8話 問い詰めてやる!
ようやく先生の話が終わり、起立礼を終わらせたら一瞬で薫の席へ! こんな機敏な動きはなかなかする機会ないぞ。
「はぁ、はぁ、どういうことか説明してもらおうか?」
私が険しい顔で問い詰めても薫は涼しい表情のまま。いつもそうだ、私が真剣になりすぎる時でもなぜかこいつだけは冷静なんだ。
「ずいぶん熱烈な歓迎じゃないか明日香。息を切らすほど真剣に詰め寄ってくれるなんてね」
やっぱりな。どうせ自分だけ冷静なのをいいことに私を煽ってくると思ってたさ! それがわかっていれば痛くも痒くもないね。
「んな茶化しはいらないっての! なんで突然ここに……」
「来てはならない理由があるのかい? 私がここにいたら不服かい?」
「そういう話じゃねぇよ!」
ドンッと机を両手で叩いたからそこそこの音が教室に響いた。ちょっとばかし周りがざわつくほどの大声を思わずあげてしまったけどもう後には引けない。
「……明日香、冷静さを欠くのはマイナスにしかならない。わかるだろう?」
薫の言う通りではある。そう、コイツは大抵の場合で正しいんだ。たしかに冷静さを完全に無くした私がここで薫と話し続けるのはfelizにとってマイナスでしかないか……。
かろうじて残っていた理性で頭をクリアにする。
「……だったらお昼私と食べろ。そん時聞くから。いいな?」
「あぁ、明日香の誘いを断る理由はないね」
よし……とりあえず私がキレて最悪な雰囲気になるのだけは避けることができたな。
最悪な状況は避けられたと言ってもやはり気が気じゃない。もうすでに薫の席の周りには女子たちが集まりだしている。いつも女性ファンに対応するように薫はクールビューティな王子様を演じているため薫の席の周りは大盛況だった。
「すごいね〜薫さん。私たちと同じアイドルなのに人気が違すぎ〜って感じ?」
「まぁ……悔しいけどそうだな」
この大アイドル時代、アイドルだからって無条件で学校の人気者になれるわけではない。むしろ仕事がある関係でクラスメイトと関われる機会は少ない分空気になる可能性の方が高かったりする。
本来クラスメイトに馴染むのはハードルが高いはずなんだけど……。
「私も薫さんのところ行ってみようかな〜」
立ち上がるイチゴの制服の袖を掴んでホールド!
「待ってやめて! イチゴだけは側にいてよ……お願い!」
このままじゃ私、ボッチになる! 「中堅アイドル、学校ではボッチだった」なんて記事が出たら私は終わりだ!
「冗談だよ〜。弱気なみやのん萌え〜☆」
手でハートを作って「萌え萌え」言うイチゴ。……たまーにだけどコイツにもムカつく時あるんだよな。私ってもしかして性格悪いのかな……。
なんて自己嫌悪に陥っていたら授業がいつの間にか終わってお昼休みの時間になっていた。
「みやの〜ん、食べよ〜」
いつも通りイチゴと食べる……わけには今日はいかない。さっきはそばにいてもらった立場でこうするのは気がひけるけど……。
「ごめん、今日はちょっと薫のところ行ってくる。明日からは一緒に食べようね?」
「ちぇ〜。いいよ〜、行ってら〜」
イチゴはいい奴だな。私と違って……って違う違う! 今は自己嫌悪している場合じゃない! 早く薫をどっかに連れ出さないと!
……ってめっちゃ人だかりができてるし。あの中から薫を引っ張り出すの? って困った顔をしていたら……
「む。ごめんよ、少し用事ができてしまった」
みんなに惜しまれつつ薫が輪の中から出てきた。もちろん私とお昼を食べるためだろう。
「べ、別に困ってたわけじゃないんだからな?」
「ん? 何も聞いていないけど……まぁそういうことにしておこうか」
コイツは……! どこまで嫌味になれば気がすむんだ。何かが視界の端で動いてるなーと思ったらイチゴが「頑張れ〜」と言わんばかりに手を振っていた。
応援は嬉しいけど……1人でご飯を食べ始めたイチゴを見て悲しくなった。薫は例外としてもアイドルってなると話しかけられにくいのかな? 友達ができないことできないこと。明日は絶対一緒に食べような、イチゴ!
そんな悲しい姿を見せる親友を置いて薫を引き連れる。さてと、どこで食べたものか……
「無難に屋上でいっか」
多少人はいるかもしれないがまぁ教室内で話すよりはマシだろう。密になっていると盗み聞きが怖いしな。
「へぇ、この学校は屋上が開放されているのかい?」
薫が興味津々に聞いてきた。珍しいな、こんなことに興味を示すなんて。
「そうだけど……前の学校では開放されてなかったのか?」
「あぁ。危ないからという理由からじゃないかな?」
へぇそうなのか……アニメや漫画、ドラマなんかでも普通に屋上のシーンってありふれているよな? 薫の前いた学校が変わってるだけだろきっと。
階段を登りきってドアを開けたら屋上に到着。う〜ん……まぁ人はぼちぼちいるな。でも贅沢は言ってられない。なるべく近くに人がいないようなところで食べるしかないな。
そう思い、私はゆっくりと薫を誘導した。