80話 東京に帰ろう
豊田スタジアムを下見した後、私たちは急いで名古屋へ戻ることになった。
「これからの予定は?」
電車に乗ると息をつく間も無く薫がマネージャーに問う。せっかちというか、なんというべきか。
「名古屋に戻って例のといきたいけど、もう東京に戻らないとね。明日からはフルーツパフェと会わないといけないわけだし」
そういえばそうだった。私が提案した戦略的離別は3日間。つまり、明日にはもうフルーツパフェとの合同打ち合わせがリスタートするということ。ひぇぇ……。
薫……もうフルーツパフェのこと気にしてないかな? それともまだ気にしているだろうか。逆に向こうはどうなんだろ。ちょっとメールで聞いておくか。
フルーツパフェのことを考えると、どうしてもりんごちゃんとの一件が頭によぎる。キス……したんだよな、私たち。
ファーストキスは薫に捧げられたからいいとしてもセカンドキスはりんごちゃんに捧げてしまった。これは乙女的には一大事だ。
なんて考えていたらいつの間にか名古屋に到着していた。しまったな……電車内で特に何も残せなかった。
「あ、名鯱ちゃんはこれからどうするの?」
「私も東京に帰りますよ?」
あ、そういえばそうだった。この子、愛知のアイドルだけど東京住みだった。
「今回はありがとう、名鯱さん。君のおかげで助かった場面は多い」
「そ、そんなことありません! felizさんの実力ですよ」
珍しく薫がストレートに感謝の意を示した。それに対して名鯱ちゃんは首と手をブンブンと振って否定してみせる。なんかちょっとだけ面白い光景だな。
ちなみに私は今、なんとなく思いたって『味噌っ子』でインターネット検索をしている。すると意外と味噌っ子ちゃんたちについてのニュースが出てくるな……名古屋の人たち、味方につけると強力すぎないか?
頼もしさも覚えつつ、新幹線に乗り込む。また1ヶ月後にやって来るとはいえ、ちょっとだけ寂しい。まぁ……よくわからないけどいい街だったな。
さて、ここからは私たちがやるべきことをやるだけだ。フルーツパフェとの協力。そして私は……りんごちゃんに全力を出してもらいたい。そのために、なんとかしないと……。




