90話 天の見物人
「まったく、何をしに行くのかと思えば……」
ロッカールームに戻った私を待っていたのはもちろん、薫の叱責……ではなく、少しだけ穏やかな薫だった。
「怒らないのか?」
「りんごさんの全力を隠していたことについては少し怒れるけど、それを引き出そうとしたことを怒ることはないよ。明日香のことだ、なんとかして引き出してあげようと、私の知らないところで頑張っていたんだろう?」
「お、おう……」
すげぇ……めっちゃ私のこと理解してくる。何なの? 彼女なの? いいよ? むしろウェルカム。
「さて、と。ライブの締めくくりだ。私たちの新曲、行くよ」
「おう! りんごちゃんのおかげで観客のボルテージはMAXだ。それにあやかるわけじゃないけど、もう一回全員を沸かせよう!」
「その意気だ。じゃあ……行こうか」
私たちは手を繋ぎ、ロッカールームを後にしてステージへと向かった。
◆アップる視点◆
今、ステージではりんごたちの曲が終わり、felizが新曲発表をしている。
私たちが苦戦した愛知のファンを、すでに取り込んでいるように見える。一体どんな魔法を使ったのか……。
「ふ〜〜ん、なかなかいいライブをするじゃんね、宮子」
私に話しかけてきたのは小金井詩奈乃。詩奈が他のグループに興味を持つのはいつものことだけど、見つめる視線がいつもと少し違う気がする。
「そうね、まぁ私たちには遠く及ばないわけだけど?」
「宮子がそう言ってことは〜、あまり差がないということアルよー!」
「……りん! 裏をとって解釈するのやめてくれない?」
りんに注意する時に微かに見えた。社長が……笑っている。普段、滅多に笑うことはないのに。
「お主ら、目的を間違えてはないかえ? 妾たちの目的はりんごのみであったはず……」
紅玉はfelizには興味ないように優雅にVIPルームの料理をつまんでいる。
「紅玉くん、あまりみくびらないことだね。彼女たち、フルーツパフェはもちろん、felizも相当の実力者だ。油断していると……足元をすくわれるよ」
そう、felizの実力は本物だ。それに、今回のライブでかなり知名度も人気も上がる。
もしかしたら、彼女たちが1番の脅威になるかもしれないわね。
私が優勝しなくてはならない、第1回 ICL での脅威に。