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犬猿アイドル百合営業中  作者: 三色ライト
1章 百合営業作戦編
32/143

32話 明日香の歌

「な、何だよ……私がどうかしたのか?」

「あぁ。直接アピールするのには明日香の歌がベストだと思ってね」


 う、歌ぁ!? まさかここで歌えってのか?

 困惑と動揺を感じ取ったのかすぐに薫は言葉を紡いでくる。


「もちろん音源付きではないよ。静かに寺院を楽しみたい人もいるだろうし、その人達の邪魔をするのは本意ではないからね。あくまでアカペラでさ」

「な、何で私だけなんだよ!」


 felizでまだ1曲丸々ソロの歌なんて出てないぞ? それで私だけが歌えって言われてもどうしようもないだろ。


「アカペラでも2人が歌うと迷惑だろう? 声量を最低限にするためだよ。それに、悔しいけど歌は私より明日香の方が上手いと思っている」


 なっ……そんな風に思っていたのか。私としては何もかもが薫には勝てていない。薫のおかげでfelizは中堅アイドルにまでなれたとすら思っていたのに。

 歌……歌は私の方が上手い。なら!


「よ、よし。やってやる!」

「うん、頼んだよ、明日香。歌はせっかくミュージックビデオも作ったことだし、『幸せのメロディ』にしようか」


 よし、「幸せのメロディ」なら自分でも得意な方だと思っている。イチゴと高校帰りに行ったカラオケでも95点だったし。

 スゥーっと息を吸って、吐く。人前で歌うという気持ちを作っていない状態でいきなり歌えと言われると、それなりに緊張するものなんだな。


「幸せのメロディ」はサビから始まる曲。だから気持ちを少しずつ高めていこう。もしかしたら私のこのアカペラでの歌に感動してファンになってくれる人がいるかもしれない。そう思うと胸が熱くなってくる。私の歌がfelizをもっと上へと連れて行くんだ!

 緊張を興奮に変えて、息を吸い込む!


「夢に乗せるのは幸せのメロディ 鳥達が運んで来た 夢はいつか 叶うものって歌ってる」


 アカペラで、想いを乗せながら歌う。当然歌っているのは本人だから周りから下手くそだなという反応はない。

 やっぱり私、薫の言う通り歌が上手いのか? ちょっと自信持っていいのか?


 薫のお墨付きだと思うと、何だか不思議と勇気が湧いてくる。サビを歌いきる頃には周りの人はみんな私の方を見ていた。これほど視線を感じるのはライブの日以来。そもそも私はこの視線を浴びたくて、アイドルになったんだ。緊張している場合じゃない!


「明日はどこへ行こうだなんて 未来のことばかり考えていたら 現在いるこの時に失礼じゃない? 形にできないものを尊ぶ 心に余裕が生まれたなら 手を繋いでさぁ行こうよあの海へ きっと世界は1つになるから」


 こんな状況でも楽しく歌えている自分にびっくりしている。周りの人たちはどんどん集まってくるし、中にはスマホで撮影する人だっている。それほどの価値があるんだって、今はプラスに考えられる。だって薫に……あの薫に褒められたんだから!


「夢に乗せるのは幸せのメロディ 鳥達が運んで来た 夢はいつか 叶うものって歌ってる 信じているのは幸せのメロディ 私たちが望んでいた 愛はいつか 手に入るって信じてる」


 次のサビに入る頃には、軽く振り付けを踊るくらいの余裕も出てきた。

 歌い終わると周りにいた人たちから拍手が送られる。なんか……いいな、こういうのって。自分のデビュー曲を観光地でアカペラで歌ったら私たちのことを知らない人たちも集められる。そのことは今後の自信になりそうだ。

 外国人の観客なんてチップはどこにおけばいい? って日本語で薫に尋ねてるし。そういうつもりでやったんじゃないからもちろん受け取らないけどな。


「お疲れ様、明日香。いいアカペラだったよ」

「へへ……ありがとな」


 私が歌えたのは間違いなく薫のおかげだ。薫が背中を押してくれなかったら絶対にアカペラで人前で歌うなんて無理だった。


 成果はどうなるかわからないけど、確かな手ごたえはある。薫も集まってくれた人たちにfelizのことを紹介したり、DoTubeのチャンネルやファンクラブのことを説明したりしている。もしかしたらこの中から私のアカペラライブでファンになったって人が現れるかもしれないと思うと胸が熱くなる。


「ふぅ、お疲れ様」

「あ、マネージャー」


 今までどこにいたんだろ。人混みができてたから姿が見えなかったんだよな。


「まったく……突然何の相談もなしに始めるから何事かと思ったわよ」

「悪かったねマネージャー。でも上手くいっただろう?」


 マネージャーと相談してやったわけじゃなかったのかよ。完全に薫の独断でやってたんだ……。すごい決断力というか肝が座っているというか。


「そうね。明日香が歌が上手いのは前々から思ってたけどよくやってくれたわ」

「思ってたなら言ってくれよな。褒めて伸びるタイプなんだから」

「そうかい? 明日香は褒めると調子に乗りそうなタイプに見えるよ?」


 ぐっ……ま、まぁ否定はできないな。ぶっちゃけ調子に乗ったからこそ歌いきることができた側面もあるだろうし。


「なんだか百合営業とは関係ないけど注目は集められたしいいでしょう。今日はこれで終わり。明日は清水寺、平等院鳳凰堂、伏見稲荷大社に行くからちゃんと百合百合するのよ?」

「はーい」

「了解」


 まだ暗くなってないけどもう終わりか。今日はあとは何するんだろ……。

 ……と疑問に思っていたけどマネージャーがまたタクシーを呼んで乗り込む。今度はどこへ行く気だ?

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