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第12球 最後の一人を見つけろ!

 



 桜が散り、四月も終わりという頃。

 雄馬は頭を抱えていた。


「駄目だ……見つからねえ」

「どうした~大将?朝っぱらから景気の悪い顔してよ」

「どうしたもこうしたも、9人目が見つからねぇんだよ」


 肩を組んでくる光一をうざったそうに払いのけ、文句を垂れる雄馬。

 あれからも必死に勧誘を続けているが、首を縦にふってくれる生徒はいなかった。

 というか、流石に雄馬がしつこ過ぎて相手にもされなくなってしまったのだ。

 無視する生徒を強引に勧誘することもできず、完全な手詰まりになってしまっていた。


「まっ、男子が少ない中8人も集まっただけで奇跡ってもんよ。今年は諦めて、来年入ってきた一年生に期待しようや」


 呑気に言う光一を、雄馬は半眼で睨む。


「んなの待ってられっか。絶対集めてやる」


 諦めず再び闘志を燃やす雄馬に、光一はやれやれと呆れる。

 HRの時間になり、三里先生が教室に入ってきた。


「はい、席についてねー。出席確認するよー」


 慌てて生徒達が席に座り、出席確認が始まる。


「有馬さん、加藤さん――」


 次々に名前が呼ばれていく。


(光一にはああ言ったものの、マジでどうすっかなー)


「最上さん、山田君……山田君は今日も来てないか。山本さん――」


 と、その時。

 違和感を覚えた雄馬は、ふと廊下側の後ろ席を見た。

 入学当初から今日までずっと空席が続いている。

 不登校か仮病か分からないが、まだ一度も学校に来ていないようだ。


(先生、山田“君”って言ってたよな。ってことは男子だ……)


 雄馬は、一筋の希望を見つけた。


(まだいたんだ、声をかけていない男子が。おいおいおい、まだ野球の女神は俺のこと見放してねぇみたいだ!!)


 その日の放課後。

 雄馬はなぜか一緒についてきた光一と共に職員室に訪れ、登校していない山田のことを三里先生に尋ねる。


「先生、山田のこと知りたいんすけど」

「山田君ねー……私も彼が出席しない理由を知りたくて、山田君のおうちに伺ってお母様ともお話したんだけど、どうやら家に全然帰っていないらしいの。話を聞くとね、去年の夏頃にお父様が亡くなられたそうで……それから家にもあまり帰らない生活が続いて、悪い関係を作ったりしてるみたいで、お母様も心配されてるんだけど……」

「親父が死んでグレたって訳か……」


 単刀直入に光一がそう言うと、三里先生は「そうねぇ」とため息を吐く。


「どうして急に山田君のことを知りたくなったの?」


 純粋な疑問で三里先生が尋ねると、雄馬が答える。


「野球部に誘おうと思ってて」

「そっか……勧誘は順調?」

「はい、俺含めて8人まで揃いました」

「本当!?へぇーよくそれだけ集めたわね。部活紹介の飛び入り参加は驚いたけど、やったかいがあったわねえ」

「その節はすいませんでした」


 光一がププッと笑い、雄馬は頭を下げて謝る。

 雄馬は生徒会長の冬月えりなに注意されたが、その前に職員室に呼ばれ三里先生からも注意されていたのだ。


「いいのよ、過ぎたことは。でも、もうああいう事はやめてね」

「はい、わかりました」


 素直に頷く雄馬に、三里先生は「それとね」と続けて、


「進藤君、学校のグラウンドを無断に使っているでしょ」

「はい、あそこしか野球部が使えるところがなかったんで」

「あれ、問題になったのよ。許可の申請をせず無断でグラウンドを使うのはいけないことなの」

「マジすか!?でも、俺達が練習する場所はあそこしかないんです!どうにかなんないんですか、先生!」


 唯一練習できるグラウンドが使えなくなるのは困る。

 雄馬が慌てて頼むと、三里先生は「落ち着いて」と続けて、


「問題にはなったんだけどね、冬月理事長が許可したのよ」

「理事長が?なんでそんな偉い人が……」


 光一が不思議に思って聞くと、三里先生は思い浮かべるようにして話す。


「グラウンドの使用許可を許さない先生はたくさんいたんだけど、理事長がね――」


『まぁいいじゃないか。今まで誰も使っていなかったのだし、放置され荒れ地だったあの場所を生徒達自らが整備したんだ。とても偉いことじゃないか。今さらダメだと言って彼らの努力を無駄にすることが、我々教師のすることかな?』


「――まさに鶴の一声だったわ。反対してた先生達はぐぅの音も出なかったわよ」

「理事長がそんなことを……」

「話の分かる人じゃねぇか」


 学校のトップが自分達を庇ったことに光一が驚き、雄馬はにやっと笑う。


「グラウンドの申請は私がしておいたから、安心してグラウンドを使っていいわよ」

「「ありがとうございます!!」」


 今度は二人で頭を下げる。

 素直な二人に、三里は先生はもう一度注意した。


「進藤君の行動力はとても凄いと思う。誰にでもできることじゃない。でもね、部活紹介の件もそうだけど、周りに迷惑をかけてしまうこともあるから、一人で突っ走らないでほしいの。周りの先生だったり、私でもいい。まずは相談して欲しいの。私もできる限り協力はするから」


 諭すように三里先生が言うと、雄馬は「はい、わかりました!」と真摯な態度で返事をした。


「じゃあ早速で悪いんですけど、山田ん家の場所を教えてもらっていいっすか?」

「少しは遠慮しなさいよ……。本当は生徒の個人情報は教えちゃダメなんだけど……今回だけよ。でも、知ってどうするの?」


 と問いかける三里先生に、雄馬は「へへっ」と笑いながら告げるのだった。


「んなの決まってんじゃないですか、山田を勧誘しに行くんです」






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[一言] 三里先生はヒロインコースですね!
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