76話 ホテル花守家
美味しい味噌カツを食べ、改めて名鯱ちゃんにお礼を言ってから今日は解散になった。
といっても当然、名鯱ちゃんと別れるだけで私、薫、マネージャーは一緒のままだ。
「マネージャー、今日のホテルはどこだい?」
名鯱ちゃんを見送ってから、薫がマネージャーに尋ねる。大都市の名古屋だからな、いいホテルに泊まれたりするかも?
「あー……ついて来なさい」
……なんだろう。何か嫌な予感がする。こういう時の私の感って当たるんだよなぁ。
十数分くらい歩かされて、到着したのは普通の一軒家に見える建物だった。民宿か? まぁいいけど。
マネージャーがインターホンを押し、少し待つと中から家の主と思われるおばさんが出て来た。
「お帰りなさい。あなた達がfelizさんね。娘がお世話になってます」
おばさんは礼儀正しく私たちに一礼してきた。いや、そんなことはどうでもいい。大事というか、聞き逃せなかったのは……娘って言ったよな?
それは薫も聞き逃さなかったようで、マネージャーにジト目を向けた。
「マネージャー、まさかこの家……」
「えぇ。私の実家よ」
「なんでだよ!」
「仕方ないじゃない! 交通費とか食費とかまぁまぁするし、事務所から送られてくるお金も限られているのよ! 私だって色々考えているんだからね!?」
「まぁまぁ、玄関先では何ですからどうぞ〜」
言い争いをしていてもお構いなしというように、おばさん……マネージャーのお母さんは私たちを家へ招き入れた。
「じゃああなた達は客室で2人で寝ること! 私は久しぶりに自室へ戻るわ」
「マネージャー、もしかして里帰りのついでに私たちを連れて来たんじゃないだろうね?」
「そ、そんなわけないでしょぉ〜?」
明らかに目が虚空を見つめついるし。まったくこのマネージャーは……。
リビングに出るとマネージャーのお父さんが新聞を読んでいた。娘の帰りが嬉しいのか、どこかそわそわしているようにも見える。それはマネージャーに伝わっているかは知らないけど。
「お父さん、ひなちゃんが帰ってきましたよ」
「う、うむ……久しぶりだな、ひなた」
そういえばマネージャーの名前ってひなただったな。
「大丈夫よお父さん。ひなちゃんは大切な人を紹介しに来たわけじゃなさそうだから」
「ど、どこの馬の骨だ!」
「落ち着いてお父さん」
なんか……賑やかな家庭だな、と薫とアイコンタクトでやりとりする。静かに眠らせてくれるだろうか。