表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
犬猿アイドル百合営業中  作者: 三色ライト
1章 百合営業作戦編
7/143

7話 楽園の崩壊

 あぁ……楽園だここは。仕事の嫌なことを全部忘れられる。


 といってもここは神聖な学び舎、学校。

 本来なら学生にとって楽園でもなんでもなく、どちらかといえば監獄に近い場所。しかし私にとってはそうではない。なぜならここには薫がいないからな。


 昨日の百合営業作戦の1つ「テーマパークでデート作戦」は成果としては上々だった。まだ記事にはなっていないものの、終わった後にマネージャーから聞いた話によるとそこそこの数の記者が集まっていたようだ。


 成果としては上々……でも、宮野明日香としては最悪の出来だった。仕事モードの薫に振り回されてカッコ悪いところ、恥ずかしいところしか見せられなかった。はっきり言って最悪の仕事だった。


「なんか〜、みやのん萎んでな〜い?」


 前の席に座る友達のイチゴから話しかけられる。イチゴってのはあだ名ではなく本名。親が可愛く育つようにとその名を付けたってこの前教えてもらった。


 その甲斐あってか、実はイチゴはアイドルグループ[フルーツパフェ]のメンバーの一人なのだ。ピンク髪ツインテールの妹キャラといえばイチゴ、と言われるくらいにまで成長した中堅アイドル。私のライバルとも言えるかもな。


 ちなみに同じクラスに2人もアイドルが? と思うかもしれないけど、この大アイドル時代には学年に5人くらいアイドルがいるのは普通のこと。

 だから何ら不思議なことでも奇跡が起こったわけでもないのだ。


「ちょい仕事キツすぎてね。イチゴはそういう日ないの?」

「ないよ☆。私はエブリバディ元気だから〜」


 それを言うならエブリデイ元気だろ。ってか学校でもちゃんとキャラを貫いていてすごいなイチゴは。裏表がない、ある意味では天性のアイドルかもしれない。


「はぁ。羨ましいわ……」

feliz(フェリス)もライブでお客さんいっぱい来たでしょ〜? そっちのが羨ましいよ〜!」


 まぁたしかに同じ中堅アイドルでもフルーツパフェよりはfelizの方が今のところ人気はある。でもマネージャーが言うように伸び悩み期に入っているのだとすればうかうかしてられない。油断しているとすぐに追い抜かれてしまうかもしれないしな。

 だからこそ百合営業を頑張らなきゃって思うと……うわ、頭痛い……。


「あ、そだそだー! 今日ウチのクラスに転校生さんが来るらしいよ〜?」

「は? マジ? 超楽しみじゃん!」


 やっぱりこれよコレコレ! アイドルとはいえまだ高校生。学生らしいことで盛り上がってみたいじゃん?


「しかもその子もアイドルだって〜。クラスに3人目だね〜」


 へぇー、アイドルで転校生か。まぁこの高校は偏差値も低いし、勉強に力を入れているわけではない。だからアイドル活動をする上で障壁になるものが少ないいい環境なんだよな。

 転校生イベント、それも同業者か。イチゴみたいに仲良くなれるといいなぁ。


 しばらくイチゴと駄弁っていたら先生が教室に入ってきた。まぁ当然転校生の噂は教室中に広まっているためざわざわし始めたのは言うまでもない。


「おはよう。今日はみんなに転校生を……って全員知ってる感じだな。どこから漏れたんだ……ったく。まぁいい、入れ」

「失礼します」

 

 凛と堂々とした声。自分に自信を持ってそうな声だな。まぁアイドルにはそういうタイプは結構多いけど。


 スラっとしたモデルみたいな歩き方をする転校生に、クラスのみんなは静かな歓声をあげる。私もそれに感心したあと、転校生の顔を見る。……ッ!


 その転校生の顔を見た瞬間、血の気がサッと引いていくのがわかった。


 長い黒髪、堂々とした表情、言い表すならクールビューティ。その転校生さんは黒板に漢字2文字を書き記す。

 その文字は私にとってそれはもうよく見慣れた2文字だった。


「初めまして。今日からみんなの学友となる泉薫(いずみかおる)だ。知っている人がいたら嬉しいがアイドルだ。これからよろしく」


 自己紹介を客観的に見た感想は「カッコいい」だった。憧れの自己紹介。ただ自分がやれと言われたらまず無理であろう自己紹介の仕方! あんな王子様みたいな自己紹介できるかぁ!


 じゃなくて、何でこの高校に薫が!? アイツめっちゃ頭いい高校通ってたはずだよな……なんでこんな底辺校に……。


 それは後で問い詰めるとしてチラチラと私を見てくるのがウザいのなんの。ちょっとニヤついてるのバレてんだからな?


「ねぇねぇ、あの子felizの子じゃなかった〜?」


 イチゴから当然の質問が飛んでくる。アイドルfelizとしてイチゴと顔を合わせたことはないけど、お互いのグループ事情は調べ合ったりしているからイチゴもfelizのことはある程度把握している。


「そ、そうだけど……」

「え、もしかしてみやのん動揺してる? 知らされてなかったの?」


 いやマジで動揺してるわ。知らされていなかったし、薫がこの高校に転校してくるなんて微塵も思っていなかったわ!


「マジで知らなかった……」


 くそ、アイツどういうつもりなんだ? 私をからかいたいがために転校してくるほどバカじゃないのはわかってるけど、あのニヤケ顔を見るとあながち間違いではないんじゃないかと思ってしまう。


 先生が自己紹介を終えた薫を1番後ろの席に座らせる。私の席から2人挟んだ横の席だ。キリッと厳しい視線を向けるとニコッと笑顔で返された。それはそれでムカつくわ!


 いつもの朝のホームルームがやけに長く感じる。早く終われ! そして薫に問い詰めてやるんだから!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ