98話 突然の旅行、突然のアップる
「さぁ、出発よ!」
「何が!?」
私たちは『旅行する荷物を持って集合』というメールに従って事務所にやってきた。その瞬間にこの声をかけられては何を言っていいのかさっぱりだ。
「……あの、どこに行く気だい?」
「決まっているでしょう? 大阪よ」
「決まってねぇよ! なんだそれ! 説明してくれよ」
何の説明もまったくなしに私たちは動かされている。それでは不満がたまる一方だ。
「明日香の言う通りさ。説明してくれないと私たちにだって拒否権はある」
「まぁ至極簡単な話よ。ウェザーガールズの活動エリアは秋葉原、idol QEDの活動エリアは福井県、リキュールレディは江戸川区。ここまで言えばわかるかしら?」
「つまり抑えられていない大都市をこちらのものにしてしまおう、というわけだね?」
だからってさぁ大阪に行こう、だとなんかバカっぽいよな。
「あら明日香、不満そうね」
「そりゃそうだろ! 全然私たちに説明もなしに勝手に動くし! もっとこっちの意見とかも……」
「おはよう、felizの2人」
「……………………へ?」
後光。
少なくとも私にはそれが見えた。紫色の美しい髪を輝かせ、優雅に歩く姿はコスモスに形容すればいいだろうか。心なしか私の語彙も上がっている気がする。
「久しぶりですね、藤宮子さん」
「宮子でいいわよ、薫」
「おや? 知り合いかえ?」
ひえっ! 先端に白いモコモコがついた赤い扇子をゆらめかせ、誰よりも気品ある姿で登場したのは……成瀬紅玉。
ここまで来たらあとは誰がくるのかすぐわかった。
「おはようみんな。……felizの黄色い子、なんか鳩が豆鉄砲を食らったような顔だけど大丈夫?」
「おはようでアルよー☆ 大阪楽しみねー」
小金井詩奈乃と王林。
アップるの金髪コンビが同時に登場したのだった。
「え、ええと……ナゼアップルサンガコンナトコロニ?」
「すっごいカタコト。面白いね」
「あなた達のライブを見て興味を持ってくれたらしくてね。今回はアップるさんは大阪でライブがあるから、それに乗っからせてもらう形になったのよ」
「」
空いた口が塞がらない。言葉にできない。言葉にならない。
まさにそんなような私なのだった。アップると一緒に大阪に……? そんな権利、いくら払えば得られるんだ?
「では大阪へ行くわよ! アップるの皆さんは変装お願いします……」
こうして私たちfelizと、トップアイドルであるアップるの奇妙な旅が始まるのであった。