43話 ライブ会場
小会議室に8人が座っている。
これは珍しいことで、普段は私と薫、マネージャーの3人だけだからかなり人口密度が上がったように感じた。
部屋のドアから見て薫、私、イチゴ、みかんちゃん、りんごちゃん、メロンちゃん。そして向かい側に私たちのマネージャーと[フルーツパフェ]のマネージャーが座っている。
felizが結成してからあとひと月で1周年だから、何かそれ関係の話し合いをするのかと思ったけど、どうなんだろうか。
「と、いうわけであなた達に集まってもらったのは他でもないわ」
私たちのマネージャーが口を開いた瞬間、こっちサイドで手が上がった。オレンジ色の髪にツーサイドアップ、そして自信家がうかがえる表情を見せたみかんちゃんだ。
「当ててあげるわ! 合同ライブでしょ」
みかんちゃんは腕を組んで鼻息を荒くした。隣に座るりんごちゃんがささやかに拍手を送る。
「正解よ。正確にはこれね」
マネージャーから2枚の紙を渡された。なになに……
『feliz&フルーツパフェ、結成1周年合同ライブ』
「えっ!? 1周年ライブを合同でやるのか!?」
字を追った瞬間に驚きのあまり立ち上がってしまった。
1周年のライブなんだから、新曲も織り交ぜつつ、自分たちのファンだけと特別な時間を過ごす……のだと勝手に思っていた。
「ふむ、これは予想外だったね。確かにフルーツパフェさんと私たちは同期だけど、大事な周年ライブを合同にして大丈夫なのかい?」
「それについては心配ありません。むしろメリットの方が大きいと思いますよ」
これまで沈黙を守っていたフルーツパフェのマネージャーがついに口を開いた。声を聞いたの、初めてかも。
「というと?」
「felizさんのファンは男女比4:6。対してフルーツパフェの男女比は9:1です。フルーツパフェにとっては女性ファンを増やすことに、felizさんにとっては男性ファンを増やすことに繋がります」
「でも私たちとfelizのファン、両方が入る箱なんて用意できたわけ?」
箱というのは、要するにライブの会場のこと。当然だけど、武道館とかの有名どころは私たちなんかでは使えない。[アップる]レベルにならないと不可能だな。
「まぁそれは2枚目を見てみなさい」
かなり自信満々に言うウチのマネージャー。これだけの自信があるということは、1万人は入る箱を用意できたとか?
「えっと……場所、『豊田スタジアム』」
「どこよそれ!」
「し、失礼だよみかんちゃん!」
ストレートに思いをぶつけたみかんちゃんと、それを宥めるメロンちゃん。なんかいいなそういうの。私たちもやりたい……。
「愛知県豊田市にあるスタジアムよ。流石に東京で2グループ合同でライブできるような箱は用意できなかったわ」
「まぁ別にいいんじゃね? 愛知……名古屋もかなりの都会だし」
「……豊田スタジアムは名古屋駅から1時間ほどかかるけど……」
ボソッと呟いたマネージャーの言葉は聞こえなかった。聞き返そうか迷ったけど、まぁいっかとスルーする。
「それでそれで〜? 豊田スタジアムってキャパ何人なの〜?」
イチゴが核心を突く質問をした。そう、大事なのはそこだ。どれだけのファンが入れるか、それが大事だ。
ちなみに私の希望を言えばお互いのファン7500人ずつ入れる15000人キャパ。さぁ、どうなる!
「あぁ、約44000席よ」
「「「「「「えっ……ええええっ!?」」」」」」
この瞬間、felizとフルーツパフェの垣根を超えた絶叫が鳴り響いた。




