し訳なさそうに謝る母親。
どうやら山田は今、家にいないようだ。
「わかりました」と素直に引き下がろうとする光一とは逆に、雄馬は母親に頼み事をする。
「おばさん、山田のこと、俺達に聞かせてくれませんか。山田がどんな奴なのか、知りたいんです……」
「慎吾のことを……分かった。あがりなよ」
了承を得た雄馬が家に上がろうとする前に、光一が雄馬を引き留める。
「おい大将、呑気に話を聞いてていいのかよ。山田のことを探したほうが早いんじゃないのか?」
「ばーか、んなのはいつでもできんだろ。それより俺は、おばさんから山田のことを聞くほうが何倍も重要だと思うがな」
「……お前がそう言うなら、構わねーけどよ」
「お前、山田の母ちゃんが怖いだけなんじゃねーのか?」
雄馬がにやりと笑いながら茶化すと、光一は「ち、ちげーし!」と大げさに反応した。
どうやら雄馬の言っていることもあながち間違ってはいないようだ。
「どうしたんだい?早く入りな」
「はい、今いきます!」
母親に催促された二人は「お邪魔しまーす」と家に上がる。
リビングに通された二人は、ソファに座った。
「あんた達、名前は?」
「俺は進藤雄馬です」
「あっ、八乙女光一です」
「雄馬君に光一君か、こんなもんしかないけど、許しておくれ」
「あ、お構いなく」
目の前のテーブルにお茶とせんべいを出される。
光一が対応している時、雄馬の視線はテレビの横に置いてあるトロフィーに注がれた。
(あれは……)
「さて、慎吾の話を聞きたいんだっけ」
「はい」
視線を戻した雄馬が頷くと、母親は懐かしそうに話しだす。
「慎吾はね、いい子だったんだ。勉強はからっきしだけど、運動は凄く得意でさ。運動会じゃいつもヒーロー、そんな子だったよ。小学生の高学年から野球を始めてね、いつもユニフォームを泥だらけにして帰ってきたもんさ」
「「……」」
野球という言葉を聞いて、雄馬と光一が顔を見合わせる。
二人の反応に気にせず、目を瞑って昔を思い出すように母親は話を続けた。
「旦那とあたしは仕事があったから中々慎吾の試合を見に行けなかったけど、あいつはチームの中でも一目置かれる存在だったらしいよ。たまたま試合を見に行けたとき、チームメイトの親からそう聞いてさ、あたしは慎吾を誇りに思ったもんだ。けど……ある時旦那が倒れちまってね。末期のガンだってさ」
「「……」」
息を呑む二人。
母親は続けて、
「旦那は必至にガンと戦ったんだけど、勝てずに死んじまったよ……」
母親の目から、涙が溢れてくる。
「ぞれがらさ、慎吾がおがしくなっちまったのは……」
母親は「ごめんね」とティッシュで鼻をかみ、涙をぬぐう。
「大好きだった野球をやめちまって、学校にも行かなくなって、悪い友達と付き合いだして柄も悪くなって、家にも中々帰ってこなくて……」
「「……」」
「なんとか高校には入らせたけど、まだあいつ、一度も行ってないんだろ?」
「……はい」
伝えるかどうか迷ったすえ、光一が首を縦にふった。
「そうだよね……もっと、あだしがあいつのことを気にかけてやればよがった!!」
とうとう泣き崩れてしまった母親。
話をしているうちに心にくるものがあったのだろう。
夫を亡くし、子供は心を閉ざして悪の道に逸れてしまっている。
辛いのは母親だって一緒のはずだ。
母親は今は仕事をやめ、慎吾が帰ってくるのを待っているそうだ。
いつでも暖かいご飯を食べさせてあげられるように。
雄馬はいても立ってもいられず、泣き崩れる母親の隣に座り背中をさする。
「おばさん、安心してくれ。俺が絶対山田を野球に連れ戻してやる」
「……」
ふっと母親が雄馬の顔を見上げる。
彼の顔は、自信に満ち溢れていた。
「約束する、山田を野球部に入れる。だから、今度はちゃんと試合を見に来てくれないか」
「ああ、ありがとう。ありがとう、雄馬君!!」
母親が落ち着いた頃、雄馬と光一は父親の仏壇に線香を立てて、母親に挨拶をして家を後にする。
歩きながら、光一が口を開いた。
「俺さ、山田のこと知ってるわ」
「なるほどな、珍しくお前が付いてきたのは、確認したかったからか」
面倒ごとが嫌いなタイプの光一が一緒に職員室に行って、家まで付いてくるのに少し違和感を覚えていた。
山田慎吾の名前に、心当たりがあったのだろう。
光一は「まぁな」と続けて、
「山田慎吾って名前、もしやと思ってな。予想は当たってた。あいつ、大神中の四番だった奴だ」
「凄いのか?」
「凄かった。チームは東峰中に負けたけど、一大会で出したホームランの本数は記録とタイだったはずだ。まさかあの『飛ばし屋』山田慎吾が野球をやめてグレちまってたとはな……ってお前、折角人が話してんのになに携帯イジッてんだよ!?」
光一が話している最中にガラケーを操作していた雄馬に文句を言うと、雄馬は「悪い悪い」と謝って、
「うららにメールしてたんだよ。今日はそっちいけないって」
「へーって、お前春野ちゃんのアドレス知ってんのか!?」
「そらそうだろ。折角持たせてもらったんだ、使わなきゃ損だしな」
因みに連絡先を聞いたのはうららからであり、「ああああの雄君!!連絡先教えてもらっていいかな!?みんなはラインのグループで連絡取り合ってるけど、雄馬君はラインやってなくて困るからさ!!」と、顔を真っ赤にさせてめちゃくちゃ早口で言ってきたので、雄馬は「お、おう」とうららとアドレスを交換していたのだった。
うららと連絡先を交換していると聞いた光一はかなり動揺している。
「はっはは……ま、まあ俺だって春野ちゃんのライン知ってるし!!」
「だからどうした、お前おかしいぞ」
(おかしいのはお前だぞ!!)
心の中でつっこみ返しする光一。
つまらなそうな表情を浮かべてる雄馬に、光一は「まぁいいや」と言うと、
「山田のことを探しにいくようだけど、宛てはあんのか?」
雄馬は「ない」と即答する。
「手当たり次第に探す」と言うと、光一を盛大にため息をついて、
「そんなんで見つかるわけねーだろ」
「なんだよ、じゃあお前はわかんのか?」
訝しげに問いかける雄馬に、光一は「へへっ」と自信あり気に答えた。
「よく考えてみろ。半グレの高校生が行くところなんて、空き地かコンビニって相場が決まってんだよ」
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