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犬猿アイドル百合営業中  作者: 三色ライト
1章 百合営業作戦編
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38話 ファンのために

 その後も薫とは必要以上の会話をすることはないまま身支度をし、タクシーに乗り込んで2日目最初の観光名所へ。


「マネージャー、まずはどこに行くの?」

「最初は平等院鳳凰堂よ」


 あぁ、10円玉のやつか。それくらいの知識しかないけど。

 タクシー移動で約40分。宇治市ってところに到着。宇治抹茶の宇治か? なんて考えながらタクシーから町並みを見ると抹茶のお店がたくさん立ち並んでいた。どうやら正解だったみたい。


「はい、到着ね。ここには外国人観光客と日本人観光客が半々くらいでいるから、両方を意識した行動をすること。いいわね?」

「はーい」

「……あぁ」


 明らかにテンションの低い返事をした薫。雰囲気も怖くてタクシーの中では一言も言葉を交わせなかった。


「ほら! どうしたの? 手を繋いでさっさと歩いて!」


 マネージャーがパンパンパンと手を叩いて私たちを急かす。手を繋ぐことなんて最近では当たり前になっていた。でも今この状況で繋ぐとなると……また百合営業初日に戻った気分だ。


「……ほれ、手」


 我ながらふてぶてしく手を出したものだと思う。でもこれ以外できなかったんだよ!

 薫には悪いけどこの姿勢を貫こうと思う。私にだって引くに引けない時はある!


 私の手を見ても眉ひとつ動かさない薫は静かに手を伸ばし、私の手を握った。すごいな……どんな状況でもやるべきことはしっかりやるんだな。流石のプロ意識だ。

 手を繋いだまま平等院に入る。まず横から鳳凰堂が見れたため10円玉のイメージしかない私としては少し新鮮だった。

 当然ながら正面から鳳凰堂を見られる位置にたくさんの観光客がいる。そこに行かずしてどこへ行くというのか。


「ほれ、向こう行くぞ」

「……うん」


 なんか子どもを引き連れている気分だな。しかも拗ねモードの子どもだ。まぁそうさせてしまったのは私なんだけど。


「おぉ〜、10円だ〜」


 正面から鳳凰堂を見た感想はやっぱりこれだった。むしろこれ以外の感想が出る人はいるのだろうか。いつもならここで薫の小言が挟まるんだけど何も言ってこない。


 会話を膨らませることもできないとなると私たちがアイドルのfelizだってことを周りに知らせることも難しくなる。遠くの方でマネージャーが明らかに焦っている様子なのが見れた。これは私から動くしかなさそうだな。


「ど、どうだ薫。何か感想は……」


 なんだよそのヘンテコな質問は! 自分で自分に驚いたぞ!


「別に。いつも見ている10円玉じゃないか」


 ぐっ……なんて冷めた返答を。これじゃあ話の膨らませようがない。こうなったらもう私にできることはないと早々に諦めるが吉だ。もう……ファンが現れてくれることを神頼みするしかない! よく見たら鳳凰堂の中に大仏様っぽいのがあるし。祈っておけば何かいいことが起こるだろ。


「あの〜、もしかしてfelizのお二人ですか?」


 き、キター! ありがとう神様! ……あれ? 大仏様がいるってことは神様じゃなくて仏様なのか? まぁそんな細かいことはどうでもいいか。


「はいそうです! 私たちがfelizです!」


 興奮のあまり翻訳アプリを使った日本語みたいになってしまった。普段ならここにも突っかかってくる薫だけど、やはり今日はそのまま流された。


「私、お二人のファンなんです! サインいいですか?」

「もちろん! どこにするー?」


 普通に嬉しくなってきた私はノリノリでサインに応じる。スマホの裏に書いて欲しいと言われたからサインしたけど高いものにサインする時ってちょっと緊張するんだよな……。


「か、薫さんも!」

「あぁ。いいよ」


 ちょっと表情が和らいだ気がする。やっぱりファンとの交流が一番なんだな。私のサインの横にしっかりとサインを書き記した。


「ミュージックビデオ、最高でした! 次のライブも絶対に行きますね!」

「うん! ありがとね」

「その応援が嬉しいよ」


 バイバーイと手を振ってファンの子と別れる。さて、頼みの綱であるファンの子がいなくなってしまったけどどうなるか……。


「な、なぁ。そろそろしっかりと百合営業しないか?」

「そうだね。あぁいう子のためにも私がもっと頑張らないとだね」

「薫……」


 何か覚悟を決めたような表情の薫。自分一人で背負おうとしているような気がして、一瞬口を挟もうかと思った。でも……その覚悟を無視するようなことはしたくないと思ってギリギリで踏みとどまる。

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