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犬猿アイドル百合営業中  作者: 三色ライト
2章 1周年記念ライブ編
73/143

73話 飛び入り!

 簡易ステージに飛び出して、まず驚いたのは観客の少なさだった。


「えっ……」


 思わず声が漏れてしまう。でもそれも仕方のないことだと思う。だってさっきまでここには通行人が眉間に皺を寄せるほどの大勢の熱狂的な観客たちがいた。


 それが今や……数えるほどしかいない。いや、むしろこれまで私たちに向けられてきた敵意に近い視線のことを考えたら、感謝すべき人数なのかもしれない。


 とにかくこんな少人数は今まで経験したことがなかった。結成すぐの無名時代に開いたミニライブの方が全然客が集まってたな……。


「えーっと、東京から来ました、私たちfelizです!」


 とりあえず流されないように気をつけてMCを始めた。

 自己紹介をしたというのにもかかわらず、拍手がまばらにしか起こらない様子に、心に針が刺さる感覚を味わう。

 次のMCは薫だけど……いけるか? 横目でチラッと見た限りでは薫も少なからずショックを受けているみたいだし。


「今日は名古屋の皆さんに私たちのパフォーマンスを見てもらいたくてやって来ました。それでは一曲目、『幸せのメロディ』」


 淡々と、まるで何も気にしていないかのようなMCに聞こえるかもしれない。でも私にはなんとなくわかる。薫も少なからず動揺しているってことが。


「「夢に乗せるのは幸せのメロディ〜♪♪」」


 ダメだ……どれだけ心を込めて歌っても観客たちとの心の距離を詰められる気がしない。通行人たちも私たちのステージをチラッと見るだけですぐに通り去っていくし、明らかに味噌っ子ちゃんたちとは反応が違う。


 ふと5人の女の子たちが視界に映った。味噌っ子ちゃん達か。はは……偉そうに歌もダンスも私たちの方が上! とか思ってたけど、ダメダメだな。

 こんなに特定の観客を見分けられるなんて初めてだ。ファーストライブですらお母さんを見つけるなんてできなかったのに。


 ……ん? なんか味噌っ子ちゃん達、揉めてる? よくわからないけど、なんとなくそんな気がする。そっちに気を取られて振り付けを間違えそうだ。


 なんとかプロ意識だけで乗り切り、幸せのメロディを歌い切った。しかし、結果は伴わず、観客はまばら程度にしか残っていない。

 くっ……どうすれば……

 そんなことを思っていた時だった。


「皆さん、ご注目ください!」

「えっ……」


 味噌っ子のリーダー、あの灰色ちゃんがステージの上に無断で上がって来た。しかも、なぜかマイクを持って。


「この方たちはfeliz! 私の……憧れのアイドルさんです。いつかこの人たちに追いつけるように頑張って来ました。名古屋の皆さんの声援はとても暖かいです。その声援を、どうかfelizの皆さんにも向けてあげてください! 東京のアイドルファンに負けていては、アイドル帝国を名乗れませんよ!」


 そう、高らかにマイクパフォーマンスをしてみせたのであった。

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