61話 真の実力
「ムカつくムカつくムカつくーーーー!」
地下一階のレッスン室にみかんちゃんの声が響く。
「まぁまぁ、落ち着いて〜」
「いつまでも揉めていても仕方ないよ、みかんちゃん」
そんなみかんちゃんの背中をさすって、イチゴちゃんとメロンちゃんが宥めていた。それを私は……ただ一人レッスン室の端でポツンと立って見守っている。
「りんご! 悔しくないの? あんなこと言われて!」
突然話を振られて……って、まぁいつものことなんだけど、とりあえず緊張して固まってしまう。
「え、えっと……本当のことだから……」
私が足を引っ張っているのは明白だ。明日香さんはそんな私の背中を押してくれようとした。でも私はそれに応えられていない。
そして私は薫さんとフルーツパフェとの間の軋轢よりもずっと気になっていることがあった。
そう、風の噂によると今日は事務所にアップるがいるという。当然のことだけど、彼女たちは私の真実を知っている。顔を合わせたくはない。
思い詰めている私の頬を、優しくみかんちゃんの手が叩いた。
「いい? りんごは私が負けを認めるくらい可愛いの! あとは自信だけ! それだけなんだから!」
「う……うん」
1年近く同じやりとりをしてきた。それでも私は変わることができなかった。ずっと私は、恐れている。
時が流れ、あれだけ元気だったみかんちゃんも日本の夏に負け、解散することになった。
「それじゃあまた明日! りんご、明日こそ見返してやるわよ!」
「う、うん……」
「まぁリラックスしてね〜」
「お疲れ様でした」
事務所を出て散り散りになっていく。今日も私はロクに踊り、歌を練習することができなかった。
そんな私が足を運ぶのは、先ほどまでいた地下一階のレッスン室ではなく、その下、人気のない地下二階のレッスン室。ここなら滅多に人は来ない。
コソコソと隠れるようにレッスン室へと入っていった。
スマートフォンの音量をMAXに上げ、音源を用意する。
音楽が流れるまでの10秒を、肌で歓声を感じるようにイメージした。
♪♪♪♪♪
『I want you♡ 世界の真ん中にハートを散りばめ〜♪ てんこ盛りフルーツで、愛を……トッピングするの♪』
私たち、フルーツパフェの歌を全力で踊り、全力で歌う。
そう、私はさっきまでのダメダメアイドルのりんごじゃない。ここにいるのは、アップるの元リーダー。世界最高のアイドル候補、華志月りんごだ!
ノリに乗ったその時、ガチャっとドアが開いた音がした。
なぜかその瞬間にはヤバいと思わず、ただただ体が硬直してしまった。ドアを開けた主は……
「えっ……りんごちゃん、マジ?」
私を勇気づけようとした、明日香さんだった。




