63話 真っ赤な小悪魔
さっきまでいたレッスン室に家の鍵を忘れてしまい、取りに来たわけだが……
目の前で繰り広げられたものに対して、頭が混乱してわけわからなくなる。相手のりんごちゃんの方も、固まって動けないといった様子だ。
っていうか、りんごちゃん歌もダンスも超上手いじゃん! 私や薫なんか足元にも及ばないし。歌とダンスに自信がないのかな、なんて思っていた自分が恥ずかしすぎる!
お互いに硬直してからの1分があまりに長く感じた。
先に動いたのは……りんごちゃんだった。
「……どこから見ました?」
「えっと……りんごちゃんが歌って踊りだす頃から」
「つまり、ほぼすべてということですね」
どんどん負のオーラが増していくりんごちゃん。ここは一発、私がいいことを言わないと!
「り、りんごちゃんスゲーじゃん! 歌もダンスも超上手い!」
「……ありがとうございます」
あ、あれ? いつものように恥ずかしがったり照れたりしないぞ。
「明日香さん、このことを誰かに言うつもりはありますか?」
「え? もちろん薫に話したら、今あるfelizとフルーツパフェの問題が解決しそうだから言うつもりだけど……」
「そうですか。残念です」
な、なんかめっちゃキャラ変わってない? こんなにハキハキと話せる子だったの?
「えっと……残念というのは?」
「明日香さんの口を封じる必要がでてきました。明日香さん、このことは秘密でお願いします」
「えっ……」
な、なんで秘密にするんだろう。あんな圧倒的な歌唱力、ダンスを持っているのならそれを前面に押し出してこそのアイドルだと思うんだけど……。
「私が奥手なのは事実です。人と接するのは苦手な方で、よく恐れています。しかし、それ以上にこの実力が漏れることを恐れています。なぜだかわかりますか?」
「さ、さぁ?」
「ふふ。ならいいです。では口封じのために、明日香さんにも秘密を作ってもらいます」
「えっ」
ふと唇に、柔らかいものが当たった。そして耳元で鳴るシャッター音。こ、これは……
「……薫さんとはお付き合いされているんですよね? この写真がもし流出したらどうなるでしょうか。でもご安心ください、明日香さんが秘密を守ってくださる限り、これは私のフォルダの中で封印しておきますから」
「な、な……!」
私とのキス写真が写ったスマートフォンを私に見せるりんごちゃん。
私の目の前にいたのは真っ赤な天使……ではなく、真っ赤な小悪魔だった。