34話 デザート
ありがとう……しゃぶしゃぶ。私、頑張ってきて良かったって1番強く思えたかも。
「美味しいものを食べている明日香の顔、可愛いね」
薫がそんなことを言ってきた。個室だし別に百合営業をする必要はないのに。なんでこんなリラックスタイムでも頑張ろとするんだ? プロ意識を超えた何かだろそれ。
「薫だって口角上がって、いつもよりいい顔だぞ」
「それならば嬉しいね。私の顔をさらなる高みへ連れて行ってくれる料理か」
なんかあれだな、自信家もここまでのレベルになるとただの中二病だな。自信がなくておどおどした薫を見たいかと言われたらそうでもないけど。
「はぁ〜、こんな美味しいもの食べたらもう戻れないわよ。あなた達が早くビックになって月一くらいで食べられるようにしてちょうだいね?」
「はは、じゃあビックになれるような成果に期待だね」
「ビックになればこれが月一で……私、めっちゃ頑張る!」
べ、別に美味しいご飯のためだけに頑張るわけじゃないんだからな? ただ美味しいご飯はモチベーションの一つになるって気がついただけで……。
勝手に心の中で弁明をしているうちにメインのしゃぶしゃぶが食べ終わり、デザートタイムに。薫は柚子のシャーベットを、マネージャーはわらび餅を、私はさんざん悩んだ挙句いちごプリンを選んだ。
デザートを頼み終わり、着物の女性店員が襖を閉じて外へ行ったことを確認すると薫が隣でニヤついているのがわかった。
「な、なんだよ」
「いや別に。ただ……可愛いものを注文するなと思ってね」
「なっ! い、いいだろ別にいちごプリンで! 美味しいんだからさ」
「悪いとは言ってないよ? むしろ可愛いと褒めているじゃないか」
その薫の褒めは言葉だけ。絶対内心ではバカにしているぞコイツ。まぁ思ったよ? ちょっと子どもっぽいかなって。でもこういう高級なお店でいちごプリンが用意されていたらどれ程のものが出てくるのか気になるじゃん!
しばらく待っていたらデザートが3人分同時に運ばれてきた。薫の柚子シャーベットは薄黄色の輝きを放っていた。神々しいシャーベットなんて初めて見たぞ。マネージャーのわらび餅も黒蜜がキラキラと輝いている。金箔が使われているんだ! すげぇな。そして私のいちごプリンは……普通。薄ピンク色のプリンって感じで、2人のように特別感がない。
「い、いただきます」
スプーンをゆっくりと差し込んでみる。なぜかマネージャーも薫も私のいちごプリンを見てくるから緊張するな。
持ち上げてみた感じも別に普通。スーパーで3個入り98円とかで売られていても疑問に思わないくらいの見た目だ。本当にこんな高級店で出るほどのものなのか?
いやいや、肝心なのは味だ。見た目は安っぽくても味に大きな宝石を秘めているかもしれない! いざ、いちごプリンの世界へ!
恐る恐るスプーンを口へと運ぶ。口の中へいちごプリンがつるんと入ってきたのを感じた、その瞬間だった。
「お、おぉ!?」
思わず声が出るほど驚いてしまった。何に驚いたかというと、その苺の味の濃さ。たったのひと口で濃厚過ぎる苺の甘さが一気に口中に広がっていく。
「美味しいのかい? 明日香」
「めっちゃ美味しい!」
スーパーで3個入り98円なんて失礼なことを言ってしまった。こんな濃厚な味が爆発するプリンはスーパーには出回らないだろう。
いちごプリンもペロリと食べてしまった。間違いなく人生で一番美味しい食事だった……。これが後にも先にもと付かないようにこれから頑張らないとな。
「な、なぁマネージャー。ここ……本来3人でいくらするわけ?」
ふと気になったので質問してみる。今回私たちはお食事券で食べられているから値段は知ることはないだろう。
「私も気になるね。あまり品のいい質問ではないけど」
「内緒よ。きっともう一度、今度は自分のお金でって思っているのでしょう? やめておきなさい。絶望するだけだから……」
な、何それ怖い! ってことは相当高いってことだよな……。しゃぶしゃぶの食べ放題で大体3000円くらい……まさか10倍とか? そんなわけないよな? な?
お腹はいっぱい、心は大満足。そんなホクホクした気持ちでお店を出て、タクシーに乗り込み今日泊まるホテルへ向かう。ホテルもいい部屋かなと思ったけど流石にそれは高望みしすぎだよな。