62話 2年前
ーーーー約2年前ーーーー
「今日から君たちは[アップる]として活動をしてもらう。これからよろしく頼むよ」
「「「「「はい!」」」」」
小さな事務所の社長室に集められた私たちは、右も左も分からないままアイドルの道へと入った。
社長に顔見せをして、自己紹介をする間も無く実力を測るための試験が始まった。ここにいる子たちはみんな、社長が良いと思って集めた子たち。ダンスや歌のセンスは未知数だった。
「まず、藤宮子!」
「はい!」
事前に手渡されていたDVDで振付や歌詞は把握しているはず。だからみんな、100点のパフォーマンスができるのは当然のことだと、私は思っていた。
でも……
「うん、まぁまぁだな。次、王林」
「はいアルよー!」
「次、成瀬紅玉」
「格の違いを見せてあげますわ」
「次、小金井詩奈乃」
「頑張っちゃうもんね〜!」
4人のパフォーマンスは、上手い。アイドルとして、これに文句をつけるものは少数の変わり者だけだろう。
でも、変わり者の私から言わせれば、足りない。アイドルは歌って踊れればそれでいいわけじゃない。アイドルが提供するものは、感動とか、希望とかといった、目に見えないものだ。それを表現するのは難しいのはわかっている。でも、私なら……
「最後、華志月りんご」
「……はい」
♪♪♪♪
私なら、その無体物を、まるでそこにあるかのように表現できる、届けられる!
「おおっ……」
「社長、これは……」
「……ッ!」
ここにいる社長にも、マネージャーにも、他のメンバーにも。そして未来のファンにだって届けられる! この、歌と踊りを通した感動を!
「決まり、だな」
「えっ?」
「君がアップるのリーダーとなるのだ、華志月りんごくん。君こそトップアイドルを束ねるのにふさわしい」
「そ、そんな! 私がリーダーだなんて……」
そんなつもりでやったわけではない。どちらかといえば奥手な私が、ステージでしかイキイキとできない私がリーダーだなんて……
しかし、他のメンバーからの反対の声はなかった。紅玉さんは反対しそうなイメージがあったけど、そうでもないみたい。
それから数日が経ち、私たちの情報もそろそろホームページに載ると言う時、事件は起きた。
レッスン後、私以外がバテてしまい、クールダウンの時間になる。
「……マネージャー、私、アップる辞めます」
「……私もデス」
「わたくしもですわ」
「私も、かな」
「「えっ」」
私以外のメンバーが皆、アップるを辞めると告げた。
「な、なぜ!? 今から頑張っていこうってときに!」
「悔しいけど、私たちの力ではりんごに追いつくことなんて不可能だわ」
他のメンバーも口々に私に迷惑がかかるからと、辞める意思を告げた。
「ちょ、ちょっと1日落ち着いて考えてくれ、さ、今日は解散!」
無理矢理マネージャーが締めて、解散となった。私は理解してる。きっとこのまま4人は辞める。なら……
「マネージャー、お話があります」
◆
それから、1年後。
私は毎週のように事務所に足を運んでいた……といっても、事務所の玄関前にだけど。
アップるの面々とは顔を合わせたくは無い。彼女たちはもう中堅アイドルの中でも抜けている存在だ。私の居場所は、もうそこにはない。
今日もこのまま帰ろう、そう思った時だった。
「あーーーー! あなたもアイドルになりたいの? そうよね! そうに決まってるわ!」
「えっ……」
突然オレンジ色の髪の毛の少女に話しかけられた。
「それなら私のチームに入りなさいよ。トップアイドル間違いなしっ! いっくわよ〜!」
「ちょ……え? えぇっ!?」
こうして私は無理矢理フルーツパフェのメンバーとなった。ここは居心地が良いし、何よりやっとできた私の居場所だ。ここを失いたく無い。だから……
「私はもう、全力で歌ったり踊ったりなんてできない……」