31話 銀閣!
ひと通りぐるっと金閣を見て回ってマネージャーのところへ戻る。
予想していたより外国人から声をかけられることはなく、会話は私達から行った子ども達との会話のみ。外国人のファンがたくさん増えるかなと期待していたけど現実はそう優しくはないようだ。
「お疲れ様。見ていたけどあんまり芳しくはないわね」
「次はどこ行くの?」
「次は銀閣よ」
へぇ銀閣……修学旅行では行かなかったな。知っている情報といえば銀閣なのに銀色ではないということくらい。
そんな銀閣を目指してタクシーで移動。だんだんと金額が大きくなっていく料金メーターをハラハラしながら見ていたら薫にちょっと笑われた。
「やっぱり面白いね、明日香は」
「な、なんだよ。仕方ないだろ庶民なんだから……」
そりゃいつかはタクシーの料金くらいでハラハラしないで済むようなトップアイドルになりたいけど。今はだんだんと上がっていく数字にビクビクするのは仕方のないことだろう。
タクシーに乗ることおよそ20分。慈照寺って立て看板のある場所に到着した。今度は恥をかかないぞ。さっきの金閣から察するに、この慈照寺の中に銀閣があるんだな。これは成長の証だろ。ドヤ!
「何を考えているのかわかっているよ明日香。お見通しだ」
私を見ながらニヤニヤしているであろう薫。心でも読む能力でもあるのかコイツは。そんなのあったら今の私のモヤモヤも全部把握していることになるよな。そんな恥ずかしいこと知られたらもう薫の横で生きていけない……。
タクシーを降りてまず気がついたのは客の少なさ。あまりに金閣に比べて少なすぎる。こんなところで売り込みをしても意味あるのか?
「なぁマネージャー……」
「言いたいことはわかるわよ。でもこういうところでやるのも大事なの。みんなが行く金閣とは違ってここには本当の日本通の人も多い。つまり日本文化が好き、すなわちアイドルが好きな人がいる確率が高いのよ!」
な、なるほど。すべては線で繋がっているってことなんだな。よくわからないけど。
「マネージャーの言う通りだよ。言い方は悪いけどここには通ぶりたい人が多いんだ。つまりトップアイドルよりも名の知れないアイドルが好きと言いたい人もいる。その人たちにとってfelizは現状ちょうどいいラインにいると言えるからね」
それはそれで銀閣に失礼なんじゃないか? とも思うんだけど。そんなに言われてかわいそうな銀閣。私が魅力を見つけてやるからな!
……と意気込んで来たものの、はっきり言ってしまえば、地味。好きな人は好きなんだろうな。よくわからんけど侘び寂びってやつだろ?
「金閣の後に来るところじゃないな……」
「私は銀閣の方が好きだけどね」
「へぇ〜、意外だな」
自分には美しい金閣こそ似合うとか言いそうなのに。意外と謙虚なところもあるんじゃん。ちょっと見直した。
「あえて派手さを出さずにクールでいるところがクールビューティである私にピッタリだね。そうは思わないかい?」
……前言撤回。やっぱりコイツはどこまで行ってもコイツだ。
さて本当にマネージャーや薫の読み通り私たちに興味を持ってくれる人はいるのかね? わかりやすいTシャツも着てるんだから最低でも5人くらいには話しかけられたい。なんて思っていたら……
「ヘイ! ジャパニーズアイドル!」
き、来た! 京都に来て初めて外国人の方から話しかけてきたぞ。見た目的にはアジア人という感じではない。ちょっとぽっちゃりした男性とヒョロっとした男性。何人かは私にはわからないし話せないから薫の後ろにサッと隠れた。我ながら情けない……。
ペラペラ英語で話してくる外国人に対して薫も英語で対応する。私の貧相な英語力で聞き取れたのは「アイドル」と「キュート」だけ。褒められているのは表情とかからでもわかるけど結局何について話しているのかはわからない。まぁ薫に任せておけば何とかなるっしょ。
しばらく話し込んだ後「サンキュー」と聞こえた。終わったのかな?
「ど、どうだった?」
「良い感触だったよ。私たちのDoTubeも登録してくれた」
すげ〜。こんな短時間で、しかも英語でコミュニケーションを取って成果をあげたのかよ。やっぱりかっこいいなコイツは。って意識したら心臓がキュッとしてきた。やばいやばい。静まれっての!
「こうやって地道にコツコツとファンを増やすのもいいけど、そろそろ爆発的な効果が欲しくなってきたね」
「爆発的な効果って、そんな魔法みたいなものあるのか?」
そう聞いたら薫の口角が少し上がった気がした。まともに顔は見れないからたぶんでしかないけど、ロクなことは起こらない気がするにやけ方だ。
「言ったろう? ここには通ぶりたい人が集まってると。ならここでTシャツだけでなく直接アピールをするんだ。まだ売り出し途中のアイドルがここにいるよって。もちろん外国人だけじゃなく日本人に対してもね」
「直接アピールってのはわかったけど、具体的には?」
「それはもちろん……」
薫が指差したのは、私。……え? 私?