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犬猿アイドル百合営業中  作者: 三色ライト
1章 百合営業作戦編
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39話 清水の舞台で

 そこからの薫は息を吹き返したようにやる気に満ちていた。道行く人に声をかけ、自分たちを少しでも多くの人たちに知ってもらおうと頑張っていた。それはいいことなんだけど……私にはそんな薫がどこか寂しげに見えた。


 それは次の観光地である伏見稲荷大社でも同じ。こっちは外国人観光客が多いから、薫は英語で対応している。私の出る幕はないからより一層薫の寂しげな表情が見て取れた。たくさんの赤い鳥居に感動する外国人観光客には申し訳ないけどちょっと開けたところで私たちのアピールをする。


 私は完全に戦力外になってしまったので開けた場所の端っこへ移動。視界の端に興味深いものが映った。近づいてみるとおもかる石と書かれているとわかる。なになに……願い事を思いながらこの石を持ち上げて重かったら叶わない、軽かったら叶うと。やってみるか。願い事は……薫と仲直りできますように!


 心の中で念じながら石を持ち上げてみると思ったより重たかった。叶わないってことなのか? ……違う。きっとこれは神様に頼ろうとした罰だ。

 きっと神様は私にやるべきことをちゃんとやれって伝えてくれたんだ! そのやるべきことは……なんとなくわかっている。自分の心に問いかければ答えが返ってくる。


「お疲れ様ー! 最後、清水寺行くわよー!」


 マネージャーからそんな声をかけられた。よし……次の清水寺で、私はやるべきことをやるんだ! そして薫と仲直りしてやる! 別に喧嘩したわけじゃないから変な言い回しかもしれないけどな。


 タクシーに乗り込み、決戦の地、清水寺へ! お土産屋さんが立ち並ぶ通りを手を繋いで歩いていく。今まで行ったどこよりも観光客で溢れているこの通りは確かに宣伝効果がありそうだ。


 実際チラチラと視線を感じる。声をかけてこないってことはたぶんファンの人ではない。そういう私たちのことを知らない人たちに向けて宣伝するのが今回の目的だからそれでいい。ファンに囲まれるより、無関心層に少しでも関心を持ってもらうことが重要だな。


「視線を感じるね」

「お、おう」


 びっくりした……ずっと会話してなかったのに突然声をかけてきたぞ。何か心境に変化でもあったのか? でもそれをわざわざ聞くのもまたダメな気がする。


 マネージャーの方を見ると寺の方まで行けというサインっぽいことをしていた。じゃあ……私がやるべきことをするのはあそこでよさそうだな。シチュエーション的にはピッタリだろ。緊張してきたけど。


 あそことはもちろん、清水の舞台! 定番中の定番。もはや説明不要の観光スポットだろう。あそこで私が心に秘めているこの感情を言葉にすれば……きっと薫は元に戻ってくれるはずだ。


 ただ思っていたよりずっと人で溢れかえっている。夏休みに来たんだから当然といえば当然なんだけど、限度ってものがあるだろ。舞台に上がるための列なんて初めて見たぞ。


「やはりすごい人だね。引き返そうか?」


 なっ! ここで引き返したらせっかく振り絞ろうとしている勇気が無駄になってしまう。それだけは避けないと。たぶんこれ以上の勇気が湧いてくる機会なんて今後一切ない。だって今は半ばヤケになっているようなものだし。この無敵モードを無駄にするわけにはいかない!


「い、いや待とうよ。清水の舞台がメインなわけだしさ」


 もちろん清水の舞台がメインだというのは今作った話。今までそんな話は一度も出たことがない。私の貧相な語彙ではこれくらいしか大義名分が出てこなかったんだよ……。


「まぁ、明日香がいいならいいけど」


 なんだか薫の声で呼ばれる「明日香」が久し振りに感じた。やっぱりこんなのがずっと続くなんて嫌だ。言い合いをしていても、煽られても、薫はずっと薫でいてほしい。こんな気まずい関係、とっとと終わらせたい!


 一歩、また一歩と舞台へ近づいていく。心臓の高鳴りは最高潮に。ヤケになっているとはいえ緊張するものは緊張するみたいだ。

 自分の心の中の感情を言葉にする。

 ただそれだけのことでこんなに緊張するだなんて思ってもいなかった。

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